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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第二部 聖王国編

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第103話 神隠しの設計図

 夜。


 街の外れ。


 使われなくなった倉庫の一角に、数人の人影が集まっていた。


 灯りは絞られ、声も抑えられている。


 だが、その場には、確かな意志があった。


---


「……もう、見過ごせねえ」


 男が低く言う。


「俺たちは、あれを見た」


「神託と同じ言葉を、先に出す“何か”をだ」


 周囲が頷く。


 誰も否定しない。


---


「もし、あれが再現できるものなら」


「神託は……唯一じゃない」


 その一言が、静かに場を揺らす。


---


「俺は神様を疑いたいんじゃねえ」


 別の男が言った。


「でもよ……」


「神様の言葉を、誰かが勝手に作ってるとしたら」


「それはもう、神託じゃねえだろ」


---


 沈黙。


 だが、それは否定ではなかった。


---


「確かめる必要がある」


 誰かが言う。


「このまま、何も考えずに従うのは――違う」


---


 踏み出せば、戻れない。


 そのことを、全員が理解していた。


 それでも。


 止まらなかった。


---


 同じ頃。


 別の場所でも、同じような集まりが生まれていた。


 酒場の裏。


 民家の一室。


 倉庫。


 小さな声。


 小さな集団。


 だが、それは確実に増えていた。


---


 声は、繋がり始めていた。


---


 中央聖堂。


 大司教が、静かに報告を行っていた。


「反教会的思想を持つ集団が、複数確認されています」


「規模は小さいものの、組織化の兆候があります」


 枢機卿は、目を閉じたまま聞いていた。


 沈黙。


 重い時間が流れる。


---


「……やはり」


 大司教が、言葉を選びながら続ける。


「例の者たちを使い」


「火種を消してしまった方がよろしいかと」


---


 その意味は明白だった。


 シャドウ。


 聖王国の影。


 表に出ることのない、最終手段。


---


 枢機卿が、ゆっくりと目を開いた。


---


「暗殺は悪手なのだよ」


---


 静かな声。


 だが、即答だった。


 大司教が、わずかに息を呑む。


---


「民衆はすでに、彼らを“反教会派”として認識している」


「その上で、彼らが続けざまに死ぬ、あるいは姿を消せば――」


 わずかに間が落ちる。


「疑いは、どこに向く?」


---


 大司教は言葉を失った。


---


「今はまだ、“疑念”の段階だ」


 枢機卿は続ける。


「それを“確信”に変えるような真似は、愚策だ」


---


「では……どう対処を?」


---


 わずかな沈黙。


 そして――


---


「別の事件を起こせばよいのだよ」


---


 静かな声だった。


 だが、その意味に、大司教の表情が強張る。


---


「人の関心というものは、そういうものだ」


「新しい火種があれば、そちらへ向く」


 わずかに間を置く。


---


「……神隠しなど、よいだろう」


---


 さらりと言った。


 まるで、些細な提案のように。


---


「神隠しで行方不明になった子供を――」


 枢機卿は、静かに続ける。


「神託によって救い出されたとしたら」


 わずかに視線を上げる。


「その親は、どのような反応をすると思うかね?」


---


 問われた大司教は、一瞬言葉に詰まる。


「そ、それは……」


「感謝で、むせび泣くでしょう」


---


「そうだろうな」


 あっさりと頷く。


---


「恐怖の直後に与えられる救済は、強く心に刻まれる」


 一拍置く。


---


「そして――」


---


「民衆は、美談を好むのだよ」


---


 大司教は、何も言えなかった。


---


「不安を煽り」


「そして――神託で導く」


「場所も、時も、すべて“示してやる”のだよ」


---


「それで、民衆は……」


---


「安心する」


 即答だった。


---


「神託は、再び“必要なもの”になる」


---


 枢機卿は、淡々と続ける。


---


「民衆とは、より最近の出来事に関心を向けるものなのだよ」


「そして――」


 わずかに間を置く。


---


「少し前のことなど、驚くほど容易く忘れる」


---


 その言葉に、温度はなかった。


---


 その夜。


 小さな声は、さらに増えていた。


 誰にも知られずに。


 誰にも止められずに。


---


 それはまだ、炎ではない。


 だが。


 確実に、火種となっていた。

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