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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第二部 聖王国編

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第112話 巫女奪還

# 第112話 巫女奪還


 中央聖堂。


 食糧庫爆発の騒ぎは、なおも続いていた。


「火を消せ!!」


「こっちにも人を回せ!」


「煙が充満しているぞ!!」


 神兵たちの怒号が、聖堂中へ響いている。


 一方。


 中央聖堂の奥、大司教の執務室でも、慌ただしい空気が流れていた。


「申し上げます!!」


 神官が、息を切らせながら駆け込んでくる。


「食糧庫にて爆発事故が発生!」


「現在、神兵たちが消火と避難誘導に当たっています!」


「……爆発?」


 大司教が眉をひそめる。


「何故、食糧庫が爆発するのだ?」


「そ、それが……原因は不明で……!」


 神官の顔には、困惑が浮かんでいた。


 大司教は苛立たしげに舌打ちする。


「まさか、魔族の襲撃か……?」


 その時だった。


 別の神官が、青ざめた顔で飛び込んでくる。


「た、大変です!!」


「巫女様の区画に、侵入者が――!!」


 一瞬。


 部屋の空気が凍りついた。


「……なんだと?」


 大司教の声が低くなる。


「警備は何をしていた!?」


「爆発騒ぎで、人員がそちらへ……!」


「馬鹿者が!!」


 机を叩き、大司教が立ち上がる。


 額には、じっとりと汗が浮かんでいた。


 巫女。


 それは、聖教会の象徴。


 神託そのもの。


 もし奪われれば。


 教会の権威は、大きく揺らぐ。


 その時。


 部屋の奥から、静かな声が響いた。


「……なるほど」


 枢機卿だった。


 椅子へ腰掛けたまま、細い目を静かに閉じている。


「ついに来たか」


「枢機卿様!」


 大司教が振り返る。


「すぐに神兵を――」


「慌てるな」


 枢機卿は、落ち着き払っていた。


「騒げば騒ぐほど、民衆は不安になる」


「まずは、巫女の確保を優先しなさい」


 一拍置き。


 その細い目が、ゆっくり開く。


「……シャドウを向かわせろ」


 その言葉に。


 神官たちの表情が、僅かに強張った。


 一方。


 ヨーコの部屋。


 ハミータに倒された神兵たちが、廊下へ転がっている。


 ユージは、静かに部屋へ足を踏み入れた。


 窓辺に座っていたヨーコが、はっと顔を上げる。


「……え?」


 目を見開く。


 突然現れた侵入者。


 だが。


 その顔には、見覚えがあった。


「よう」


 ユージが、ひらひらと手を振る。


「迎えに来たぞ」


「……っ!」


 ヨーコが息を呑む。


 だが次の瞬間、その表情が強張った。


「だ、駄目です……!」


 小さく、だが必死な声だった。


「ここには神兵もいます!」


「シャドウだって……!」


「捕まったら、きっと……!」


 震えていた。


 恐怖で。


 自分のせいで、誰かが傷つくことへの怯えで。


 そんなヨーコを見て。


 ユージは、わざとらしく大きなため息をついた。


「ああ、なんということだ」


 大げさに肩を落とす。


「女の子は悪い枢機卿の力を信じているのに」


「産廃屋の力は信じてくれないらしい」


「おい」


 後ろから、呆れた声。


 神楽耶だった。


「何を勝手に名作アニメのパロディ気取っとるんじゃ」


「はよ助け出さんと敵が来るぞ」


「物事にはムードと雰囲気ってのが必要なんだよ!」


「知らんわ!」


 思わず。


「あはは……っ」


 ヨーコの口から、笑い声が漏れた。


 自分でも驚いたように、口元を押さえる。


 笑ったのは、いつ以来だっただろう。


 そんなヨーコを見て。


 ユージは、少しだけ優しく笑った。


「大丈夫だよ」


「ちゃんと助けに来た」


「……でも」


 ヨーコは、不安そうに俯く。


「教会は……きっと、どこまでも追ってきます」


「私のせいで……皆さんまで……」


「だったら」


 ユージは、あっさりと言った。


「逃げ切れる場所まで連れてってやるよ」


 その言葉に。


 ヨーコは、ゆっくり顔を上げる。


「別に世界を救うつもりはねーけど」


「知り合いの妹を助けるくらいはするさ」


 その時だった。


 廊下の奥から、怒号が響いた。


「こっちだ!!」


「侵入者がいるぞ!!」


「おっと」


 ユージが苦笑する。


「ムード作りしてる暇、無くなったな」


「だから言ったであろうが!」


 神楽耶が呆れた声を出す。


「では、撤収じゃ!」


 ハミータは既に短剣を構えている。


 ナーチャンも周囲へ鋭い視線を向けた。


「三十秒以内に敵が到達します」


「相変わらずカウントが正確だな……」


 ユージが若干引き気味に言った。


 その時だった。


 廊下の向こうから。


「ヘッヘッヘ!!」


 聞き覚えのある声が響く。


「派手にやって来たぜェ!!」


 現れたのは――真っ白な男だった。


「……誰?」


 ヨーコが思わず呟く。


「タケシトだよ!!」


「小麦粉撒き過ぎだと言っただろうが……!」


 隣では、リシュンが咳き込みながら歩いていた。


 二人とも、小麦粉まみれだった。


「いやァ!!予想以上にドカーンってなってよォ!!」


 タケシトは妙に楽しそうだった。


「おかげで神兵ども大混乱だぜ!」


「廊下の向こう側、完全に白煙で視界潰れてます」


 リシュンが補足する。


「今なら脱出可能です」


 ヨーコは、ぽかんと彼らを見ていた。


 教会の神官たちとは、まるで違う。


 騒がしくて。


 雑で。


 緊張感も無い。


 なのに。


 どうしてだろう。


 この人たちの方が、ずっと安心できる気がした。


「よし」


 ユージが頷く。


「じゃあ、さっさと逃げるか」


「軽いなァ!?」


 タケシトが突っ込む。


 その時だった。


 ふっ――と。


 空気が変わった。


 ナーチャンの表情が、一瞬で険しくなる。


「……来ます」


 廊下の奥。


 白煙の向こう側に。


 黒い影が、静かに立っていた。


 長い外套。


 顔を覆う仮面。


 そして。


 異様なまでの殺気。


「……見つけた」


 低い声が、静かに響く。


 ヨーコの顔から、血の気が引いた。


「シャドウ……!」


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