57話 一騎打ち
僕の考えた作戦はそれほど難しいものではない。
敵前衛との正面衝突。それと同時にあえて隙を見せて包囲部隊を誘発し、敵戦力を分散する。
帝国軍において、もっとも警戒すべきは騎馬隊である。帝国騎馬兵は機動力に優れ、何度となく帝国に勝利をもたらしてきた強兵として有名なのだ。
そんな連中をアーギュ率いる歩兵隊に足止めにいかせるのだ。
これだけでもずいぶんと帝国の攻略難度が変わってくる。強襲を仕掛けるはずが、手を読まれて待ち伏せまでされているのだから、敵からすれば計算違いもいいところだろう。
また、もし警戒して敵が攻めてこなかったとしても、それはそれで問題はない。増援までしてこちらを攻め落とす気でいる帝国からすれば、前衛との衝突で時間稼ぎをされること自体を嫌がる。
そうなれば策が嵌らなくても作戦を切り替えて帝国は撤退していくだろう。数の上では帝国が優勢ではあるが、決して完全にこちらが不利な戦いというわけでもないのだ。
そして、手薄になった帝国軍本体をリンネ率いる重装歩兵が中央一点突破に挑む。
数の差は一万強ではあるが、的を絞ればそれはそれほど意味のあるものではない。そして今、その成功の知らせが白煙によって僕に知らされた。
「完璧だよ、みんな」
僕は仲間たちに感謝し、馬の腹をける。そしてより一層のスピードで一気に僕の率いる部隊は最前線へ躍り出た。
「……なんだあれは」
最前線へ躍り出た僕たちを目にし、将軍カルネラは懐疑的な目を向けた。
というのも、突撃部隊にしては、僕らの姿はあまりにも目立ちすぎた。でかでかと王国旗を掲げ、後ろでは高らかに笛の音が練り響く。
いやでも目に付く。これでは殺しに来いと言っているようなもので、逆に何かの作戦ではないかと疑わしくもある。
「出てこい! カルネラ・オーフェンス! 亡き前団長の仇、ここでうってやる!」
のどが裂けんばかりにそう叫ぶと、あたりがざわめきだす。
不思議と、僕を討とうとするものはいなかった。後で聞いた話では、この時戦っていた兵の大半はあの夜の僕を知っており、恐ろしくて手を出す気にはならなかったらしい。
そしてしばらくの沈黙ののち、漆黒の鎧を身にまとう騎士が斧槍を片手に騎乗してこちらに向かってきた。
「あの時の小僧か」
カルネラは僕のことを覚えているようだった。
「貴君に一騎打ちを申し込む」
「是非もなし」
その言葉を聞いた瞬間、馬を全速力で走らせ、僕はカルネラに斬りかかった。しかし、あっさりとそれを受け止め、膠着状態となる。
「貴様、名は」
「ベストール・ウォレン」
「そうか」
カルネラは静かにそう答えると、「フン!」という気合とともに、僕を振り払い、激しい斧槍による連撃を開始した。
戦場を縦横無尽に駆け回り、四方八方から重厚な斧槍を軽々と振るうその姿はまさに将軍の名にふさわしいものであり、僕はついていくのがやっとだった。
「その程度でこのワシを倒そうなど片腹痛いわ!! 死ねぇ!」
その言葉とともに、大ぶりの、しかも最速の一撃を僕の頭めがけて振りかざす。僕は間一髪でそれを受け止める。しかし、衝撃が強すぎた。僕のツヴァイヘンダーにひびが入る。
「ほう……。存外しぶといな。年に見合わずずいぶん骨があるらしい」
「あんたほどじゃないよ」
カルネラの皮肉に僕は苦笑を返すことしかできなかった。このまま戦っていては僕が負けることは火を見るよりも明らかである。
僕はカルネラの刃を振り払うと、左翼方向へ馬を走らせた。
「逃げるつもりか! 臆病者め!」
カルネラは烈火のごとく憤慨しながら僕に罵声を浴びせて追撃する。
何度も追いつかれ、そのたびに殺されそうになるのを繰り返す。もはや何も考えられる状況ではない。
僕はただひたすらに逃げに徹した。数秒が数分に感じられる。明確な死がすぐそばにいる。その恐怖が常に僕を襲った。
その時だった。敵陣左翼方向から周囲一帯を包み込む強烈な破裂音が響き渡った。
「!?」
音の正体に気を取られ、カルネラは一瞬、本当にその一瞬、僕から気をそらした。その一瞬を僕は見落とすことはなかった。
つかさず正面から大ぶりの一撃をお見舞いする。
しかし、やはりというべきか、カルネラは間一髪でそれを受け止めた。
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