第127話 ネバランド帝国
大海原の彼方。
ユージア国から遥か西方に、ネバランド帝国は存在した。
数百年に渡り海を支配してきた海洋国家。
無数の島々を従え、巨大な船団を操り、大洋の覇者として君臨している。
帝国の誇りは海だった。
漁業。
交易。
造船。
航海。
その全てが海によって支えられている。
帝国の港には毎日数百隻もの船が出入りし、市場には海の幸が溢れていた。
だが――。
近年、その海に異変が起きていた。
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「足りません」
ネバランド帝国財務相ロックフェルは断言した。
皇宮会議室。
巨大な円卓を囲み、帝国首脳陣が集まっている。
ロックフェルは積み上げられた資料を机に置いた。
「鯨油の生産量が年々減少しています」
「近海漁業の漁獲量も低下傾向です」
「このままでは帝国経済に深刻な影響が出ます」
会議室に沈黙が落ちた。
「それは困るな」
そう言ったのは皇帝ペーター三世だった。
年の頃は三十代半ば。
端正な顔立ちだが、どこか気の抜けた雰囲気がある。
椅子にだらしなく腰掛けながら、面倒そうに資料を眺めていた。
「非常に困ります」
ロックフェルが真顔で答える。
「数年以内に鯨油価格は倍になるでしょう」
「それは本当に困るな」
ペーターはため息を吐いた。
「だから皇帝なんかやりたくなかったんだ」
会議室の全員が聞き流した。
いつものことだからだ。
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「陛下」
老宰相ウインドが咳払いをする。
「現実逃避をしても問題は解決しません」
「分かってるよ」
ペーターは天井を見上げた。
「本当なら今頃、南の海で釣りでもしてたはずなんだけどなあ」
「陛下」
「はい」
これ以上は怒られると理解したらしい。
ペーターは素直に姿勢を正した。
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「新たな漁場を探すべきです」
海軍大将軍ベックが口を開く。
歴戦の軍人らしい鋭い目を持つ男だった。
「帝国の船ならば、さらに西へ進出できます」
「未開の海域はまだ存在するはずです」
「賛成です」
ロックフェルも頷く。
「新漁場の確保は急務です」
「できれば補給基地も欲しいところですね」
ウインドも腕を組んだ。
「確かに」
「長距離航海を前提とするなら必要でしょうな」
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「面白そうだな」
ペーターが呟いた。
隣に立っていた秘書官カーベラが即座に反応する。
「遊びではありません」
「まだ何も言ってない」
「顔に書いてあります」
「ひどい」
「事実です」
ペーターは肩を落とした。
カーベラは冷静だった。
いつものことである。
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「ついでに新しい鉱物も探したい」
部屋の隅から声がした。
帝国技術院首席研究官シュタイン・アインだった。
髪はぼさぼさ。
机には大量の図面。
会議が始まってからずっと何かを書いている。
「ついでではありません」
カーベラが訂正する。
「重要な調査項目です」
「そうとも言う」
シュタインは気にしていなかった。
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議論はしばらく続いた。
やがて結論がまとまる。
新漁場を探す。
新たな補給地を探す。
未知の資源を調査する。
そのために帝国史上最大規模の探査計画を実施する。
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会議の最後。
ウインドが静かに言った。
「では、西方大探査計画を開始します」
全員が頷いた。
ペーターも頷く。
「うん」
「頼んだ」
「陛下も働いてください」
カーベラが即座に言った。
「嫌だ」
「駄目です」
会議室に小さな笑いが広がる。
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こうして。
鯨油を始めとする海洋資源の不足に悩まされていたネバランド帝国は、新たな漁場と補給地を求めて西方大探査計画を開始した。
帝国中から優秀な船乗りが集められ。
最新鋭の船が建造され。
莫大な予算が投じられる。
帝国史上最大規模の調査艦隊。
その準備は着々と進められていた。
まだ誰も知らない。
その航海の先に。
空飛ぶ戦艦と。
白き飛行獣が待っていることを。
そして。
彼らの運命を大きく変える出会いが待っていることを。




