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96話 第一王子の不安 その四  (アリーシャ視点

 ガーラン様の問いにベストール様は黙り込み、深く鼻から息を吐いた。なりふり構わず一切のお駆け引きもなく直接的に問いかけるガーラン様に戸惑っているのだろう。


 多分これは、頭がいいからこその悩みなのだ。立場が上の相手がここまで包み隠さず要件を投げかけてきているのだから、返答を濁すのも一苦労なのだ。


「厚かましいこととは存じますが、殿下はいったい何が目的なのですか? 私には殿下が私にそのようになさる理由がわかりかねます。ご教示願えると助かるのですが」


「なに、それほど深い理由はないさ。英雄と呼ばれる君が誰ともかかわりを持たないというのは幾分、不自然な話だと思っただけさ」


「不自然、ですか……私はそうは思いませんが」


「どうしてそう思う?」


「知名度だけの平民上がりの騎士とわざわざ交流を持とうとする方など、早々はいないかと。現に、私が孤立しているのがいい証拠ではありませんか? おそらくこれは必然だったのではないでしょうか」


「…………」


 ベストール様の言い分にガーラン様は反論することができなかった。


 確かに否定できない。事実としてベストール様は孤立していたのだから必然的にガーラン様の言い分は道理が通らなくなる。


 たとえそれが、意図的に彼によって作られたものだとしても。


 ここにきてガーラン様がベストール様に声をかける理由がなくなってしまった。声をかける理由を否定されたのだから、それ以上話が広がらないのだ。


 まさか、ベストール様はこのことを狙っていたのだろうか。だとしたら恐ろしい。


 これからガーラン様はどうするつもりなのだろうか。


「……俺は……」


 返答に焦り、苦し紛れにガーラン様の口が開く。


「俺は、そうは思わない」


「?」


「国を動かすのは貴族だけじゃない。むしろ、貴族が動かせるものなどたかが知れている。本当の意味で国を動かすのは平民たちだ。そして君は、その平民たちから絶大な支持を得ている」


「……不本意ではありますが、そのようですね」


「そうだろう」


 とっさに思い付いた口実が思いのほか理にかなっていたことがうれしいのか、ガーラン様は表情を明るくした。


 というか、ベストール様を引き入れる最大の目的がこれだ。完全に話の主導権を握られてしまっているがゆえに忘れかけるところだった。


「つまり、私と関係を持っておけば後々、平民たちからの支持が得やすい。そうおっしゃるのですね」


「ああ。決しておかしな話ではないだろう」


「でしたら殿下は私にではなく、私の周囲に警戒なさったほうがよろしいかと」


「……なに?」


 唐突な話題の方向転換にガーラン様は表情を鈍らせた。私もどういう意味なのかよく分からなかった。


 しかし、ベストール様の周囲、という言葉を聞き、一人の人物が私の脳裏に浮かびあがった。それは、フレデリック様だった。


「確かに殿下の言う通り、私と関係を持っておけばそれだけ有利に事が運ぶこともあるかもしれません。ですが、現状私が孤立している以上、それはごく少数派な考え方でしょう。そして、そんな少数派の考えを実行してしまうような人物は大抵、野心家であると思われるのです」


「つまり、フレデリックに警戒しろと、そういうのか」


「え、いや、別にそういうわけでは……」


 ガーラン様がフレデリック様の名を出した途端、ベストール様は表情を変えて否定し始めた。そのしぐさはまるで図星でもつかれたかのようで、見過ごすことのできるものではなかった。


 確かにきっかけは街で偶然ベストール様が私たちを見つけてくれたことだった。しかし、それでも結果としてフレデリック様とベストール様がつながりを得たのは事実なのだ。


 あそこで一言二言、礼を言って去ることはフレデリック様にはできたはずである。にもかかわらず、フレデリック様は自らベストール様と友人になろうとしていた。


 まさか、本当にフレデリック様がそうなのだろうか?


 それとも、これもこちらを混乱させるための巧妙な演技なのだろうか。私にはもう何が何だか判断がつかない。ガーラン様にもそれは言えることで、困惑を隠しきれていなかった。そして、片手で顔を抱え、口を開いた。


「ベストール・ウォレン。正直、私には君の考えは到底理解しえない場所にあるらしい」


「え、あの……」


「だが、第一王子として、私、いや、俺は君という不安分子を放っておくわけにもいかない」


「あの、話を……」


「フレデリックに後れを取ったとこは認めよう。だが、君さえよければ、今からでも俺にチャンスをくれないか」


「は? え? いや、何をおっしゃって……」


「今からでも、俺と友達から始めないか?」


 そう言ってガーラン様はベストール様の手を取った。


 突然の行動に私もベストール様も動揺を隠せなかった。いや、ベストール様は動揺しているふりをしているだけかもしれない。


 何にせよ、私は今、なにかとても壮大な何かの渦にいるのかもしれない、そう思った。



***



(ぅえー、なにがなんだかさっぱりわけわかんないんだけど……)


 僕は心の中でツボがあるなら叫んでやりたいと思った。



ここまで読んでいただきありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] 弟王子から友達から始めよう、兄王子からも友達から始めよう、ベストールはモテモテだなぁ(白目)
2020/05/09 22:32 退会済み
管理
[一言] 爪が甘い男
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