38話 お嬢様の不安
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「なにかしら?」
汗だくで威厳も何もあったものではないが、ぼさぼさの髪をなびかせてエリザベートはすまし声でそう言った。
「旦那様がお呼びです」
「お父様が? わかったわ。案内して」
使用人とは対照的にエリザベートは特に急ぐ様子もなく、ゆっくりと歩いて行った。その様子に使用人は若干苛立ちを覚えていたが、ぐっとこらえてエリザベートを案内するので会った。
「何かあったのかしら?」
「さあ……。なんだかあわただしかったけど」
しばらくエリザベートの後ろ姿を二人で眺めていた。そして、エリザベートの姿も見えなくなると、ニーナは突然、近くの草むらに座り込んだかと思うと、ばたりと仰向けに倒れこんだ。
「どうしたんだ」
「……疲れた。ふだん運動なんて全然してないし、おまけにエリザベートもいるんだもの」
「ああ……お疲れさん」
そう言って僕もニーナの隣に座り込んだ。
「全くよ……。でも、これであの女も私にはあんまり執着しなくなったかしら?」
「どうだろうな。あいつ、友達少ないし」
「ああ、まあ、うん、そうね」
ずいぶん善処したほうではあるが、エリザベートのニーナに対する執着はなかなかしつこいものがあった。マラソンに誘ったのが僕であったならば秒で逃げ出すところを、ニーナがいるからということでエリザベートは根性でついてきていた。
まあ、大体、僕の責任なんだけど。ニーナがエリザベートを嫌って、突き放そうとしてくれてるのは好都合だが、その分、エリザベートのほうがニーナに執着してしまっている。
こればかりは気長にやるしかないだろう。
エリザベートのほうもさすがに自分が異常なことは自覚しているようだし、ニーナを逃がした時に自分の相手をしてくれる人間を探せる自信がないのだ。
とはいえ、やんわりとはニーナがエリザベートを避けていることは伝わったようだし、少しはまともになるといいんだけどなぁ。
「ま、まあ学園でお前にべったりってことはさすがにないんじゃないかなぁ……」
「だといいんだけど……学園かぁ……」
そう言ってニーナは遠い目をした。
「?」
「私、ちゃんと友達、できるのかな……」
「急になんだ」
「今は家でのんびり過ごしてればいいけど、学園って集団生活でしょう? ちゃんとうまくやれるのかなって……」
ずいぶんと不安がっているニーナを見ていると、ふと画面越しに見ていたニーナ・エインベルズを思い出した。
作中での彼女は持ち前の八方美人で主人公の存在を除き、充実した学園生活を送っていた。
しかしその反面、建前ばかりの貴族たちにうんざりし、真実の友情や愛情を手に入れる平民の主人公を疎ましく感じるのだ。
この点は何かしらの解決策を用意してやらなくてはなるまい。もとをただせばこの嫉妬がエリザベートの失脚を招くのだから。
「まあ、大丈夫じゃないか。お前、美人だし」
「きゅ、急に何言ってんのよ!」
ニーナは僕の言葉を聞くや否や、顔を赤くして飛び上がり、僕に突っかかった。
普段から自分を美少女と自称する割には面と向かって言われることにはあまり慣れていないらしい。
「いや、見てくれがよかったら適当な男がお前に話しかけてくるだろうし、よっぽど偏屈なのでもない限り、お前も普通に話せる人間だし大丈夫なんじゃないか?」
「別に男友達なんていらないわよ……」
「? なんでさ」
「フン! あなたには絶対言わないわ」
「?」
男である僕に少女の気持ちなどわかるはずもない。
僕は相変わらず面倒くさいやつだと思いつつ、特に深く考えることもなく、その後もニーナの愚痴に付き合うのであった。
次回の投稿は1/14日になります。
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