58話 一騎打ち その二
「舐めるな小僧!」
目をぎょろっと見開き、僕の心を見透かすようにそう言ってカルネラはやすやすと僕を弾き飛ばした。
それと同時に僕は落馬し、地面に勢いよく激突する。しかし、すぐに体制を立て直し、カルネラを待ち構える。
「神聖なる一騎打ちから逃げ出すのみならず不意打ちとは! 死んで詫びよ!」
激昂したままカルネラは鋭い突きを僕に向けた。しかし、地面に立ったことで小回りが利くようになった僕はすれ違いざま、攻撃をよけるとともに馬の前足を切り落とし、カルネラを引きずり落した。
このタイミングを逃すまいと僕は即座に斬りかかる。しかし、またしても僕の刃は届くことはない。カルネラは地面に倒れこんだ状態でなお、僕の攻撃を防いだのだ。
「甘いわ!」
その瞬間、腹部に強い衝撃が走る。とんでもない豪脚から繰り出される膝蹴りは五臓六腑にしみわたり、胃の内容物や目玉が飛び出るかと思ったほどである。
しかし、痛みにもだえる暇はない。
僕がせきこむ間もなくカルネラは立ち上がり、すぐさま攻撃を再開してくる。
「意地汚く勝利に固執するその精神だけは認めてやる。だが、貴様ではワシは倒せん! くぐってきた修羅場の数が違うわ!」
「……確かにそうかもね。でも、だからってそうやすやすとあきらめがつくもんじゃないんだよ!」
戦いは長引き、もはや僕は満身創痍だった。自分よりはるかに実力で優る相手を気合のみでここまで持ちこたえてきたのだ。無理もない話である。
それでも数を重ねるごとにカルネラの動きに慣れていくことに一種の高揚感を覚えた。
ここでミスれば死が待っている。僕がやらなきゃ誰もエドモンドさんや、死んでいったみんなの仇をとることができない。それに、指揮官を失った軍がこの先どうなるかわからない。
それらの考えが僕の思考をかき混ぜ、ぐちゃぐちゃにし、終いには目の前のこと以外が考えられなくなっていた。
ぶつかり合う鉄の音も、周りで戦う兵士たちの悲鳴も、遠くで鳴り響く怒号も、何も入ってこない。ただただ目の前の敵から生き延びることだけを無意識のみが考えていた。
「しつこい!」
その一言とともにまたも大ぶりの一撃をカルネラは僕にお見舞いしてきた。もはやこの攻撃に反応できない僕ではない。
僕は当然のようにその攻撃を受け止める。しかし、次の瞬間、いやな音が鳴り響く。斧槍が僕の刃のヒビに入り込み、ガリッという嫌な音がした。
そして間を置かず僕のツヴァイヘンダーはあっけなく両断された。僕自身は間一髪で振り切られた斧槍から逃げられたが、カルネラは笑みを浮かべた。
そして、斧槍を構えなおし、全速力で僕に歩み寄ってくる。
「これで終わりだ! 死ねぇぇぇい!」
無防備な僕に対して無慈悲な兜割を浴びせようとカルネラは斧槍を振りかぶった。
その瞬間、勝利を確信したカルネラから本当にほんの一瞬だけ、隙が生まれた。もう、これが最後だ。
「!?」
そう思った瞬間、僕は後ろに飛び跳ねるとともに腰の銃を抜き取り、照準を合わせるなんて繊細なことは一切せず、ただひたすらにカルネラに銃口を向け、引き金を引いた。
「なに、が……お、き」
強烈な銃声とともにカルネラの胸部には鎧を貫き、ぽっかりと穴が開いていた。そして間を置かず、カルネラは地面に伏した。
「さ……きも、似た、よう、なおと、が」
死の間際、カルネラは自分の身に起こったことが理解できず、しかし、可能な限りの情報を整理しようと脳を働かせた。そして、さっきの銃声と落馬する前に聞いた破裂音が酷似していることに気づいた。
「あんたを、あんたたちを倒すための新兵器だよ」
僕は静かに横たわるカルネラに歩み寄った。
「一騎打ちであんたに勝てないことは僕が一番よくわかってた。だから、あんたが油断したその時にこいつを使うしかないって最初から思ってたんだ」
「な、ぜ、最、初に……使わなかっ、た」
「勘のいいあんたになら最悪避けられるかもしれないからね。あんたが隙を見せたときしか怖くて撃てなかったよ」
「……そう……か」
そう言ってカルネラは静かに息を引き取った。
カルネラが息を引き取った場所は僕が苦し紛れに逃げ込んだ森の中で、そこではほかにも戦っているものはいたものの、密集地帯ではなかった。そのため、カルネラの死、そして僕の勝利に周囲が特に反応することはなかった。
諸国に名をはせた将軍の最後としてはあまりにもあっけなく、静かなものだった。
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