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71話 祝 ボッチ生活

 この学園では、普通の日本の高校と違って最初の授業で自己紹介もなければ、クラスみんなが仲良くしましょうね、みたいな風潮もない。確かに、日本でもボッチは存在するが、この学園では日本以上に自分から行動を起こせない人間は孤立しやすい。


 理由は単純に、この学園の教師がそもそも貴族の生徒たちに大きく出れないことだったり、大貴族の生徒を中心とした派閥が出来上がることなどがあげられる。


 このクラスであれば、各殿下たちだったり、それなりに階級の高い貴族数人があげられる。


 で、当の僕はというと……


(どうしたもんかな……)


 どこの派閥にも属することができなかった。入学式で失礼なことをしてしまっている以上、殿下たちの派閥に入ることはできない。かといって、ほかの貴族たちと何かつながりがあるわけでもない。


 入学一週間にして、もしかすると僕の学園生活は魔境ルートに入ってしまったのかもしれない。そのことに僕は教室の隅の席で一人落胆した。


 とはいえ、これはむしろ、僕にとっては好都合なことなのかもしれない。下手に攻略対象の一人と交友関係を築いてしまってほかの監視がおろそかになってしまっては元も子もないのだ。


 それに、幸いなことに僕がベストール・ウォレンだと気づいている人間もいないようだ。このまま身分を隠して何とか数か月間耐え忍べば、後になって僕の正体に気づいても、なんかいまさら話しかけるのも忍びないよなー、という雰囲気が出てきて誰にも絡まれずに済む。


 よし、これで行こう。


「相変わらず辛気臭い顔をしてるわね」


 一人考え事をしているとニーナが僕に話しかけてきた。


「普通に僕に話しかけて大丈夫なんですか」


「問題ないわ。あなたは私の従者ですもの。それに、誰もあなたのことなんて見ないわ」


「僕は見られなくてもお嬢様は見られてますよ」


「別に、見られたところでどうということはないでしょう」


 あるんだよ。本人も自覚してるだろうが、お前は超がつくほど美人なんだよ。そんな人間と名前も知らない、もっさい眼鏡野郎が話してるとなれば、ここに嫁探しに来てる色ボケ貴族どもに目を付けられかねん。一刻も早くご退場願いたい。


「それで、どうかなさったんですか?」


 わざわざリスクを冒してまで話しかけに来たのだから何かしらの要件があるのだろう。


「用がなかったら話しかけちゃダメかしら?」


 シバイてやろうかこの女。


「冗談よ。廊下の方でエリザベートが何かしてるみたいだけど、見てなくていいの?」


 その言葉を聞き周囲を見渡すとクラスの大半の人間が廊下の方に注目していた。気になって僕もみんなと同じ方向をのぞき込むと、そこにはエリザベートとその取り巻き達数人がアリーシャと対峙していた。


「何ですかアレ」


「さあ? 何でしょうね」


 しばらくすると、エリザベートが嫌な笑みを浮かべた。それに呼応するようにアリーシャは不安げな顔を浮かべてわなわなしだした。


「あ、あの、どうかなさったのですか? クラウディウス様……」


「あなた、少し生意気なのよね」


「え?」


「今朝もフレデリック様と話していたでしょう?」


「え、ええ。登校の際、偶然会ったので……」


「入学式の日にも言ったけど、あの方はあなたごときが気安く話しかけていい相手ではないのよ。でも、あなたは態度を改める気がないみたいだから……」


 そう言ってエリザベートは懐から牛乳瓶を取り出した。その瞬間、僕は思い出した。これはゲームのイベントである。


 この先はあの牛乳を廊下に垂らして、フレデリック王子と分不相応に話した罰として、舐めてきれいにしろとエリザベートが言うのだ。そこに間一髪のところでフレデリック王子がやってきて場を納める。という流れなのだが……さすがにこれを僕が放置してはならないだろう。


 この手の嫌がらせの積み重ねが最終的にエリザベートを破滅に導くのだから、ことが起こってから止めるのでは遅いのだ。


 何かいい手はないだろうか……。そう思った時、教室の花瓶に目が留まる。その瞬間、

妙案が浮かんだ。そして周囲を見渡し、全員が廊下に意識を集中させていることを確認した。


「お嬢様、エリザベート様の体重は今はどのくらいですかね」


「? まあ、見た感じだと、大体百キロは軽く超えてるんじゃないかしら?」


 百キロか……さすがに大丈夫かなぁ……。そこまで重いものを担いで走ったことがないからさすがに自信はないが、やるしかないだろう。


「……お嬢様、今から起こることはすべて見ていなかった。いいですね?」


「何? 藪から棒に」


 僕はニーナに告げると返答を聞かずに入り口近くの花瓶のもとに向かった。そして、次の瞬間、僕は静かに台の上の花瓶を押した。


「な!?」


 ニーナは驚きのあまり、いつもの余裕の表情を崩し、静かに声を漏らす。その時、甲高い花瓶の割れる音が周囲に響き渡り、その場にいる全員の意識がその一瞬、割れた花瓶に向かった。


 そして次の瞬間にはその場から僕とエリザベートは姿を消していた。


(あのバカ! 何やってんのよ!)


「ギャー! あの花瓶は金貨百枚はくだらない逸品なのですぞ!! いったい誰がこんなことを!」


 教師が悲痛な叫びを口にする。


「ひゃ、ひゃく!?」


 ニーナは予想外の花瓶の価値に思わず顔を引きつった。貴族の娘といえども、そうやすやすと出せる金額ではないのだ。


「エインベルズ嬢、犯人を見てはいないかね!」


「へ!?、あ、いや、い、いえ、廊下の方に気を取られておりましたので……」


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] ば、バカ野郎!!!(エリザベート含む) 更正させるんだろうか……?
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