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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第三部 文明発展編

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第134話 皇帝と国王

 ユージア城謁見の間。


 ネバランド帝国皇帝ペーター三世と、ユージア国代表ユージ。


 歴史的な初会談は、厳かな空気の中で始まった。


 ――はずだった。


「素晴らしい!」


 開口一番、ペーターが声を上げた。


「ユージアランドは実に素晴らしい!」


 謁見の間にいた全員が固まる。


「特にユージにゃんが良かった!」


 ユージも固まった。


「だからやめろと言ってるんだ」


(ホントやめてくれ)


(あれは俺の黒歴史なんだから)


(なんで俺が招き猫なんだよ)


(俺はまだ認めてないからな)


 ペーターは不思議そうな顔をする。


「何故だ?」


「何故でもだ」


「国王が国民から親しまれ、愛されていることが良く分かるではないか!」


 ユージは遠い目をした。


 すると。


「陛下」


 ウインドが静かに口を開く。


「まずは本題を」


「むぅ」


 ペーターは少しだけ残念そうな顔をした。


 だが流石は皇帝である。


 すぐに気持ちを切り替えた。


「そうだな」


 そしてウインドへ視線を向ける。


「説明を頼む」


「承知しました」


 ウインドが一歩前へ出た。


 ◇◇◇


「まず、我がネバランド帝国は海洋国家です」


 ウインドの説明が始まる。


「長年に渡り外洋航海技術を発展させ、新たな海域の調査を行って参りました」


 その結果。


 西方海域でユージア国を発見した。


 飛行戦艦。


 超高速飛行艇。


 巨大港湾。


 鉄道網。


 そしてユージアランド。


「敵対する意思はありません」


 ウインドは真っ直ぐに言う。


「我々は友好関係を築きたいと考えております」


 サトータが頷いた。


「具体的には?」


「通商条約」


「相互不可侵」


「技術交流」


 実に分かりやすい。


「対価としては」


 ウインドは続ける。


「我が国の海運技術」


「造船技術」


「航海術」


「そして豊富な海産資源の提供を考えております」


 その瞬間。


 ユージの耳がぴくりと動いた。


「海産資源?」


「はい」


 ウインドが頷く。


「イカ」


 ユージが身を乗り出す。


「イカ!」


「アジ」


「アジ!」


「マグロ」


「マグロだと!?」


 立ち上がった。


 ナーチャンが額を押さえる。


「座ってください」


「いや待て」


 ユージは真剣だった。


「本マグロか?」


「種類までは存じませんが」


「大型のものです」


「素晴らしい」


 ユージは大きく頷いた。


「本マグロ。別名クロマグロは特別だ」


「もちろんメバチも美味い」


「キハダも美味い」


「だが本マグロは別格なんだ」


「特に大トロ」


「口の中で溶ける」


 ペーターが興味深そうに身を乗り出した。


「そんなに美味いのか?」


「美味い」


 ユージは断言した。


「人生で一度は食うべきだ」


 シュタインも真顔になる。


「興味深い」


 ウインドは嫌な予感しかしなかった。


 そして予感は当たる。


「鯨も捕獲しております」


 その一言だった。


「鯨いるのか!?」


 ユージが再び立ち上がった。


「おりますが」


「何に使う?」


「主に油です」


「灯火」


「潤滑油」


「各種加工品」


「肉は?」


「肉?」


「食わないのか?」


 今度はネバランド側が驚いた。


「食べられるのですか?」


「なんだと」


 ユージは天を仰いだ。


「鯨を食わないなんて」


「人生の楽しみの五分の一を放棄してるようなもんだぞ」


 謁見の間が静まり返る。


「そんなにですか?」


 シュタインが真顔で聞いた。


「そんなにだ」


 ユージも真顔だった。


「刺身」


「竜田揚げ」


「ベーコン」


「ステーキ」


「どれも美味い」


 シュタインは腕を組んだ。


「ふむ」


「非常に興味深い」


 いつの間にか会談は鯨談義になっていた。


 ナーチャンとウインドは揃ってため息を吐いた。


 ◇◇◇


 その後。


 軽食が運ばれてきた。


 ペーターは興味深そうに皿を見つめる。


「これは?」


「カレーライスだ」


 ユージが答えた。


「ほう」


 一口。


 食べる。


 止まる。


 もう一口。


 さらに止まる。


「……」


 沈黙。


 全員が見守る。


 そして。


「美味いぞ」


 ペーターが言った。


「だろ?」


 ユージが満足そうに頷く。


「なんだこれは」


「毎日食べたい」


 シュタインも食べる。


「美味い」


 ウインドも食べる。


「これは確かに美味しいですね」


 気付けば会談はカレー談義になっていた。


「話を戻しましょう」


 ナーチャンが言った。


「戻しましょう」


 ウインドも同意した。


 ◇◇◇


 それからしばらくして。


 ようやく一通りの議論が終わった。


 その時だった。


 ペーターがふと思い出したように言う。


「ところでユージ殿」


「何だ?」


「真面目な交渉も重要なのだが」


 ペーターは笑う。


「まずは貴国の文化に接することも重要ではないかと思うのだが、いかに?」


 ユージが大きく頷く。


「確かに」


「上っ面だけの会議では身にならんな」


 嫌な予感。


 ナーチャンとウインドが同時に感じた。


「しかるに皇帝陛下殿」


「うむ」


「我が国の庶民街にはな」


「ほう」


「非常に美味い飲み屋と」


「うむ」


「気の利いた娘のいる酒屋がある」


 ペーターが満面の笑みを浮かべた。


「ふふっ」


「良いですね」


「陛下!」


 ウインドが立ち上がる。


「何が良いのですか!」


「いや、だからユージア国の文化にだな」


「飲みたいだけでしょうが!」


「違う!」


 ペーターが抗議した。


「なあ、ユージ殿!」


「おう!」


 ユージも即座に頷く。


「その通りだ!」


「どっちですか!」


 ナーチャンが叫ぶ。


「善は急げだ!」


 ユージは立ち上がった。


「今から行こうぜ!」


「おう!」


 ペーターも立ち上がる。


「タケシト!」


「おう!」


「店の予約頼めるか?」


「任しとけ!」


 タケシトが親指を立てた。


「二次会はヨーコちゃんの店だな!」


「勝手に決めないでください!」


 ナーチャンが頭を抱えた。


 しかし。


 その僅かな隙だった。


 ふと目を離した瞬間。


 いつの間にか。


 ユージとペーターは肩を組んでいた。


 まるで長年の親友同士のように。


「じゃあ行くか!」


「おう!」


「まずは酒だな!」


「文化視察だ!」


「そうそれ!」


 どちらも全く反省していなかった。


 ユージが振り返る。


「おいサトータ」


 サトータが嫌な予感を覚える。


「何でしょう?」


「後は任せた」


 沈黙。


「はい?」


 今度はペーター。


「ウインド」


「はい」


「頼んだぞ」


「陛下!」


 そして。


 二人は揃って出口へ向かう。


 その後ろをタケシトが嬉しそうについていく。


 ナーチャンは深いため息を吐いた。


「……仕方ありませんね」


 そして入口近くにいた女性へ視線を向ける。


「ハミータさん」


「はい?」


「よろしくお願いします」


 ハミータは状況を見回した。


 肩を組むユージとペーター。


 はしゃぐタケシト。


 頭を抱えるウインド。


 全てを理解した。


「なるほど」


 にっこりと微笑む。


「子守ですね?」


「子守ですね」


 ナーチャンが即答した。


「おい!」


「誰が子供だ!」


 ユージとペーターの声が綺麗に重なった。


 ナーチャンとウインドは顔を見合わせる。


「大丈夫でしょうか」


「大丈夫ではないでしょうね」


 二人の意見は完全に一致していた。


 こうして歴史的会談は、庶民街文化視察という名の飲み会へと舞台を移すことになったのである。

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