第133話 初めてのユージア国
ネバランド帝国使節団を乗せた船団は、予定通りユージア国西方港へ到着した。
百隻を超える大船団。
港には歓迎の旗が掲げられ、多くの人々が集まっていた。
「ほう……」
船から降りたペーター三世は、さっそく周囲を見回した。
「立派な港だな」
「残念ながら我が国には、これに匹敵する港はありません」
ウインドが苦笑する。
「でも、飛行戦艦や超高速飛行艇を持つ国ですよ」
「この程度の港を持っていても、不思議ではありません」
「それもそうか」
ペーターは納得したように頷いた。
しかし。
彼らの驚きは、まだ始まったばかりだった。
◇◇◇
港を出た使節団の馬車は、大通りへと入った。
その瞬間。
「おい」
ペーターが声を上げた。
「何でしょう?」
ウインドが振り向く。
「とんでもない道だ」
全員が窓の外を見る。
そこには。
巨大な石畳の街道が真っ直ぐ伸びていた。
幅は五十メートル近い。
馬車が何台並んでも余裕がある。
しかも。
視界の果てまで続いている。
「これは……」
ロックフェルが目を見開いた。
「驚きましたね」
ウインドも頷く。
シュタインが街道を凝視する。
「見事なものだ」
ベックも腕を組んだ。
「並の国家に出来る事ではないな」
ペーターが不思議そうに尋ねた。
「やっぱりそんなに凄いのか?」
ロックフェルが答える。
「これほどの街道を整備するには、生半可な予算では足りません」
「石材」
「人員」
「維持管理」
「全て莫大です」
続いてウインド。
「ですが、その価値もまた絶大です」
「これだけの道があれば物流効率は飛躍的に向上します」
「人の移動も容易になる」
「交易も活発になるでしょう」
今度はベック。
「軍事的にも有効だ」
「敵襲時には兵力を迅速に集結出来る」
「補給も容易になる」
「非常に優秀な軍用道路だ」
ペーターは再び窓の外を見た。
巨大な街道は、まだまだ続いている。
「なるほど」
そして。
楽しそうに笑った。
「面白い国だな」
◇◇◇
さらに進む。
整然と区画整理された農地。
用水路。
風車。
大型の倉庫。
そして。
遠方を走る奇妙な物体。
「待て」
シュタインが立ち上がった。
「今、何か走らなかったか?」
全員が視線を向ける。
ユージア国側の案内役が答えた。
「ああ、列車ですね」
「列車?」
シュタインが聞き返す。
「鉄道です」
「人や荷物を運びます」
シュタインは固まった。
「鉄道?鉄の道の上を走るのか?」
「はい」
「何故?」
「その方が効率が良いからです」
「なるほど…」
「しかし何故鉄なのだ?」
「あんな扱いにくい金属を使う意味がわからん」
「詳しいことは技術者ではないので分かりません、我が国では至るところで鉄が使われております」
案内人の説明に、シュタインは全く納得していない様子だった。
だが目は輝いていた。
ウインドが小声で呟く。
「後で絶対に見学を申し込むでしょうね」
「間違いない」
ロックフェルも同意した。
◇◇◇
やがて。
街道の先に巨大な白亜の城が見えてきた。
「おお!」
ペーターが身を乗り出した。
「あれか!」
誰もがそう思った。
だが。
近付くにつれて違和感が増していく。
城の周囲に。
何かがおかしい。
巨大な円形構造物。
回転している。
「何だあれは」
ベックが呟いた。
「観覧車です」
案内役が答えた。
「かんらんしゃ?」
さらに。
音楽。
噴水。
露店。
子供達の笑い声。
着ぐるみ。
パレード。
そして。
夢のような街並み。
全員が絶句した。
数秒の沈黙。
そして。
ペーターが叫んだ。
「これは!」
全員が振り返る。
「まさに俺の理想郷だ!」
大声だった。
「夢とファンタジーの楽園じゃないか!」
その目は本気だった。
「おい!」
全員が反射的に返事をする。
「はい?」
「帝国へ帰ったら、これと同じ物を作れ!」
沈黙。
ロックフェルが聞く。
「場所は?」
「王城から近いところだ!」
即答だった。
「いつでも遊びに来られるようにしろ!」
ウインドが聞く。
「予算は?」
「そんなもの何とかしろ!」
シュタインが聞く。
「技術資料は?」
「今回の会談の最優先事項だ!」
ベックが聞く。
「軍事的価値は?」
「そんなもの要らん!」
ペーターは胸を張った。
「楽しさこそが正義だ!」
全員が頭を抱えた。
「陛下」
ウインドが静かに言う。
「せめて外交的価値と言ってください」
「それだ!」
ペーターが勢いよく頷いた。
「外交的価値もある!」
「後付けですね」
ウインドが即答する。
「後付けだな」
ロックフェルも頷いた。
しかしながら、無邪気にはしゃぐ皇帝に対して、それ以上突っ込める者はいなかった。
◇◇◇
その後。
使節団はユージア城へ案内された。
白亜の城。
赤絨毯。
整列する衛兵。
堂々たる王城である。
そして。
謁見の間へ続く大広間。
その先に一人の男が立っていた。
豪華な正装。
金糸の刺繍。
長いマント。
どう見ても一国の君主だった。
その姿を見たペーターが首を傾げる。
「おい」
「何でしょう?」
ウインドが答える。
「あいつ」
前方を指差した。
「作業着着てないぞ」
ウインドは一瞬固まった。
そして。
「当たり前です」
即答した。
「国王陛下なのですから」
「そういうものか?」
「そういうものです」
ペーターは納得いかない顔をした。
「でもクラウスの話だと作業着だったぞ?」
「前回と今回は違います」
「帝国から皇帝陛下が直々に会談に来たのですよ」
ウインドはため息を吐く。
「どうやら、あちらにも常識人はいるようですね」
その視線の先には。
微笑みながら控えるナーチャンの姿があった。
ペーターは納得したように頷く。
「なるほど」
「苦労してそうだな」
「そうですね」
ウインドは深く同意した。
そして。
ペーターへ向き直る。
「それはともかく」
「何だ?」
「皇帝陛下としての威厳をお忘れなく」
「もう分かってるって」
本当に分かっているのかは怪しかった。
ウインドは不安しか感じなかった。
やがて。
謁見の間の扉がゆっくりと開かれる。
歴史的な会談が。
いよいよ始まろうとしていた。




