62話 再開
しばらくすると貴族たちは去り、グラハム様はあいさつ回りに行くと言って僕を引っ張りまわした。
早めに来るように念を押された理由はこれだった。結局挨拶回りが一通り終了するころには日が暮れていた。
「どうだね、貴族社会というやつは」
廊下を歩いていると、ふとグラハム様がそんなことを聞いてきた。
「ど、どなたも素晴らしい方々、でした」
心にも思っていないことを口にした。本当は上っ面だけの面倒な連中の相手にうんざりするばかりであった。
「私にまで気を使う必要はない。私は面倒で仕方がないと心底思っているよ」
「グラハム様でもそんな風に思われるんですね……」
「ああ、思うとも。でも、これも国のために必要な事なんだ」
「この挨拶回りがですか?」
「ああ。君にはこれから先も軍を指揮してもらうつもりだが、そのために諸侯とは円滑な協力関係を築いてもらわなければ困るんだ」
「そういうもんですか」
意味がないと思えた面倒くさいこの作業にも一応意味はあるらしい。
「さて、夜会まではもう少し時間があるな」
懐中時計を取り出し、グラハム様は時間を確認した。
「私はほかにも用事があるのでね。夜会まで自由にしていると良い」
そう言ってグラハム様は僕を置いてどこかへ向かってしまった。
「自由に、ねぇ」
そうは言われても僕にできることなんて限られている。結局、割り当てられた客室で寝ることぐらいしか思い浮かばなかった。
自室に戻ると僕はベッドに飛び込んだ。ずいぶんと疲れているらしく、一瞬で睡魔が押し寄せてくる。しかし、その時だった。
コン、コン、コン
ノックが聞こえる。間違いなく自室の扉から聞こえる。僕は忌々しく思いつつも返事をした。
「はい」
「開けてくださらないかしら?」
女性の声だった。どこかで聞いたことがあるような声だった。
「失礼ですがどちら様でしょうか?」
「私よ」
いや、誰。
「お名前をうかがってもよろしいですか?」
「わからないの?」
扉の向こうの女性は本当に不思議そうにそうつぶやいた。反応から察するにそれなりに僕と親しい人物らしい。声に聞き覚えもあるし、完全な人違いというわけでもないだろう。
僕は体を起こし、そっと扉を開いた。そこには、僕と年の変わらない黒髪の少女が立っていた。その姿をみて、もはや間違いようはなかった。
「ニーナ……?」
「久しぶり。ベストール」
三年でニーナはずいぶんと大人びていた。子供のころの華奢な人形のようなイメージとは違い、凛とした落ち着いた女性の風格を身にまとっていた。
そう、僕が日本でイラスト越しに目にしたニーナ・エインベルズその人の姿になっていたのだ。ただ、ゲームのニーナよりも少しだけ物腰の柔らかそうな印象を受けた。
「……久しぶり」
「ふふ。何ぃ? もしかして私に見とれてるの?」
正直なことを言うと、図星だった。ゲーム内でも美人設定がついていたため、それが現実となっているのだ。無理もない。しかし、僕はすぐに我に返った。
「三年前から大して変わってないな」
「な、何よ! その反応は! 少しくらいほめてくれたっていいじゃない!」
そう言ってニーナはそっぽを向いた。そんなニーナの反応を見て、僕はそっと安堵した。
もしかすると、ゲームのような冷徹な人間になっているのではないかと、不安があったのだ。
でも、その心配はなかった。
「三年前はいきなり一人にして、ごめん」
「え……」
僕の言葉が意外だったようで、ニーナは虚を突かれたように表情を変える。
「正直、ニーナがあんな風に思ってるなんて考えもしなかったんだ。たぶん、三年で考え方も、交友関係もずいぶん変わったと思うけど、それでも、あの時はごめん」
あの夜、ニーナに泣きつかれてから、ずっと僕の中で気がかりだった。もっとニーナと向き合っていればあんな風に悲しませることもなかったんじゃないかと。
だから、会ってもう一度謝りたかった。
「……バカね」
うつむいてニーナはそう口にした。そして静かに僕に顔をうずめるようにしてもたれかかった。
「三年前から何も変わってないわよ。あんたはあたしの唯一の親友だし、ずっと寂しかった」
今にも泣きだしそうな声でニーナはそういった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ブックマークや、評価していただけると作者のモチベーションにつながります!
よろしくおねがいいたします!




