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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第二部 聖王国編

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第105話 揺らぐ祈り

 そこにあるのは静寂だった。


 聖堂の奥。


 誰もいない祈りの間で、ヨーコはひとり跪いていた。


---


 目を閉じる。


 手を組む。


 祈る。


---


 いつも通りのはずだった。


---


 だが。


---


(……違う)


---


 胸の奥に、微かな引っかかりがあった。


---


 神託は、正しかった。


 今回も。


 間違いなく。


---


 子供たちは救われた。


 人々は感謝し。


 神を讃えた。


---


 それは、喜ばしいことのはずだった。


---


 なのに。


---


(どうして……)


---


 思考が止まらない。


---


 あの言葉。


 神託の一節。


---


「日沈む森の鎮守の下――」


---


 曖昧だった。


 象徴的だった。


 解釈されるべきものだった。


---


 それが、神託のはずだった。


---


 なのに。


---


 結果は、あまりにも正確だった。


---


 まるで。


---


 最初から答えを知っていたかのように。


---


 ヨーコは、ゆっくりと目を開いた。


---


 祈りが、止まっていた。


---


 こんなことは、初めてだった。


---


 神の声を疑うなど。


 あってはならないことだった。


---


 それなのに。


---


 疑問は、消えない。


---


「……私は」


---


 小さく呟く。


---


「何を、信じているの……?」


---


 その言葉に、自分で驚いた。


---


 信じることに、疑問を持ったことなど。


 一度もなかった。


---


 神は絶対だった。


 神託は絶対だった。


---


 だからこそ、自分は選ばれた。


---


 そう、教えられてきた。


---


 そう、信じてきた。


---


 なのに。


---


 その前提が、揺らいでいる。


---


 ふと。


 ある光景が、脳裏をよぎった。


---


 あの日。


 神託ミサ。


 民衆のどよめき。


---


 そして――


---


 ユージにゃん。


---


 招き猫の姿をした、ふざけた存在。


---


 丸い顔。


 ぴこぴこと動く猫耳。


 片手を上げた招き猫の姿。


---


 どう考えても、神聖とは程遠い。


---


 なのに。


---


 自分よりも先に。


 自分と同じ言葉を語っていた。


---


(どうして……?)


---


 神の言葉は。


 唯一のはずだった。


---


 神だけが知る未来。


 神だけが与える導き。


---


 なのに。


---


 人が。


---


 再現している。


---


 しかも。


---


 あんな、ふざけた猫の姿で。


---


 思い出した瞬間。


 胸の奥が、ちくりと痛んだ。


---


 神託は、絶対だった。


---


 比較されることなど。


 今まで、一度もなかった。


---


 だから。


---


 疑う必要も、なかった。


---


 だが。


---


 あの日。


 民衆は見てしまった。


---


 神託と。


 神託を再現する“別の存在”を。


---


 そして、自分も。


---


 見てしまった。


---


(もし……)


---


 その先を考えるのが、怖い。


---


 だが。


---


 もう。


---


 考えないふりは、できなかった。


---


 そのとき。


---


「ヨーコ様」


---


 不意に声が響いた。


---


 ヨーコは肩を震わせる。


 振り返ると、そこには大司教が立っていた。


---


「お加減が優れないと伺いましたが」


---


「……いえ」


 ヨーコは、慌てて姿勢を正す。


---


「問題ありません」


---


 反射的な言葉だった。


---


 だが。


---


 それを口にした瞬間。


---


(違う)


---


 自分で、わかってしまった。


---


 問題は、ある。


---


 しかも。


---


 取り返しがつかないほど、大きな。


---


 大司教は、しばらくヨーコを見つめていた。


---


 何かを測るように。


---


 やがて、静かに言う。


---


「無理はなさらぬように」


---


 それだけを残して、去っていった。


---


 再び、静寂。


---


 ヨーコは、ゆっくりと息を吐いた。


---


 祈ろうとする。


---


 だが。


---


 言葉が、出てこない。


---


 神に捧げるはずの祈りが。


---


 形にならない。


---


(……どうして)


---


 問いだけが、残る。


---


 答えはない。


---


 いや。


---


 答えに、近づいているのかもしれない。


---


 だからこそ。


---


 怖い。


---


 ヨーコは、両手を強く握りしめた。


---


 祈りの姿勢のまま。


---


 動けなかった。


---


 その夜。


---


 神に最も近いはずの少女は。


---


 初めて。


---


 神から、遠ざかっていた。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。


このところ、スピンオフ短編にハマって、立て続けに投稿してしまいました(^_^;)

ユージ、ナーチャン、リシュン、神楽耶、タケシト。

みんな好きなキャラですが、僕はやっぱりナーチャンが1番かな。

皆さんはいかがですか?

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