97話 面倒くさい王子様
さて、今、僕はどうして自分がこのような状況に陥ったのか、まるで理解ができていない。
ガーラン王子とアリーシャが図書館にいたこと自体はそれほど不思議ではなかったが、なぜ自分に声をかけてきたのか。全く理解できなかった。
しかし、察するに、どうもガーラン王子はなにか僕のことを勘違いしている節があるようだ。
何か目を付けられるようなことをした覚えはないが、十中八九、フレデリック王子関連だろう。
しきりに彼の名が登場しているのだからそうでなければおかしい。
大方、僕やニーナがフレデリック王子の味方に付いて王選を有利に運ばせようとしているとでも思っているのかもしれないが、断じて僕はあの王子と裏では何かがあるとかそんなのではない。
上下関係がはっきりしている以上、友達と呼んでいいかも怪しいような仲だというのに、そんな人間と深くかかわりを持っているはずがないのだ。
だいたい、僕とニーナが付いたところで何がどう変わるというのか。
いずれは他家に嫁ぐ箱入り娘と、主の意向一つで職を失いかねない、雇われ職業軍人を味方につけたところで生まれるメリットなどたかが知れているだろう。
英雄なんて言われてたって、僕自身はその恩恵を一度も感じたことがないのだから、他人の王子様方がいい思いをできるとは到底思えない。
それとも、狙いはエインベルズそのものなのだろうか? それなら筋は通らなくはないが……いや、だとしてもそれなら長女であるカレン様を狙うべきだろう。
あまり顔を合わせる機会はないが、この学園にはカレン様も来てる。今は三年生のはずだ。
「ウォレン殿」
「え、は、はい!」
考え事をしていると真摯なまなざしでガーラン様が僕を見た。あの瞳の奥でいったい何を考えているのだろうか。
「この後、時間はあるか」
「はい、まあ、暇だったので図書館に来たわけですし……」
「それは結構。なら、この後、俺と剣を交えよう」
「えっと、なぜですか?」
「俺という人間を知ってほしい。武人は言葉よりも剣を交わすほうがいいのだろう?」
「え、いや、それは……」
「アリーシャ、邪魔をして悪かったな」
自信満々に僕にそう告げると王子は立ち上がってアリーシャに別れを告げた。
「い、いえ、お気になさらず」
「ああ。それじゃあ、また明日。行こうか、ウォレン殿」
そして王子は僕を待たずにそそくさと出口に向かい始めた。
そして、心の中で僕は、あまり話したことはないが、ガーラン王子は完全に面倒くさい人間であると認定した。
というか、人の話を少しは聞いてほしい。
剣を交わすことで分かり合える、などという輩はただのキザ野郎である。いや、実際に分かり合えることがあるのかもしれないが、少なくとも僕にはそんな体験はない。
本気の勝負なんて、お互いに獣畜生と変わらない本能むき出しの殺し合いとなるのだから、だから、お互いの心情を分かり合うなど、ありえないのだ。
しかし、王子はそんなことを聞くつもりはないのだろう。
しぶしぶ僕は王子の後ろをついていくこととなった。
「ところで……」
すると、唐突に王子が口を開いた。
「?」
「決闘はどこで行おうか」
歩き出したのはいいものの場所は考えていないらしい。この人はあれだな、後先考えないタイプか。そういえば、原作でも天然設定がついてたような気がする。
「……この時間であればいい場所を知っています」
仕方なく僕は王子の前を歩き、例の裏庭に向かうことにした。エリザベートに呼び出されてからそれなりに時間もたつし、今であればだれもいないだろう。
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