65話 宴 その二
「あ、国王陛下」
扉の向こうから陛下が登場したのだ。それを皮切りに今まで談笑していた貴族たちが国王陛下のもとに駆け寄り始めた。
国王陛下の後ろには女王陛下や王子殿下たちもいる。
こうして遠目から見てみると、老齢の国王陛下はともかく、その他の王族は美形ぞろいである。さすがにゲーム本編の攻略対象とされるだけあってその顔面偏差値たるや、すさまじいものである。
まずメリッサ女王陛下。もとは公爵家の出自らしい。今年で四十一歳になるという話だが、全然そんな風には見えない。
二十代でも十分通用するほどのはりつやのある肌。ほうれい線も全く目立っていないし、顔のバランスはまさに黄金比。よくもまあ、こんな美人を見つけ出したものだと感心してしまうほどである。
続いて第二王子のガーラン殿下。黒髪ですらりと伸びた長身と程よい筋肉。顔は女王陛下に似てとんでもない美形。しかし、どこか憂いを帯びているかのような退屈そうな表情が特徴的な口数の少ないタイプのイケメンである。
あとは、歳の離れた兄弟とか、王女様とかがいるが、ここでは割愛させてもらおう。きりがない。
ちなみに、第一王子のラウラ王子は戦争中に謀反を起こそうとして粛清されたらしい。
あと、第三王子のフレデリック王子はこの場にはいない。エリザベートの婚約者の顔を拝んでみたいという好奇心はあったが今回はあきらめよう。
「あれが王家の方々?」
「見るのは初めてですか?」
「ええ。なんせ、王都に来るのは初めてだもの」
当たり前と言えば当たり前ではある。僕らの年齢は十四。そして戦争が始まったのは三年前。この国では幼い貴族の娘は基本的に自分たちの領土から出ることはない。王族が直接会いにでも来ない限り面識がないのは当然だ。
「あいさつに行かなくていいんですか?」
「お父様が行ってるから大丈夫よ」
「ガーラン王子、まだ婚約者がいないって話ですよ?」
「……だから何?」
「いや、顔も性格もいい王子様ですよ? 狙いに行かなくていいんですか?」
「悪いけど、タイプじゃないわ」
「……それ本気?」
「ええ」
ニーナのその言葉を理解するのに数秒の時間を要してしまう。というのも作中のニーナの行動を鑑みるに全く持ってその言葉は信用ならなかったのだ。
ニーナ・エインベルズは嫉妬深く、姑息な手段をもって主人公と攻略対象の中を引き裂き、あわよくば自分がその攻略対象を手に入れようとしてくるような悪女であった。
性格に若干の差異はあるものの、人間が変わったわけではない。ニーナが攻略対象の工事達に興味を示さないことは異常ともいえるのだ。
……というか、あのレベルのイケメンに対して興味がないって、ある意味それは女としてどうなのだろうか。男である僕ですらよろめいてしまうほどの美形なのだ。ニーナが悪徳令嬢でないにしてもおかしな話である。
「……もしかしてお前、女が好きなんじゃ……」
「ち、違うわよ! なんでそうなるのよ!」
作中のニーナの主人公に対する執着は異常なものだった。それはもしかすると愛しさ相まってのものだったのだろうか……?
ふとそんな考えが脳裏をよぎる。
「何勘違いしてるか知らないけど、私にはちゃんと好きな人がいるの! わかったら、ハイ! この話は終わり!」
ニーナは少し赤面してそっぽを向くと、それ以上その話題には触れなかった。
しかし、ニーナに好きな人がいるというのはなかなかに意外な話である。親友宣言をされている僕は論外として、いったいどんな人間を好きになったのだろうか。
苦し紛れの嘘ともとれるが、それでは面白くない。僕は少しだけ周囲を見渡し、めぼしい貴族に目を向ける。
しかし、やはりあの王子たちに太刀打ちできそうな貴族は誰一人として見当たりはしなかった。とにかく注文の多いニーナのことだからきっと王子たちとはまた別のベクトルのイケメンにちがいない。
それともむしろ、少し変わったタイプの男だったりするのだろうか? しかしそれだと本人の感性次第だから僕じゃわからない。
結局僕は僕の知らない間にエインベルズ領で仲良くなった平民の誰かだろうと結論づけ、それ以上考えても無駄だと思ってしまった。
「ね、ねえ、ベストール」
僕が考え込んでいるとなぜかニーナはおびえるように僕の肩を揺らした。
「?」
「……なんか、陛下がこっちに来てるような……?」
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