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95話 第一王子の不安 その三  (アリーシャ視点

 私が動揺していると、ガーラン様は、少しだけ笑ったかと思うと、「ちょうどいいかもしれないな」と、つぶやいて立ち上がった。


「どうしなさったんですか?」


「百聞は一見にしかずというだろう。それに、こんなタイミングでもなければ話しかけることも難しいだろうしな」


 そう言ってガーラン様はベストール様のもとに歩いて行った。


 クラスではフレデリック様やニーナ様がいるため、直接は話しかけにくいが、今は一人のようだから話しかけやすいと思ったのだろう。


 それに、ちょうど彼の話題を持ち出していたのだから、ある意味では、話しかける建前もできたといっていいかもしれない。


 ガーラン様にとってはこれ以上ないほどに最高のタイミングだったのかもしれないと思った。


「やあ、ウォレン殿」


 唐突に話しかけられたベストール様は少し驚いたような顔をした後、平静を取り戻した。


「? ガーラン殿下。私などにお声をかけてくださりありがとうございます。図書館にいるということは、殿下も読書ですか?」


「ああ。読みたい本がないわけではないが、君を見つけたんでね。少し話がしたいんだが、いいかな?」


「話ですか? 別にかまいませんが」


 ベストール様はただただ不思議そうに返答を返す。普通に考えれば唐突な出来事に単純に動揺していると受け取るべきだが、ガーラン様の話を聞いたうえではなんとも裏があるようで怖かった。


 二人は立ち話もなんだからということですぐに私の使っているテーブルまで移動してきた。


「フローレンスさんじゃないですか。勉強ですか」


「は、はい」


 本当はガーラン様と話しててほとんど進んでないけど、私は愛想笑いを返した。


「よかったんですか、殿下? お二人の時間を邪魔するのもなんですし、私のほうは日を改めてもかまいませんが……」


 ベストール様は私の愛想笑いから何かを察したのか、そんなことを言い出した。


 別に私とガーラン様はそんな関係ではないが、私個人としてはガーラン様とであればまんざらでもない。というか、私では不釣り合いすぎる。


 その言葉を受けて私は少しうれしかったが、口をつぐみ、うつむくのみにとどめた。


 しかし、時折こうして身分の高い方々とそのようにみられることがあるたびに、節操のない自分に嫌気がさす。


 私はいったい誰のことが好きなのだろうか。本当は好きな人なんていないのかもしれない。ただ、やさしくて、格好のいい皆さんにちやほやされて、浮かれているだけなのかもしれない。そう思うと、より一層、自己嫌悪に陥るのであった。


「べ、別に俺とアリーシャは何もないぞ! 気にすることはない。さあ、座ってくれ」


 あわただしい完全否定とともにガーラン様がそういうと、ベストール様は私の隣に座った。そしてガーラン様も先ほどの席に座る。


 そこまで否定されるとさすがに私も傷つく。


 でも、当たり前だよね。私みたいな平々凡々で貧乏な平民と王子様とじゃ釣り合いが取れない。


「それで、私に話とは?」


「あ、ああ、そのことなんだが、まあ、そこまで気構える必要もないさ。少し気にかかっていることを聞きたいだけだ」


 ガーラン様はそういうと、咳払いをして背筋を伸ばし、いつもの凛としたガーラン様に戻った。


「単刀直入に聞かせてもらう。君はフレデリックに付いたのか」


 あまりにも端的なその質問にベストール様は眉一つ動かすことはなかった。


「残念ながら、その質問には肯定も否定もございません。あくまで私は一介の騎士ですので、そういう話はもっと上の爵位をお持ちの方々となさるべきでしょう」


「では、フレデリックとは何もないのだな?」


「お言葉ですが、そういうわけでもございません。しいて言うのであれば、ご存じの通り、フレデリック様には私のことを友人のように扱っていただいております。そのことについては否定するつもりもございません」


 その回答は私にはずいぶんといやらしいもののように聞こえた。


 ガーラン様のいう、付く、とは、この学園における派閥のことをさしている。フレデリック様を主軸とする派閥にベストール様が付いたのか、そういう意図の質問だった。


 しかし、ベストール様は遠回しに、自分にそんな小難しい話はしてくれるな、と言っているように私には聞こえた。


 しかし、ベストール様の言い分も筋は通っている。彼は表向きにはどれだけ大層な肩書を背負っていようとも、騎士である。


 騎士は確かに貴族として数えられるが、その内情は馬や鎧を維持できる少し裕福な傭兵である。確かに王子に付いただの、付かないだの、のレベルの話をする存在ではない。


 至極まっとうなその主張にガーラン様はすこし表情を曇らせた。


「……言い方が悪かったな。謝るよ。では、ニーナ嬢はフレデリックに付いたのか?」


 またもストレートな質問。一個人として、ではなく、ニーナ様という主が所属している派閥にであれば間接的にベストール様も所属しているといえる。


「それについてもお答えしかねます。私が知りうることではありませんので」


「ほう、君とニーナ嬢はずいぶんと仲がいいと聞いたが」


「それはあくまで周囲の方々と比べればの話です。加えて、お嬢様は女性で、私は男ですので、お互いに理解できる部分も距離もたかが知れております」


 絶対嘘だ。 


 しかし、ガーラン様にはこれを否定する理由がない。かくいう私もニーナ様に怒られているため否定はできない。


 のらりくらりと本当に聞きたいことは一言も話さないベストール様を見て私は確信した。この人はガーラン様の言う通り、本当は裏では何を考えているかわからない油断のならない人物なのだ。


 この前はニーナ様が怖すぎて話の分かる良い人だなんて思ってしまったけど、たぶん、この人もニーナ様と同様、あるいはそれ以上の二面性を持った人物なのかもしれない。


 いや、そうに違いない。そうでなければ私と同い年で英雄なんて務まるはずがない!


「予想通り、あまり食えないらしいな」


「私にそのつもりはないのですが……殿下の機嫌を損ねてしまったのであれば謝罪いたします」


「その必要はないさ。君にも事情はあるのだろう」


「いや、別にそういうわけではないのですが……」


「ならば次の質問だ。君が仮にフレデリックについていないとして、どこかに付くつもりはないのか?」


「殿下……先ほども申しましたが、私は一介の騎士でございます。殿下が私をどのように見ているかは私の浅知恵ではわかりかねますが、あまりそのような話をするのはよろしくないかと」


「ならば、どこにもつくつもりはないのか?」


「……」



ここまで読んでいただきありがとうございます!


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