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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第二部 聖王国編

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第104話 作られた奇跡

 最初に消えたのは、ひとりの子供だった。


 夕暮れ時。


 家のすぐ近くで遊んでいたはずの少年が、忽然と姿を消した。


 争った形跡はない。


 叫び声もない。


 ただ、いなくなっていた。


 そして、二人目。


 三人目。


 神隠し。


 誰かがそう呼び始めた。


 街に、不安が広がる。


 戸は早く閉ざされ。


 子供は外に出されなくなる。


 それでも。


 消える者は、消えた。


 理由はわからない。


 手がかりもない。


 ただ、恐怖だけが積み重なっていく。


 そして――


 神託が下された。


 広場に人々が集まる。


 張り出された書面を、固唾を呑んで見つめる。


「日沈む森の鎮守の下

 枯れ井の底に影は潜む

 三度の鐘の後に求めよ」


 ざわめきが広がる。


「……森だ」


「北の森に、古い社があったはずだ」


「枯れ井戸も……あったな」


 人々が、意味を繋ぎ始める。


 断片的な言葉が、ひとつの場所を指し示す。


 そして。


 三度の鐘の後。


 人々は、その場所へ向かった。


 森の奥。


 朽ちかけた社。


 その裏手にある、枯れ井戸。


「……ここか?」


 誰かが呟く。


 だが、すぐには誰も覗き込もうとしない。


 息を詰めた沈黙が落ちる。


 やがて、一人が意を決して縁に手をかけた。


 灯りを落とす。


 暗闇が、底を飲み込む。


 ――その奥に。


 いた。


 消えたはずの子供たちが。


 生きたまま。


 まとめて。


 歓声が上がる。


 泣き声が響く。


 抱きしめる。


 崩れ落ちる。


「神託だ……!」


「神様が導いてくださったんだ!」


 誰かが叫び。


 それが、広がる。


 奇跡だった。


 少なくとも――そう見えた。


 一方。


 ユージア国の会議室では、ユージたちが全員で、ハミータが持ち帰った報告を聞いていた。


 室内は静かだった。


 だが、その沈黙は重くはない。


 状況を見極めている者たちの、それだった。


「まあ、火種はしっかり残せたみたいだな」


 ユージが椅子にもたれながら言う。


「しかし……神隠しか」


 ハミータが短く頷く。


「発生のタイミング、規模、そして神託の精度」


「いずれも不自然です」


「だろうな」


 ユージは軽く息を吐く。


「典型的な目くらましだな」


「ほら、よくあるだろ」


「都合の悪い問題が出た直後に、やたらデカいスキャンダルが出てきて」


「気づいたら、みんなそっちの話題で持ちきりってやつ」


「裏で仕込んでる側からすりゃ、楽なもんだよな」


 苦笑して、続ける。


「しかし……聖教会ってのは、ホント悪い奴らだな」


「ただのマッチポンプじゃねえか」


 ナーチャンが静かに頷く。


「つまり」


「今回の神隠しは、意図的に起こされた可能性が高い、ということですね」


「ほぼ確定だろうな」


 ユージは肩をすくめる。


「恐怖を作って、神託で解決する」


「構造としては単純だ」


 リコが、不安そうに口を開く。


「でも……助かったんだよね?」


「子供たち……無事だったんだよね?」


「まあな」


 ユージは短く答える。


「だからタチが悪いんだよ」


 室内が、わずかに静まる。


「結果だけ見りゃ、“良いこと”だ」


「でも、その裏で何をやってるかって話だ」


 ナーチャンが補足する。


「恐怖と救済を一体化させることで」


「神託への依存度を意図的に引き上げています」


「しかも成功体験付き」


 リシュンが苦笑する。


「そりゃ信じるよなあ」


 ユージが小さく頷く。


「人はな」


「“救われた”って実感には抗えない」


 その言葉には、軽さはなかった。


 一方。


 街の空気は、明らかに変わっていた。


「やっぱり神託は正しいんだ!」


「ほら見ろ、ちゃんと助かったじゃないか!」


 声が戻る。


 安堵が広がる。


 笑顔が戻る。


 だが。


「……確かに助かった」


「でも……あの時のこと、忘れていいのか?」


 小さな声。


 消えない違和感。


 それは、確かに残っていた。


 そして――


 ヨーコは、ひとり立っていた。


 手には、神託の書面。


 そこに書かれた言葉。


 曖昧で、象徴的で。


 だが――


 結果は、あまりにも正確だった。


「……どうして」


 小さく呟く。


「こんなに、正確なの……?」


 胸の奥に、何かが引っかかる。


 神託は、神の言葉のはずだった。


 曖昧で。


 解釈されるもののはずだった。


 なのに。


 まるで――


 最初から答えが決まっていたかのように。


 その違和感は。


 静かに。


 だが確実に。


 ヨーコの内側を揺らしていた。


 ――それは、信仰に対する、初めての疑問だった。


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