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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第三部 文明発展編

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第129話 司令官クラウスの懊悩

 百隻を超える船団は、沖合で停止していた。


 その上空。


 幻影ヤマットが悠然と空に浮かんでいる。


 さらに周囲をホワイトタイガーが旋回していた。


 ネバランド帝国第一探査艦隊。


 その旗艦甲板では、クラウスが空を見上げて固まっていた。


「……まだ飛んでいる」


「飛んでますね」


 副官も遠い目をしている。


「夢ではないんだな」


「残念ながら」


 その時だった。


 ヤマットの前方が淡く光る。


 次の瞬間。


 重厚な声が海上へ響き渡った。


『未知なる海の彼方より来た者たちよ』


 船団がざわつく。


『ようこそユージア国へ』


 声は続く。


『我が名はユージ』


『ユージア国代表を務める者である』


『汝らに敵意無くば歓迎しよう』


 クラウスは思わず息を吐いた。


 少なくとも、いきなり攻撃してくる気はないらしい。


 その事実に少しだけ安堵する。


 そして大きく息を吸った。


「こちらはネバランド帝国第一探査艦隊!」


「司令官クラウスだ!」


「我々は新たな漁場と航路を求めて西方海域を調査している!」


「敵意はない!」


 声が海上へ響く。


 しばしの沈黙。


『承知した』


 ユージの声が返ってきた。


 クラウスは胸を撫で下ろしかけた。


 だが。


 どうしても聞かなければならないことがあった。


「だがその前に聞かせろ!」


「その船は何だ!?」


「何故、船が空を飛んでいる!?」


 船団中が静まり返る。


 誰もが知りたかった。


 西方監視所。


 ユージは空に浮かぶヤマットを見上げた。


「これか?」


 そう呟く。


 隣ではリシュンが満面の笑みを浮かべていた。


 嫌な予感しかしない。


『これは鉄製の戦艦だ』


 その瞬間。


 ネバランド帝国船団がざわついた。


「何を馬鹿なことを!」


 クラウスが叫ぶ。


「鉄が空を飛ぶはずがなかろう!」


『普通はな』


 ユージが頷く。


『だが飛んでいるだろう?』


「ぐっ……」


 反論できない。


 実際に飛んでいる。


 冷静さを失った彼らには、ヤマットの艦底部分が少し揺らいでいることに気付けなかった。


 その時だった。


 リシュンが親指を立てた。


 やれ。


 そんな顔だった。


 ユージは心の底から後悔した。


『そは我が国の叡智』


 ナーチャンが額を押さえた。


『そは我らが守り神』


 神楽耶の肩が震える。


『天を駆け』


 タケシトが口を押さえる。


『正義の鉄槌を下す者』


 限界だった。


『その名は――』


 一瞬の静寂。


『黒鉄の飛行戦艦ヤマット』


 海上が静まり返る。


 クラウスは言葉を失っていた。


 副官も固まっている。


 船員達は顔面蒼白だ。


 一方。


 ユージア国西方監視所では。


「ぶっ!」


 タケシトが吹き出した。


「おい」


 ユージが睨む。


「笑うな」


「無理だろ!」


 タケシトは腹を抱えた。


「正義の鉄槌って何だよ!」


「黒鉄の飛行戦艦って!」


「しかもあれ、偽物の幻影だろ?」


「ぶはははは!」


「いい加減にしろ!」


 ユージが怒鳴る。


「あいつらから見えちゃったらどうすんだ!」


「この距離じゃ見えねぇよ!」


「そういう問題じゃない!」


 リシュンだけは満足そうだった。


「最高だ」


「お前な!」


 ユージは叫んだ。


 その頃。


 クラウスはまだ空を見上げていた。


 飛行戦艦ヤマット。


 鉄製の戦艦。


 空を飛ぶ守り神。


 理解できる部分が一つもない。


 副官が恐る恐る口を開く。


「飛行戦艦ヤマットとは、一体何者なのでしょうか」


「俺にもまったく分からん」


 クラウスは頭を抱えた。


「そもそも、鉄が空を飛ぶ訳がないだろう?」


「えっ?違うか?」


「ですが司令官」


 副官が真顔で言う。


「飛んでいます」


「そうなんだよなぁ……」


 クラウスは遠い目をした。


「しかも彼らは言った」


「正義の鉄槌を下す者、と」


「言いましたね」


 副官は頷く。


「つまり、あれだけの力を持ちながら」


「それを振り回すつもりは無い」


「そう言いたいのではないでしょうか」


「ほう?」


 クラウスは少し意外そうな顔をした。


「何故そう思う?」


「もし敵意があるなら」


 副官は空を見上げる。


「我々はとっくに海の藻屑かと」


「……違いない」


 クラウスも頷いた。


「百隻を超える船団だぞ」


「本気で敵と見なしていたなら、警告などせずに沈めていたかもしれん」


「少なくとも」


 副官は静かに言った。


「彼らは、自分達の力に責任を持っているように見えます」


 クラウスは再び空を見上げた。


 遥か上空。


 飛行戦艦ヤマットは悠然と空に浮かんでいる。


 理解できることは一つも無い。


 だが。


「なるほどな」


 クラウスは小さく笑った。


「案外、お前の言う通りかもしれん」


「とにかく、話をしてみんことには始まらんな」


 そんなクラウスの懊悩を他所に、再びユージの声が響いた。


『では、代表者三名のみの上陸を許そう』


 クラウスは腕を組んだ。


 三名。


 百隻を超える船団を率いて来ているのに、上陸を許されるのはたった三人。


 普通なら屈辱とも取れる。


 だが――。


「司令官」


 副官が不安そうな顔をした。


「いくら何でも三名のみでは危険過ぎます」


「そうか?」


 クラウスは肩をすくめた。


「そうでしょう」


「敵地ですよ?」


「護衛を増やした方が……」


「いや」


 クラウスは首を振った。


「かえって少数の方がいい」


「何故です?」


「まさか敵も攻撃して来るまい」


「卑怯者の誹りを受けるからな」


 少なくとも。


 あれほど大仰な名乗りを上げた相手ならば。


「よし」


「私とお前、それから航海長を連れて行く」


「上陸準備だ」


「了解しました」


 副官が敬礼する。


 クラウスは再び空を見上げた。


 遥か上空。


 飛行戦艦ヤマットは、悠然と空に浮かんでいる。


「……本当に飛んでいるんだよな」


「飛んでいますね」


「教えてくれ」


「帰国したら何て報告したらいいんだ」


副官は、しばらく考えてから小声で言った。


「そのまま報告するしか無いかと」


「誰が信じる?」


 クラウスは深いため息を吐いた。


 その報告書を書かされる未来を想像しただけで、胃が痛くなるのだった。

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