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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第二部 聖王国編

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第115話 爆走トンネル

 夜の山岳地帯を、登山鉄道が駆け抜けていた。


 ガタン、ゴトン――と、激しい振動が車体を揺らす。


 窓の外には、切り立った崖。


 遠くには、聖王国の灯り。


 そして、その背後から。


「……来てます」


 ハミータが低く呟いた。


 車両の空気が、一気に張り詰める。


 ユージが窓の外を覗き込み――顔を引きつらせた。


「うわぁ」


 列車の屋根の上。


 黒い影が、凄まじい速度で追って来ていた。


「いや、なんで列車に追いつけるんだよあいつ!?」


「人間をやめておるのう……」


 神楽耶が若干引いた顔をする。


 シャドウは、夜風を切り裂きながら、まるで地面を走るような速度で迫っていた。


 仮面の奥の視線だけが、異様に冷たい。


「来るぞ!」


 ハミータが叫ぶ。


 次の瞬間。


 ガンッ!!


 シャドウが列車の屋根へ飛び乗った。


 車体が、大きく揺れる。


「きゃっ!?」


 ヨーコが小さく悲鳴を上げた。


「ハミータ、頼む!」


「はい!」


 ハミータが即座に屋根へ飛び出す。


 直後。


 激しい金属音が夜の山へ響いた。


 キィン!! ガガガッ!!


 火花が散る。


 高速で走る列車の上。


 その上で、二つの影が激突していた。


「いや、何あれ怖ぇ!!」


 ユージが素直な感想を漏らす。


「高所であんな戦闘したくありません……」


 ナーチャンも若干顔を引きつらせている。


 その時だった。


 タケシトが、ニヤリと笑う。


「……そろそろだな」


「何が?」


 ユージが振り返る。


 タケシトは、車両後部へ積まれていた木箱を叩いた。


 その箱には、見慣れない導火線が伸びている。


「お前、まさか」


「今度のやつは、粉塵爆発なんかとは威力が段違いだぜェ」


 タケシトが、不敵に笑った。


「おいおい」


 ユージの顔が引きつる。


「それ、どこで使う気だ?」


 その時。


 列車が、巨大な岩山へ口を開けたトンネルへ突入した。


 真っ暗な闇。


 車窓の景色が、一瞬で消える。


 タケシトが叫ぶ。


「ハミータ、戻れ!」


 その声に。


 シャドウを足止めしていたハミータが、一気に後方へ跳んだ。


 そのまま、列車側面の手すりへ掴まり、車内へ滑り込む。


 シャドウが、冷たい声を響かせた。


「逃げ切れるとでも思ったか」


 その口調には、まだ余裕があった。


 次の瞬間だった。


 ドォォォォォンッッ!!!


 凄まじい爆音が、トンネル全体を揺るがした。


「な――」


 初めて。


 シャドウの声が揺らぐ。


 閃光。


 衝撃。


 そして。


 トンネルの天井が、轟音と共に崩れ始めた。


 大量の岩石が、雪崩のように降り注ぐ。


 線路が砕け。


 壁面が割れ。


 山そのものが崩れていく。


「うわぁぁぁっ!!」


 ユージが悲鳴を上げる。


「思ったより派手ぇ!!」


「当然だろォ!!」


 タケシトが無駄に誇らしげだった。


「こういう時のための爆薬だからなァ!!」


「絶対違うと思います!!」


 ナーチャンが全力で突っ込む。


 列車は、崩落寸前のトンネルを猛スピードで駆け抜けた。


 そして――


 轟音と共に。


 背後のトンネルが、完全に崩壊する。


 ガガガガガガッ!!


 巨大な岩盤が落下し、線路ごと埋め尽くしていく。


 車内が、大きく揺れた。


 ヨーコが思わず座席へしがみつく。


「す、すごい……」


「いやァ!!ロマンがあるよなァ!!」


「どこにですか!?」


 ナーチャンが即座に叫ぶ。


 やがて。


 列車は、ゆっくりと速度を落としていく。


 どうにか脱出には成功したらしい。


 ユージが、大きく息を吐いた。


「助かった……」


「おいおい、トンネル崩落しちゃったじゃないか」


「これ、もうしばらく使いもんにならんぞ」


「追手を足止めするには、かえって好都合さ」


 タケシトが肩をすくめる。


「細けぇこと気にすんな!」


「お前はもう少し気にしろ!!」


 ユージが全力で突っ込んだ。


 一方。


 崩壊したトンネルの奥。


 轟音が止み。


 立ち込めていた爆炎と白煙が、ゆっくり晴れていく。


 崩れ落ちた岩盤の隙間。


 そこに。


 黒い影が、静かに立っていた。


 シャドウだった。


 外套の一部は焼け焦げ。


 仮面には、一本の亀裂が走っている。


 だが。


 その目だけは、なお鋭かった。


「……逃したか」


 低く呟く。


 そして。


 シャドウは、静かに踵を返した。


 まるで。


 まだ終わっていないとでも言うように。

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