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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第三部 文明発展編

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第131話 ネバランド帝国皇帝ペーター三世

 ユージア国西方監視所。


 応接室へ案内されたクラウス達は、ようやく席に着いていた。


 目の前にはユージ。


 その隣にはナーチャン。


 そして少し緊張した面持ちのサトータ。


 クラウスは内心で安堵していた。


 少なくとも、作業着の国王という衝撃からは立ち直る時間があった。


「さて」


 サトータが咳払いを一つした。


「改めまして、本日はどのようなご用件でござるか」


 クラウスは背筋を伸ばす。


「我々は新たな漁場の調査を目的として派遣された」


「以上でござるか?」


「以上だ」


 サトータが眉をひそめた。


「本当に?」


「本当だ」


「百隻以上の船団で?」


「百隻以上の船団で」


 しばし沈黙。


 サトータがユージを振り返る。


「どう思われます?」


「俺に聞くな」


「外交担当はお前だろ」


 サトータは深いため息を吐いた。


 初仕事から胃が痛い。


 だがクラウスの表情を見る限り、嘘を言っているようには見えなかった。


「なるほど」


「では、そのように理解しておくでござる」


 クラウスは小さく頷いた。


 実際、彼は嘘をついていない。


 植民地化だの補給基地だのは、帝国上層部の話である。


 現場指揮官であるクラウスの任務は、あくまで調査だった。


 そこでユージが口を開く。


「じゃあ、俺からも伝言を頼みたい」


 クラウスの表情が引き締まる。


「承ります」


「ユージア国は専守防衛だ」


 静かな声だった。


 だが、その場の空気が少し変わった。


「こちらから攻める気はない」


「だが攻められたら全力で反撃する」


 クラウスは真剣な顔で頷く。


 空飛ぶ船と謎の飛行物体を見た後では、その言葉の重みが違う。


「友として来るなら歓迎する」


「商売でも技術交流でも歓迎だ」


「だが敵として来るなら、相応の覚悟をしてもらう」


「以上だ」


「確かに承りました」


 クラウスは深く頭を下げた。


 そしてユージは少し考えた後、付け加える。


「ああ、それと」


「はい」


「次から百隻で来るなら事前に連絡してくれ」


「寿命が縮んだ」


 クラウスは思わず苦笑した。


「こちらも縮みました」


「何が」


「全部です」


 ユージは大笑いした。


 その場の空気が少し和む。


 こうして。


 ネバランド帝国とユージア国。


 両国の最初の接触は、概ね友好的なまま終了したのだった。


 ◇◇◇


 二十日後。


 ネバランド帝国皇城。


 皇帝執務室。


「仕事したくねぇ」


 開口一番だった。


 ネバランド帝国皇帝。


 ペーター三世。


 三十代前半。


 端正な顔立ちを持つ青年皇帝である。


 ただし。


 やる気は無い。


 机に足を乗せ、椅子にもたれかかりながら天井を見ていた。


「陛下」


 老齢の男がため息を吐く。


「足を下ろしてください」


 帝国宰相ウインドである。


「嫌だ」


「下ろしてください」


「はい」


 ペーターは素直に足を下ろした。


 その様子を見ていたクラウスは、帝国の実質的な支配者は誰なのかを改めて理解した。


 その時。


 大柄な男が口を開く。


「で?」


「その国は攻め落とせるのか?」


 海軍元帥ベック。


 武闘派である。


 クラウスは即答した。


「無理です」


「ほう?」


「空飛ぶ船を保有しています」


 沈黙。


 そして。


 一人の男が勢いよく立ち上がった。


「何だと!?」


 シュタイン・アイン。


 帝国最高の技術者である。


「空飛ぶ船だと!?」


「材質は何だ!?」


「そこまでは確認できませんでした」


「なんだと!?」


 シュタインが机を叩く。


「なぜ一番大事なところを聞いて来ないんだ!」


「アホなのか!?」


「間抜けなのか!?」


「初対面でそんなこと聞ける訳がないでしょう!」


 クラウスも思わず言い返した。


「そりゃそうだ」


 ペーターが頷く。


 シュタインだけが不満そうだった。


「ただし」


 クラウスが続ける。


「ユージ陛下は、鉄製の戦艦だと説明していました」


 再び沈黙。


 そして。


「何だとぉぉぉぉっ!?」


 シュタインが絶叫した。


「空飛ぶ鉄の船だと!?」


「どういう原理だ!?」


「それが分かれば苦労しません」


「役に立たん!」


「理不尽過ぎる!」


 クラウスは叫んだ。


「他には!」


 シュタインは止まらない。


「白い飛行物体も確認しました」


「ほう」


「飛び去った後に爆音が聞こえました」


 シュタインが固まる。


「待て」


「飛び去った後か?」


「はい」


「音より速いのか!?」


「恐らく」


「信じられん!」


 シュタインは頭を抱えた。


「空気抵抗は!?」


「推進力は!?」


「燃料は!?」


「知りません」


「役に立たん!」


「だから理不尽なんですって!」


 その隣で、ふくよかな男が口を開く。


「その技術は売ってもらえるのかね?」


 財務卿ロックフェルである。


「まず研究だ!」


「まず商売だ!」


 シュタインとロックフェルが睨み合う。


 ウインドが額を押さえた。


 いつもの光景だった。


 そして。


 クラウスは最後の報告を口にする。


「なお」


「国王にもお会いしました」


「ほう」


 ペーターが興味深そうに身を乗り出す。


「どんな人物だった?」


 クラウスは真顔で答えた。


「作業着でした」


 沈黙。


 全員が固まる。


「待て」


 ウインドが言った。


「待て」


 ベックも言った。


「待て」


 シュタインも言った。


「待て」


 ロックフェルも言った。


 ペーターだけが吹き出した。


「ははは!」


「そこから説明しろ!」


 クラウスは深いため息を吐いた。


 やはり。


 そこが一番信じてもらえないらしい。


 そして一時間後。


 全ての報告を聞き終えたペーターは、満面の笑みを浮かべた。


「面白い」


 勢いよく立ち上がる。


「決めた!」


「俺の明日からの予定は全部キャンセルだ!」


 全員が嫌な予感を覚えた。


「行こう!」


「ユージア国へ!」


 案の定だった。


 ウインドが深々とため息を吐く。


「何をおっしゃっているのです」


「そんなに簡単にスケジュールの調整などできません」


「冗談も休み休みおっしゃってください」


 ペーターが固まる。


「えーっ」


「そうなの?」


「当たり前です」


 即答だった。


 ペーターは不満そうに唇を尖らせる。


「じゃあ、なるはやで!」


 ウインドは再びため息を吐いた。


 シュタインは既に研究資料をまとめ始めている。


 ロックフェルは交易品目の試算を始めている。


 ベックは地図を広げていた。


「ベック将軍」


 ウインドが静かに言う。


「はい」


「侵攻計画を畳みなさい」


「はい」


 こうして。


 ネバランド帝国初の公式使節団派遣が決定したのであった。

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