70話 クラス分け
入学式が終わるとすぐさまクラス分けが発表された。
今年の入学者は大体六百人ちょっとらしい。入学条件は最低限の学力があり、莫大な学費が払える貴族であること。あるいは、有力貴族からの推薦を受けた優秀な学生であることである。
推薦を受けた学生は初年度の学費が免除されるが、翌年からは上位三十パーセント以内の成績を収めなくては貴族と同額の学費を納めなければならなくなる。よって、必然的に自主退学という道を選ぶものが大半である。
とはいえ、ほとんどが貴族であるため、平民は珍しい。また、平民たちも学業でまで劣るまいと努力するため、退学していく人間は実際のところはほとんどいないらしい。
「同じクラスみたいね」
「そだな」
ニーナは僕の名前と自分の名前を見つけるや否やそう言ったが、僕はそっけなく返事をした。理由は単純にほかのことに気を取られていたからである。
僕のクラスは一組。六十人のクラスである。そのクラス名簿の中から、一人、また一人と要注意人物の名前を発見していた。
予想していたことではあるが、やはり受け入れがたいものである。あれはフィクションであり、現実ならそんなことはあり得ないだろうと一縷の望みを持っていたが、あっけなくそれは断ち切られた。
だって、普通に考えたらわざわざ一クラスに王族を三人も、しかも敵対関係にある人間を固めるとか頭悪いだろ!
しかも、狙ったようにそこにはゲームの主人公、アリーシャ・フローレンスの名前もちゃっかりあるし、おまけに僕とニーナ。そしてエリザベートの名前もある。
このクラス、一言で言ってしまえばカオスである。僕がそう思った時だった。
「はいこれ」
そう言ってニーナは僕に黒ぶち眼鏡を手渡した。
「あなた、戦場帰りだからか知らないけど、結構人相悪いわよ。昔はもう少しかわいい顔してたのに。眼鏡でもかけて少しはごまかした方がいいわ」
「う……わかった」
言われるがままに眼鏡をかける。伊達メガネではあるが、どうもなれない。
「プッ。少しはマシになったんじゃない?」
半笑いでそういうニーナに少しイラっとしたが、今はそれどころではない。そろそろとあるイベントが始まるころだ。
そう思って周囲を見渡したその時、アリーシャ・フローレンスの姿が視界に留まった。そして、どうも彼女はとある人物のもとに足を運んでいるようだった。
「あ、あの!」
アリーシャはフレデリック王子に後ろからぎこちなく声をかけた。
「?」
「せ、先日はありがとうございました! まさか同じ学園でしかも学年の人だなんて思いませんでした!」
アリーシャは屈託のないまなざしで王子を見つめた。実際、彼女に悪意や下心はなく、純粋にお礼を言っているだけである。
しかし、周囲はそうは受け取らなかったらしい。
「あの、よかったら今度こそお名前を……」
「無礼者!」
アリーシャの言葉を遮り、王子の取り巻きらしき貴族の男が二人の間に割って入った。それに倣うように複数の取り巻きがアリーシャを囲う。
「この方をどなたと心得る! 恐れ多くもマルクス王国第二王子、フレデリック殿下であらせられるのだぞ! 平民が身の程を知れ!」
「え、ええええええぇーーー!」
アリーシャはずいぶんとベタな驚き方をした後、みるみると顔色を変えていった。そして言葉を失い、その場に立ち尽くしてしまった。
そしてそんなタイミングを狙ってか、またも厄介な人物が登場する。
「その通り。愚民風情がきやすく話しかけていいお方ではありませんわ」
巨体を揺らし、靴音を鳴らしながら、歩くその姿を僕が見間違えるはずもなかった。それは見まごうことなきエリザベートであった。
以前あったときからほとんど変わっていない。しいて言うのであれば、あの時よりももう少し太ったような気がする。とにもかくにも、アニメで見たエリザベート・クラウディウスのその姿のままにその女は存在していた。
「わかったら今すぐ殿下の視界からその汚らわしい姿を消し去りなさい。さもないと……」
そう言いながらエリザベートはカエルのように大きな口をより一層大きく広げ、嗜虐的な笑みを浮かべ、手を挙げた。
大方、アリーシャの頬を叩いてやるつもりなのだろう。しかし、その時、エリザベートの手をつかむ者がいた。
「エリザベート、下がってくれ。俺は別に構わない」
フレデリック王子である。顔もよければ、なんというか、声色一つとっても異性を誘惑する魔力を秘めているようなそんな色気を発している。
そんな人間に名を呼ばれたエリザベートはうっとりとした表情で「は、はいぃ」と、なんとも間抜けな、最後にハートマークでもついていそうな返事を返した。
そしてフレデリック王子は取り巻きたちを押しのけ、再びアリーシャと対面する。
「すまないが、おそらく人違いだろう。君、名前は?」
「ア、アリーシャ・フローレンスです!」
「そうか。同じクラスになったんだし、これから仲良くしてもらえると助かる。それじゃ」
そういうや否や、フレデリック王子は身をひるがえし、教室に向かってしまった。そのあとは、嵐が去った後のように静かなものであった。
「私たちも教室に行きましょうか」
「そだな」
僕は短くそうニーナに返答した。
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