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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第二部 聖王国編

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第109話 湯煙の中の作戦会議

 聖王国より帰還したユージたち一行は、難しい顔をして会議室に集合していた。


「一刻も早くヨーコちゃんを救出する作戦を練らないといかんな」


 ユージの言葉に、会議室の空気が静かに張り詰める。


「そうですね」


 ナーチャンも珍しく表情が硬い。


 聖王国。


 中央聖堂。


 厳重な警備。


 そして、シャドウ。


 考えるべきことは山ほどあった。


「しかし……」


 ユージは椅子にもたれながら、大きく息を吐く。


「ちょっとハードワークが続いて疲れてきたよ」


「確かに、休息も必要ですね」


 ナーチャンが静かに頷く。


 すると。


「だったらよォ!」


 勢いよく扉が開いた。


「例の温泉街、ちょうど完成したぜ!」


 タケシトだった。


 なぜか満面の笑みで胸を張っている。


「温泉街?」


「ああ!」


 タケシトは得意げに親指を立てた。


「国境の急峻地帯に作ってたやつだよ!」


 その言葉に、ユージは「ああ」と思い出したように頷いた。


 一か月ほど前。


 ユージア国と聖王国の国境地帯には、巨大な山岳地帯が広がっていた。


 切り立つ崖。


 険しい山道。


 立ち上る白い蒸気。


 硫黄の匂いが風に混じり、地面のあちこちから熱湯が噴き出している。


 まるで巨大な火山地帯だった。


「うわぁ……」


 山肌から噴き出す湯気を見ながら、ユージが目を輝かせる。


「これ、完全に温泉地じゃん」


「癒やしどころか、登るだけで死ぬぞ」


 隣でリシュンが呆れたように言う。


 実際、坂は異常なほど急だった。


 荷車など到底通れない。


 普通の人間なら、登るだけで息が切れる。


「だったら、登山電車を作っちゃえばいいじゃん」


「しかし、坂が急すぎる」


 リシュンは腕を組む。


「普通の鉄道では、車輪が空転して登れんぞ」


「だったら、スイッチバックさせればいいじゃん」


「スイッチバック?」


「坂の途中で先頭と後方を入れ替えながら登るんだよ」


「一気に登らず、ジグザグに進む感じ」


「そうすれば、傾斜をごまかせるだろ?」


 一瞬、リシュンの目が見開かれる。


「……なるほど。その手があったか!」


 次の瞬間。


「おいアルノルト!!」


 リシュンが勢いよく叫ぶ。


「早速やるぞ!!」


「承知しました!」


 二人はそのまま猛烈な勢いで走り去っていった。


 そして――気がつけば、本当に完成していた。


「仕事が早すぎるだろ……」


 ユージが若干引いた顔で呟く。


 一行が到着した温泉街は、見事なものだった。


 山肌を縫うように走る山岳鉄道。


 湯煙立ち上る石畳の街。


 木造旅館が立ち並び、硫黄の香りが辺りを包んでいる。


 坂道の途中には足湯。


 土産物屋。


 湯気を上げる屋台。


 完全に温泉観光地だった。


「なんか妙に完成度高くない?」


「温泉街ってのはなァ!」


 タケシトがビシッと人差し指を立てる。


「意味もなくテンション高い土産物屋が必要なんだよ!」


「あと温泉まんじゅう!」


「さらに黒たまご!!」


 そう言って、真っ黒な卵を掲げる。


「食うと寿命が七年伸びるぞ!」


 一拍置く。


「たぶん!」


「雑だなァ!?」


 ユージが即座に突っ込む。


 ナーチャンは黒たまごをじっと観察していた。


「硫黄成分による変色ですね」


「科学的根拠は特にありません」


「温泉に科学を求めるな!!」


 タケシトが力強く言い切った。


 その日の夜。


 男湯では、ユージたちが露天風呂に浸かっていた。


 山の空気は冷たい。


 だが、湯は驚くほど温かい。


 白い湯煙が、静かに夜空へ溶けていく。


「ふぃ〜〜……」


 ユージが、完全にだらけ切った声を漏らす。


「これはダメになる温泉だわ……」


「そのための温泉だからなァ」


「まあ、リーダーも一杯飲めや」


 タケシトが湯に浮かべたお盆から、盃を取ってユージに渡す。


 一口飲んだユージは、感慨深げに言う。


「やっぱ温泉と言えばこれだな。五臓六腑に染み渡るぜ」



 一方、女湯には静かな湯気が漂っていた。


 木造りの露天風呂。


 無色透明の湯が、やわらかく肌を包む。


 山の夜風が、火照った頬を優しく撫でる。


「いいお湯ですねぇ」


 神楽耶が、ほうっと息を吐く。


「ええ」


 ナーチャンも珍しく、少しだけ表情を緩めていた。


 その時。


「しかしリコよ。おぬしはなかなか立派じゃのう」


「へっ?」


 リコがきょとんとした顔で振り向く。


「ほお、触り心地もなかなかじゃ」


「ちょっ、勝手に触らないでください!」


 神楽耶の手から逃げるように、リコが慌てて胸元を隠した。


「まあまあ、女同士じゃから良いではないか」


「良くないです!」


 その様子を見ながら、神楽耶がちらりとナーチャンを見る。


「ナーチャンは……がんばれ」


「胸に脂肪を付けることの必要性がわかりません」


 ナーチャンは真顔だった。


「肩は凝りそうですし、走る時に邪魔になります」


「しかしのお」


 神楽耶がニヤリと笑う。


「ユージは乳のでかい女性が好きだと思うぞ?」


「な……」


 一瞬で、ナーチャンの顔が赤くなった。


「あはは、おぬし、顔に出すぎじゃ。まあ、発展途上ということにしておこう」


「私の胸のことは放っておいてください!」


「それよりも、神楽耶さまも洗濯板ではありませんか」


「わらわは“のじゃロリキャラ”なので乳は不要なのじゃ」


「なんですかそれは」


 リコが思わず真顔で突っ込む。


 しばらく、笑い声が湯煙の中に響いていた。


 だが。


 ふと。


 リコの表情が静かに曇る。


「……ヨーコにも」


 ぽつりと、呟く。


「見せてあげたかったな」


 湯の音だけが、静かに響いた。


 ナーチャンが、そっと目を伏せる。


 神楽耶も、今度は何も茶化さなかった。


 その頃。


 男湯では。


「うおっ!?タケシト、その黒たまご五個目だろ!?」


「温泉地に来たら黒たまごを食う!!それが礼儀だァ!!」


「そんな礼儀聞いたことねえよ!?」


 騒がしい声が響いていた。


 その声を、女湯の三人は小さく聞いていた。


 リコは、湯煙の向こうを見つめながら、小さく息を吐く。


 そして。


 静かに呟いた。


「……早く、助けに行かないとね」


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