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56話 反撃開始


 この国の冬は日本の首都圏とさして変わらない。雪が降ることもあれば降らないこともあるし、寒すぎて耐えられないというほどのものではない。


 しかし、総勢五万弱の大軍を前に、兵士たちは心身ともに針で刺されるかのような悪寒に襲われていた。


 帝国は万全の体制をもってこちらをつぶしに来るつもりなのだろう。でなければ援軍の到着を待たずにこちらに攻め込んできていたはずだ。


 帝国もずいぶんな損害を受けたとはいえ、数の上では十二分にこちらを圧倒していた。それに加えて一万強の増援の到着を待ち、満を持して進軍を再開したのだ。


 あの夜、帝国将軍カルネラは一足先に戦況の確認のためにあの場に立っていたという。そして、彼が引きつれる増援が到着したのだ。


「改めてみると、壮観じゃなあ。これほどの大軍はなかなかお目にかかれんぞ」


 あごひげをいじりながらアルベインはそういった。


「怖気づいたか? ジジイ」


 ニヤつきながら横からアーギュが口をはさむ。


「そういうあんたは大丈夫なの?」


 腕を組みながらあきれるようにリンネはそういった。しかし、口に出した本人は少し動揺しているようだった。


「敵も多いけど、こっちだってこの前より数は多いんだ。作戦の運び次第でどうにかなるさ」


 僕はみんなを元気づけるようにそう言うと、伝令に合図を出した。


 そして、しばらくして開戦の笛の音が高らかと鳴り響いた。そして僕は本陣の後方から檄を飛ばした。


「この戦いをもって、戦争を終結させる! 憎き帝国軍人を蹴散らしてやれ!」


「「おおおぉぉぉー!」」


 たけだけしく喊声あげ、前衛が勢いよく進軍を開始する。


 こちらの総数は約三万八千。敵が悠長に増援を待ってくれたこと、領内中腹まで敵が攻め込んできたことによる平民たちの危機感。あの夜の戦いの前からエドモンドさんが物資依頼に加えて増援依頼を出していてくれたこと。


 すべてが作用した結果、これだけの数が集まった。


 さして間を置くことなく敵前衛との衝突が始まり、激しい攻防が繰りなされた。最前線に立つのは主に農民たちである。


 彼らは土地に対する執着があるため、命を賭して戦いに赴くことができるのだ。今回のような逼迫した状況ではむしろ、傭兵よりも彼らのような者たちが頼りになる。


「報告します! 敵陣左翼より騎馬兵が回り込んできているとのことです」


 しばらくして伝令がそのような報告を出してきた。


「アーギュ」


「あいよ!」


 別にこれは予想外でもなんでもない。僕らが戦っているこの土地は別に複雑な構造をしているわけでもない。建物はあるものの、基本的には畑と森。ありていに言ってしまうと田舎だ。


 そして僕らはあえて中央密度を濃くして側面から敵が回り込めるような状況を作り出している。そこに機動力に優れた騎馬兵を投入してくるのは自然なことだ。


 しかし、それが狙いである。


 アーギュ―はすぐさまその場をさり、迎撃に向かった。


「リンネ、アルベイン」


「わかってるわ」


「右に同じく」


 二人もまた、作戦通りに動くべく、それぞれの部隊の指揮に向かった。


「さて、僕も頑張るとしますか……!」


 この作戦のかなめはエインベルズ兵団の生き残った隊長たち、そして、僕だ。


 僕はツヴァイヘンダーを背に、そして銃を腰に携える。戦争が始まる前から注文していた物をいまになってようやく受け取ることができたのだ。おまけに、三年前の火縄銃のものからずいぶん改良されている。


 狙うはただ一つ、将軍カルネラの首。


 僕は決意を胸に馬にまたがり、出撃の準備を整えた。今か今かとその瞬間を待ち続ける。そしてついに、最前線から合図の白煙が上がった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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