63話 再開 その二
僕はニーナを部屋に招き入れ、三年の間に起こったお互いの身の回りの変化を話し合った。
久しぶりの会話にニーナはずいぶん嬉しそうにいろんなことを話し出した。そして僕もまた、同じように話した。三年ぶりの再会に僕自身も喜んでいたのだ。
「でもまあ、さすがに私もあなたが帝国を撃退したって聞いたときは驚いたわ」
「僕も未だに夢を見てるような気分だよ」
「ベストールは、ずいぶん変わったわね」
「急になんだよ」
「だって、三年前はもっと頼りなかったもの」
全く持って否定できない。少し剣術ができるだけの十一の子供だったのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
「それが今は英雄なんて言われて、もてはやされてるなんて。世の中、何があるかわからないわね」
「全くその通りだよ。僕の予定じゃ今頃、エドモンドさんの従騎士として仕えてるはずだったのに、いきなり騎士の称号をもらっちゃうんだもの」
「もう叙勲式はすませたの?」
「簡易的なものだったけどね。援軍に駆けつけたその日に体裁を整えるためって、その場で陛下が叙勲式を始めちゃったんだ」
「……それってものすごいVIP待遇じゃない……」
「なんでさ? 正式な場でのほうがいいんじゃないの?」
「この国の叙勲式は代々、満月の翌朝に執り行われることになってるの。その慣例を曲げてまで叙勲式を執り行うなんて、よほどのことがないとあり得ないわ」
「マジ?」
「マジよ」
僕はてっきり、平民を正式な場で貴族にすればほかの貴族たちから反感を受けるためかと思っていたが、どうも違うらしい。
「あなた、陛下に何をしたの?」
「いや、特別なことをした覚えはないけど……」
考えてもやはり答えは見つからない。それとも、帝国を追い返したことが相当、陛下の中では大きなことだったのかもしれない。
「……まあいいわ。で、ベストールはこれからどうするつもりなの?」
「どうするって、何が?」
「正式に騎士になったんでしょう? 陛下に仕えるの? それとも、このままエインベルズに残り続けるの?」
「ああ……これまで通りエインベルズ兵団の厄介になるつもりだよ」
「そ、そう」
心なしか、どこか嬉しそうにニーナは返事をした。
「なら、これからは私がいろいろ教えてあげる!」
自信満々に胸を張ってニーナはそういった。僕には何の話なのかさっぱり分からなかった。
「い、いろいろって何さ」
少しだけ卑猥なことを考えてしまう自分がいることが恥ずかしい。
「貴族社会のこととか、勉強とかね。来年の四月から学園なんだから」
「???? なんで僕が学園に行くのさ?」
「なんでって、そりゃ、あなたも貴族になったんだから、入学資格ならあるじゃない」
「いや、そうかもだけど、別に行く必要ないし」
ぶっちゃけ、この世界の学問と地球にいたころの学問を比べたとき、もちろん地球の学問の方がためになる。数学とか科学とかに関しては発見されてないことが多くてかなり遅れているのだ。
おまけに学費もばかにならない。成績上位者であれば特待生として学費が免除されるが、そこまで学問と向き合える自信がない。
「学費が心配なら大丈夫よ。お父様が出してくれるから」
「……なんで旦那様が?」
「今やあなたはエインベルズの顔と言っても過言ではないわ。そんな男が教養のない野蛮人だなんてありえないもの。それ相応の教育を受ける必要があるわ。そのための学費くらいはお父様なら間違いなく出してくれるはずよ」
僕って教養のない野蛮人だって思われてるんですか?
「それに、心配じゃないの?」
「何が?」
「エリザベートよ」
「…………」
忘れてた。
戦争のことで頭がいっぱいで当初の目的を忘れていた。僕は自分のバットエンドを回避するためにエリザベートの奇行を制止しなければならないのだ。
今の僕は完全にゲームのベストールとはかけ離れているが、逆にそれが問題だ。変に功績を残してしまったせいで僕のことをよく思わない貴族に目をつけられてしまっている。
きっと彼らが僕を失脚させるためのスキャンダルを手にしたのであれば、一夜にして国中に広まることだろう。
そして、いま最も警戒すべきは言わずもがなエリザベートだ。原作通りであれば、あの女の悪評は一線を越えたとき、周囲にも飛び火する。
ニーナによる脅威は薄いとはいえ、基本的にあの女は間抜けでどうしようもないバカだ。何をしでかすか、わかったものではない。
「……確かに」
「風の噂じゃ、以前にもましてヤバくなってるそうよ。どうヤバくなってるかは知らないけど、とにかく手を付けられるものではないみたいね」
「…………」
冷汗が止まらなかった。残り一年と数か月。記憶を取り戻したその日から頑張ればどうにかなると思っていたが、完全に誤算だ。
僕自身は変わってもエリザベートは一ミリも変わりはしなかった。まさか、物語の主要人物だから強制力が働いてるとか?
いや、だとしたらニーナのつじつまが合わない。
結局答えが出ない堂々巡りを繰り返すだけだった。
「……わかった。僕も学園に行く。旦那様にはニーナの方から言っといてくれないか?」
「ええ。はじめからそのつもりよ」
僕が決意を固め、返事をすると、ニーナは得意げにそう答えて扉の前に立った。
「そろそろ時間ね」
そう言ってニーナは僕に手を差し伸べた。
「エスコートしてくださらないかしら。英雄様?」
いたずら気な笑みを浮かべてそんなことを言うニーナとは対照的に僕は重い腰を上げて背筋を伸ばし、ニーナの手を取った。
「よろこんで」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ブックマークや、評価していただけると作者のモチベーションにつながります!
よろしくおねがいいたします!




