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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第二部 聖王国編

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第110話 巫女救出作戦

 温泉に浸かって、すっかりリラックスしたユージたち一行は、大広間に集合していた。


 卓の上には、黒たまごの殻が山のように積まれている。


「さて、気分転換も済んだことだし、本題の話をするか」


 ユージが湯呑みを置きながら言った。


「そうだな。そろそろ黒たまごも無くなって来たし、これ以上食ったら晩飯が入らなくなる」


 タケシトが名残惜しそうに黒たまごを見つめる。


「緊張感のカケラもありませんね」


 ナーチャンが呆れたように言った。


「そうだぞ、タケシト。お前はもう少し真剣にやってくれ」


「ユージさまもです」


「お前のせいで俺までとばっちり食ったじゃないか」


「知らんがなァ」


 タケシトが肩をすくめる。


 そんな軽口に、小さな笑いが起きた。


 だが、ユージはすぐに表情を引き締める。


「まあいいや。それで、ヨーコちゃんをどうやって救出するかってことだよな」


「まあ、ストレートに言うとその通りです」


 ナーチャンが頷いた。


「でもさ」


 ユージは、卓に頬杖をつく。


「その前に、彼女の意思確認がいるんじゃねーか?」


「意思確認?」


 リシュンが首を傾げる。


「つまりさ、本人が脱出したいと思ってるかどうかって話さ」


「宗教に深くハマってる人って、周りが助けようとしても拒否することがあるんだよ」


「精神操作系の魔法でも使っておるのか?」


 神楽耶が不思議そうに尋ねる。


「いや、少し違うな」


 ユージは首を横に振った。


「長年、“それが正しい”って教え込まれてるんだよ」


「本人が自分で信じてるつもりでも、実際には考え方を誘導されてる」


「なるほど……」


 神楽耶が感心したように頷く。


「さすがナーチャンの思い人じゃ。説明がわかりやすいの」


「ちょっと何言っちゃってるんですか!」


「そんなのじゃありませんから!」


「細かいことは気にするでない」


 神楽耶は真顔だった。


 ナーチャンは、頬を紅く染めて暫く神楽耶を睨みつけてから、諦めた様子で小さく息を吐いて言った。


「つまり、その“洗脳”状態にあるなら、救出は難しいということですね」


「まあ、そうだな」


 ユージが頷く。


「そしたらさ」


「救出したはずが、世間的には誘拐犯ってことにされちまう」


「俺たちは世紀の大悪党って訳さ」


「まあ、今さら善人ぶる気もねーけど」


「それはいただけんのお」


 神楽耶が苦笑する。


「だろ?」


 ユージは肩をすくめた。


「だからさ、ハミータに先に行ってもらって、ヨーコちゃんの様子を探ってもらうのがいいと思うよ」


 その言葉に、全員の視線がハミータへ向く。


 ハミータは静かに頷いた。


「潜入ですね。構いません」


「……だいぶ行き当たりばったりですね」


 ナーチャンが呆れ半分で言う。


「そんな適当でいいのかよ……」


 リシュンも苦笑した。


 だが、ユージはどこか気楽そうに笑った。


「人生なんて、何が起こるかわかんねーんだから」


「行き当たりばったりぐらいで、ちょうどいいんだよ」


 その言葉に。


 なぜか、誰も反論できなかった。


「……まあ」


 タケシトが黒たまごを口へ放り込みながら頷く。


「リーダー、なんだかんだで今まで何とかしてきたしなァ」


「結果論ですけどね」


 ナーチャンが小さく息を吐く。


「でも、嫌いじゃありませんよ」


「おお!やはり好いておるのじゃな!」


「まったく違います」


 そんなやり取りに、小さな笑いが起こる。


 ハミータは静かに立ち上がった。


「では、私が行ってきます」


「頼んだぞ」


「承知しました」


 短く答え、ハミータは静かに部屋を後にした。


 その夜。


 中央聖堂。


 ヨーコは、自室の窓辺に座っていた。


 窓は開く。


 外も見える。


 だが、部屋の前には神兵。


 廊下にも神兵。


 中庭にも視線。


 どこにも行けない。


 逃げられない。


 聖堂は変わっていない。


 白い壁。


 静かな空気。


 祈りの歌。


 なのに、まるで別の場所のようだった。


(ここは……)


 ヨーコは、小さく唇を震わせる。


(こんな場所だったの……?)


 その時だった。


 コンコン。


 小さく、窓が叩かれた。


 ヨーコが、はっと顔を上げる。


 窓の外。


 そこには、小柄な修道女が立っていた。


 深くフードを被っている。


 だが、その目だけは鋭かった。


「静かにしてください」


 小声だった。


「私は、味方です」


 ヨーコの瞳が、大きく揺れた。


「……誰?」


 警戒したように、ヨーコが一歩後ずさる。


「リコさんの依頼で来ました」


「!」


 その名前を聞いた瞬間、ヨーコの表情が変わる。


「リコ姉ちゃん……?」


「はい」


 ハミータは静かに頷いた。


「あなたを心配しています」


 ヨーコは、思わず窓へ駆け寄りそうになる。


 だが、途中で足を止めた。


 窓の外にも、見張りの気配がある。


 不用意に動けば、気づかれる。


 ハミータもそれを察したのか、小声のまま続けた。


「時間がありません」


「単刀直入に聞きます」


「あなたは――ここを出たいですか?」


 その言葉に、ヨーコの呼吸が止まる。


 ここを、出たいか。


 そんなこと。


 考えてはいけないと思っていた。


 ここは聖堂だ。


 神に仕える場所だ。


 自分は、神託を伝える巫女だ。


 ここにいるべき存在のはずだった。


 ――本当に?


 脳裏に浮かぶ。


 神託を“作っていた”神官たち。


 監視の視線。


 閉ざされた部屋。


 胸の奥が、痛む。


「私は……」


 声が震える。


「私は……」


 言葉が、出ない。


 だが。


 ハミータは急かさなかった。


 ただ静かに、ヨーコを見つめている。


 その視線は、不思議と冷たくなかった。


 ヨーコは、強く両手を握りしめる。


 怖かった。


 全部が壊れてしまいそうで。


 でも。


 もう、気づいてしまった。


 ここは、自分が信じていた“聖域”ではない。


 長い沈黙の後。


 ヨーコは、小さく唇を開いた。


「……出たい」


 消え入りそうな声だった。


 だが。


 確かに、自分の意思だった。

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