↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第三部 文明発展編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
143/205

第142話 第一回世界会議

 ネバランド帝国との友好条約締結。


 それは世界の勢力図を大きく塗り替える出来事だった。


 そして。


 条約締結から数日後。


 ユージア国中央会議場。


 史上初となる世界規模の会議が開催されようとしていた。


 参加国は五つ。


 王国。


 聖王国。


 魔王国。


 ネバランド帝国。


 そしてユージア国。


 後に歴史家たちは、この五カ国による協議体をこう呼ぶことになる。


 ――G5。


 世界秩序の礎となった組織である。


 もっとも。


 当事者たちはそんな大層なことを考えてはいなかった。


「では議長のユージさま」


 ナーチャンが微笑む。


「開会を宣言してください」


 ユージは嫌そうな顔をした。


「なんで俺が議長なんだよ」


「向いてないんだよ」


「今さら往生際が悪いです」


 ナーチャンは即答した。


「皆、注目して待ち構えていますよ」


 ユージは会場を見回した。


 各国の首脳陣。


 重臣たち。


 護衛たち。


 そして。


 会場の天井付近には、見慣れない魔導装置がいくつも浮かんでいる。


 嫌な予感がした。


「ちなみに」


 ナーチャンはさらりと言った。


「この会議の映像は全世界に生配信されています」


 沈黙。


「生配信です」


「生配信……」


 ユージはすべてを悟った。


 勢いよく振り返る。


「リシュン!」


「またお前余計なもん作ったな!」


 当の本人は口笛を吹いていた。


 わざとらしく目線まで逸らしている。


 どう見ても犯人だった。


「いやあ」


「せっかくの歴史的瞬間だし?」


「世界中の人に見てもらった方が盛り上がるかなって」


「お前なあ!」


 ユージは頭を抱えた。


「いつもいつも!」


「何余計なことしてくれちゃってるんだお前は!」


「大丈夫!」


 リシュンは親指を立てた。


「画質も音質も最高だ!」


「そういう問題じゃねえ!」


 会場のあちこちから笑い声が漏れる。


 ペーターは肩を震わせ。


 ベックは豪快に笑い。


 ウインドは苦笑。


 マイヤンは机を叩いている。


 サムは頭を押さえていた。


 枢機卿ですら口元を緩めている。


「ユージさま」


 ナーチャンが静かに告げた。


「全世界が見ています」


「……」


「どうぞ」


 逃げ道は無かった。


 ユージは深々とため息を吐く。


 そして壇上へ立った。


 会場が静まり返る。


 中継装置の向こうでは、世界中の人々が耳を傾けていた。


「あー」


 咳払い。


「本日は晴天なり」


「本日は晴天なり」


 しーん。


 誰も反応しない。


「えっと」


「訳あって国王なんかやってるので」


「仕方なく議長を務めさせていただく」


「ユージア国のユージだ」


 マイヤンが吹き出した。


 ペーターも笑いを堪えている。


 ユージは気にせず続ける。


「本日はお日柄も良く」


「ご多忙中のところお集まりいただき――」


「ユージさま」


 ナーチャンが即座に遮った。


「前置きは良いので早く本題に移ってください」


 沈黙。


 ユージは困った顔でナーチャンを見る。


 ナーチャンはにこやかだった。


 全く助ける気が無い。


 そして。


 会場がどっと笑いに包まれた。


 ペーターは肩を震わせ。


 ベックは豪快に笑い。


 マイヤンは涙を流している。


 サムは苦笑。


 枢機卿ですら小さく笑っていた。


「ひどくない?」


 ユージがぼやく。


「議長なんですけど、俺」


「だからです」


 ナーチャンは微笑んだ。


「皆さまを待たせないでください」


「はいはい」


 ユージはため息を吐く。


 そして。


 少しだけ表情を引き締めた。


 会場を見渡す。


 王国。


 聖王国。


 魔王国。


 ネバランド帝国。


 そしてユージア国。


 かつて争った者たちが、今は同じテーブルを囲んでいる。


「俺は」


「別の世界から」


 マイヤンを指差した。


「あそこにいる我儘王女に召喚されて来た」


「誰が我儘よ!」


「お前だよ」


 即座に返す。


 再び笑いが起きた。


 ユージは気にしない。


「元の世界では」


「国と国が競争していた」


「豊かな国もあった」


「貧しい国もあった」


「幸せな人もいた」


「苦しんでいる人もいた」


 少しだけ目を伏せる。


「俺は」


「そんな世界が嫌いだった」


 会場が静かになる。


「貴族も平民も」


「年寄りも子供も」


「男も女も」


「どこの国の人間も」


 一人一人を見るように視線を動かした。


「みんな笑って暮らせる世界が俺は好きだ」


 誰も口を挟まない。


「だから」


「この世界会議では」


「そんな世界に少しでも近づけるよう」


「皆で話し合っていきたいと思っている」


 そして。


 リシュンの中継装置へ目を向けた。


「そして」


「この放送を見ている全ての人に伝えたい」


 少し照れ臭そうに笑う。


「俺たちは」


「皆が笑って暮らせる世界を作りたい」


「そのためにここへ集まった」


 深く息を吸う。


「ここに」


 一拍。


「第一回世界会議を開催する!」


 拍手。


 拍手。


 拍手。


 会場が大きな拍手に包まれた。


 こうして。


 後にG5と呼ばれることになる世界初の国際協調組織が産声を上げた。



 会議は予想以上に順調だった。


 国際航路の整備。


 魔物災害時の相互支援。


 技術者交流。


 交易路の保護。


 関税の見直し。


 各国が抱える問題と、その解決策が次々と議論されていく。


 激しい意見交換もあった。


 だが。


 誰も席を立たない。


 誰も剣を抜かない。


 それだけで歴史的だった。


 やがて。


 予定されていた議題も終盤へ差し掛かる。


 ペーターは満足そうに頷いた。


「有意義な会議だったな」


「まったくですな」


 枢機卿も同意する。


「世界は良い方向へ向かうでしょう」


「利益計算上も悪くありません」


 サムが眼鏡を押し上げた。


「退屈だった」


 マイヤンが頬杖をつく。


「お前は黙ってろ」


 ユージが即座に突っ込む。


 その時だった。


 シュタインが立ち上がった。


 嫌な予感がした。


「最後に一つ」


 シュタインが言う。


 会場の空気が変わる。


「製鉄技術について質問があります」


 その瞬間。


 マイヤンが身を乗り出した。


 サムの目が光る。


 枢機卿が静かに目を細めた。


 ペーターは苦笑する。


 そして。


 ベックが顔を覆った。


 ペーターが天を仰ぐ。


 ウインドは深いため息を吐いた。


 会場中の視線がユージへ集まる。


 そして。


 ユージは深々とため息を吐いた。


「やっぱり来たか……」


 どうやら。


 世界会議最大の難題は。


 最後まで残っていたらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。