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66話 原因究明

 顔を上げると、確かにゆっくりとこちらに陛下が向かってきているようだった。しかし、おそらくは気のせいだろう。


 いくら何でも陛下自ら僕のもとに来るなどあり得ない。付き人に僕を呼びつけるように指示するだろう。


「久方ぶりだな。我が国の英雄よ」


 そう思っていた時期が僕にもありました。


「お、お久しぶりです陛下!」


 突然のことにあっけにとられ、僕はすぐさまその場にひざまずいた。また、ニーナは突然のことに状況が呑み込めずフリーズしている。


「そうかしこまるな。今宵の主役はそなただ。さあ、顔を上げよ」


 僕は陛下に言われるがままに顔を上げ、次いで立ち上がった。そして陛下は僕の隣に立ち、ぴんと背筋を伸ばした。


「皆、よく聞け! この者こそがベストール・ウォレン! 此度の戦を退けし救国の英雄だ!」


 会場全体に響き渡るほどの声で陛下はそう告げた。その言葉にその場にいる全員が息をのむ。


 僕はというと、何が起こったのかわけがわからず、なぜか無表情になり、思考もまた無に帰す。


 それを見た陛下は僕の肝が据わっているとでも思ったのか、続けてどれだけ僕が素晴らしい武人であり、才能にあふれた若者であるかを小学校の校長のように長々と語りだした。


 そこからの記憶はあいまいである。気づけば貴族たちに囲まれていて、やれ、自分の家の騎士にならないか、とか、やれ、自分の家の娘を娶ってくれないか、とか、とにかく雪崩のように貴族たちが押し寄せてきた。


 きっと、王族に気に入られている人間を取り込みたいという貴族たちの願望がこのような状況を生み出しているのだろうが、それにしても激しすぎる。僕はベルトコンベアのように生返事を返す作業に終始徹底した。


 貴族たちの欲望がからむような持ち掛け話が終わると今度はいかに自分たちの領土が素晴らしいか、みたいな愚にもつかない話をコンコンと聞かされ続けた。


 正直うんざりした。しかし、僕に拒否権などありはしない。誰でもいいから誰か助けてくれ。そう思った時だった。


「ちょっと失礼」


「む?」


 成金趣味の激しい全身に宝石の飾りをつけた老貴族の後ろから少女は声をかけた。


「そこの騎士はこの後、私と先約がございますので、よろしければ通していただけませんか?」


 優雅にそう言い放つ少女を前に場が凍り付く。その少女はニーナだった。


 不思議なことに、誰もニーナに対して反感を買うようなことを言いはしなかった。それどころか誰もが黙り込む。美少女の放つ言葉には不思議な魔力でもあるのだろうか?


「いらっしゃい。ベストール」


「は、はい」


 僕は異様な雰囲気の中、ニーナに会場の外に連れ出された。僕を連れ出す際、なぜかニーナは黙りっぱなしで、そんな雰囲気の中、僕から話しかけられるはずもなかった。


 城の外は夜だというのにずいぶんとにぎわっていた。僕らは城壁の内側にいたが、それでも町の住人たちが楽しんでいる様子がうかがえるほどだ。誰もがこの戦争の終結を喜んでいるのだ。


「ねえ」


 沈黙を破るようにニーナが口を開いた。


「さっきのアレはどういうこと?」


「どういうことって言われても……」


 はっきり言って心当たりはなかった。いくら王家に気に入られているにしても貴族たちからあれほどまでに押しかけられるのは想定外である。


「ベストール、私に何か隠してない?」


「別に隠すようなことはないけど……」


「……また、急にいなくなったりしないでよ」


 ニーナは僕を試すように目を除きこむと、静かにそう言った。三年前のことをいまだに根に持っているらしい。


 きっと、貴族たちの誘惑に負けて僕が別の領地に行くことを危惧したのだろう。少なくとも、その時こそはちゃんとニーナにも伝えるつもりだ。


「うーん……それにしても気がかりね。普通、あんな風にもと平民に対してプライドの高い貴族ががっつくなんてありえないんだけど」


「やっぱりそうだよなぁ。なんかおかしいと思ったんだ」


「あなた、戦争でいったいどんな活躍をしたの?」


「活躍って程じゃないけど……普通に団長の代わりに軍を指揮してたくらいしか……」


「ほかには? 何か特別目を引くようなこととかはない?」


「そうだな……あ、ラウラ将軍っていうそれなりに知名度の高い将軍と一騎打ちして何とか勝った」


「ほかには?」


「ええ……これよりパンチの強い話なんてないんだけど」


「絶対、何かあるはずよ。例えば……そうね、何か特別な方法で勝ったとか」


「……ああ、それで言うなら鉄砲かも」


「鉄砲?」


「だいたい普通の直剣と同じくらいの長さで、弓よりも高火力で、射程範囲も広い武器なんだけど、今回の戦争はそれがあったから勝てた、みたいなとこはあるな」


 僕は指先で地面に形を描きながらニーナに鉄砲の説明をすると、ニーナは目の色を変えて「それよ!」と、言った。


「そんな新兵器、いったいどこで仕入れたの!? 話を聞く限りじゃ使わない理由がないくらいすごい武器じゃない! 戦争の素人の私でもわかるわ!」


「仕入れたっていうか、僕が考案して作らせてたんだけど……」


「はぁ!? ちょ、ちょっとまって。戦争でいきなり大将になるだけじゃ飽き足らずにそんなことまでしてたっていうの? あなた、いったい何者よ!?」


「なに者って言われても……」


 前世の記憶を持った転生者なんです。なんて言えるはずもない。


 ニーナの反応を見て僕はあることを思い出す。僕の活躍は市民レベルではそれほど詳細に伝わっていないのだ。


 それこそ、絶望的な状況の中、無名の兵士がいきなり帝国を返り討ちにした、なんていうふうな大雑把な伝わり方しかしていない。


 僕がどのように帝国を打ち破ったのかを知るのは今回の戦争関係者と貴族たちくらいなものである。


 ニーナも僕の活躍に関しては新聞なんかで読んだ以上のことは知らないようだし、そういうものなのだ。


「ハァ……でも、これではっきりしたわね」


 ニーナは大きくため息をついてそういうともう一度僕の目をのぞき込む。


「いい! 何があってもその鉄砲?の設計図だけは外に渡しちゃだめよ!」


「わ、わかりました」


 僕は身を引くようにそう答えた。


 確かに改めて考えてみれば、今回の戦争で僕が鉄砲の有用性を証明してしまったのだから、後々の金儲けのために貴族たちがこれに目を付けない理由はない。


 もう少し考えればわかったことだ。これからはもう少し注意するべきだろう。


 その後、僕は根掘り葉掘りニーナから持ちうる情報を聞き出され、いやというほど釘を刺された。そうこうしているうちに舞踏会は終わりに差し掛かり、気づけば一日が終わっていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!


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[一言] ニーナがヒロインしている、そしておかんである。
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