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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第三部 文明発展編

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第138話 禁断のメギドの火、再び

「リーダー」


「なんだ?」


「例のアレやろうぜ」


 リシュンが満面の笑みで言った。


 ユージの表情が固まる。


 嫌な予感がした。


 非常に嫌な予感だった。


「……例のアレ?」


「ああ」


 リシュンは嬉しそうだった。


「禁断のメギドの火」


 ユージは頭を抱えた。


「あのなぁ……」


「簡単に言うけどな」


「あれ滅茶苦茶恥ずかしいんだぞ?」


「えー?」


 リシュンは不満そうだった。


「格好良いじゃん」


「良くない」


「絶対良いって」


「良くない」


「みんな感動するって!」


「しない」


「間違いない!」


「間違ってる!」


 すると。


「わらわも聞きたいのじゃ」


 神楽耶が言った。


「絶対格好良いやつじゃろ?」


「お前もか」


 さらに。


「私も賛成です」


 ナーチャンが静かに頷く。


「外交とは演出です」


「お前まで何言ってるんだ」


「リーダー!」


 今度はタケシトだった。


「俺も久しぶりに聞きたい!」


「昔聞いた時は鳥肌立ったぞ!」


「お前らなぁ……」


 ユージは遠い目をした。


 味方しかいない。


 なのに。


 誰一人として味方ではなかった。


 その様子を見ていたペーターが小声で尋ねる。


「何の話だ?」


「私にも分かりません」


 ウインドは真顔だった。


「ですが」


「嫌な予感しかしません」


 ◇◇◇


 しばらくして。


 雲の向こうから巨大な影が姿を現した。


 ネバランド帝国側からどよめきが起こる。


「なっ……!」


「なんだあれは!」


「空飛ぶ城だと!?」


「信じられん!」


 巨大だった。


 圧倒的だった。


 鋼鉄で造られた巨艦。


 飛行戦艦ヤマット。


 まるで空そのものを支配する要塞だった。


「素晴らしい……」


 シュタインが震える声で呟く。


「これほど巨大な鉄の構造物を飛ばすだと……」


 その目は既に危険な輝きを帯びていた。


 だが。


 まだ理性は残っていた。


 かろうじて。


 ◇◇◇


 ユージはスピーカーの前に立っていた。


(帰りたい)


 本気だった。


(今すぐ帰りたい)


 だが。


 後ろを見る。


 リシュン。


 神楽耶。


 タケシト。


 ナーチャン。


 全員が期待に満ちた目をしていた。


 逃げ場は無かった。


 ユージは諦めた。


 軽く咳払いをする。


 そして。


 低く重々しい声で語り始めた。


「両国の諸君」


 海上が静まり返る。


「心して聞いて欲しい」


 ペーターが真顔になる。


 ベックが腕を組む。


 シュタインが息を呑む。


「星さえ滅ぼしかねない力……」


 ユージは遥か彼方の海を見つめた。


「我々は」


「禁断のメギドの火を手に入れてしまったのだろうか……」


 誰も口を開かない。


 風だけが吹いていた。


「いや」


 ユージは静かに首を振る。


「今は思うまい」


 一拍。


「これが試練であるならば」


「我々は」


「その行動によってのみ」


「正しき道を示していくだけだ」


 後ろで。


 リシュンが満足そうに頷いた。


 神楽耶は目を輝かせている。


 タケシトは感動していた。


 ナーチャンも満足そうだった。


(やっぱり帰りたい……)


 ユージは心の中で泣いた。


 だが。


 もう止まらない。


 右手を高く掲げる。


「飛行戦艦ヤマット!」


 一瞬の静寂。


 そして。


「主砲発射用意はじめっ!」


「「「「「ラジャー!!」」」」」


 海上に声が響き渡る。


 その瞬間。


 空気が震えた。


 ヤマットの艦首がゆっくりと開いていく。


「なっ……!」


 ベックが息を呑む。


「なんだあれは!」


 巨大な砲身。


 常識外れの大きさだった。


 ネバランド帝国の大型艦すら飲み込みそうな巨大砲。


 それがゆっくりと姿を現す。


「リーダー!」


 リシュンが叫ぶ。


「エネルギー充填完了!」


「よし!」


 ユージは頷く。


「何パーセントだ!」


「百二十パーセント!」


「盛りすぎだろ!」


「演出だから問題ない!」


「問題あるだろ!」


 ネバランド帝国側は完全に置いてきぼりだった。


 何を言っているのか分からない。


 だが。


 危険なことだけは分かる。


 リシュンが幻影演出を最大出力に引き上げる。


 空が白く染まる。


 光の粒子が現れる。


 そして。


 全てが主砲へ吸い込まれていく。


 まるで世界そのものが収束していくかのようだった。


 シュタインが一歩前へ出る。


「素晴らしい……」


 その目は主砲に釘付けだった。


 ウインドが嫌な予感を覚える。


 だが。


 もう遅かった。


 ユージは再びスピーカーへ向き直る。


 どうせなら最後までやる。


 半端は良くない。


 そう。


 諦めたのである。


「エネルギー充填」


 一拍。


「百二十パーセント」


 海上の空気が凍る。


 ユージは右手を掲げた。


「総員」


 一瞬の静寂。


「対閃光ゴーグル着用」


 ナーチャンが即座に動く。


「皆様、こちらを」


 小箱を開き、ペーターたちへ黒いゴーグルを手渡した。


「対閃光ゴーグルです」


 ナーチャンは淡々と説明する。


「主砲発射時、強烈な閃光が発生します」


「網膜を損傷する恐れがありますので、必ず着用してください」


「なるほど」


 ペーターは素直に装着した。


 ウインドも続く。


 ベックも迷いながら装着する。


 だが。


「不要!」


 シュタインが断言した。


 全員が振り返る。


「いや、着けてください」


 ナーチャンが言う。


「嫌です」


「危険です」


「だからこそ見る価値があるのです!」


 ナーチャンが無言になる。


 理屈が通じない。


 いつものことだった。


「シュタイン殿」


 ペーターが言う。


「着けた方が良いのではないか?」


「断る!」


 即答だった。


「私は技術者だ!」


「観測機会を逃す方が損失である!」


 ウインドがため息を吐く。


「ああ……」


「始まりましたね」


 シュタインは聞いていない。


 その目は主砲しか見ていなかった。


 ユージはそんな様子を見て肩をすくめる。


「まあ知らんぞ」


 そして。


 遥か彼方を見据えた。


「主砲――」


 静寂。


 世界が息を止める。


 そして。


 叫ぶ。


「発射!」


 次の瞬間。


 世界が白く染まった。

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