34話 脂肪切断?
「エリザベート様」
僕は立ち上がり、刺激臭をぐっとこらえてエリザベートを見下した。横の広さではかなわないが、身長は僕のほうが高いのだ。
「な、なによ」
いきなり僕が強気になりだしたせいか、エリザベートは若干驚きながらも態度を崩さぬよう努めた。
「三年前に僕が課したノルマ、憶えてますか?」
「な、なによ急に」
「憶えてますか?」
「お、憶えてるわよ」
「じゃあ、毎日実行なされてましたか?」
「え、ええ、してたわよ」
バレバレなんだよなぁ……。
「へぇ、不思議ですねぇ……じゃあ、きっとエリザベート様は病にかかられているのでしょうね」
「な!? どういう意味よ!」
「ふつう、僕の用意したメニューをちゃんとこなしていれば、きっと今頃、エリザベート様であればそれはそれは、さぞ見目麗しきご令嬢となられていたことでしょう。ですが、そうではない。ということはもはやそれは病でしょう」
「そ、そうよ! 私はあんたの言った通りのことをやったわ。でも効果はなかったわ!」
こいつ、しれっと自分が醜いこと認めたな。全部自覚してんじゃねぇか。
「それは、おかわいそうに。でしたら! 今すぐアルバート様の元へまいりましょう! 僕がエリザベート様の病気を事細かく説明して差し上げます!」
「え、そ、それは……」
「大丈夫です! きっと素晴らしいお医者様に掛かれるはずです! おそらく治療はつらく厳しいものになるかと思いますが、きっとお嬢様であれば乗り越えられるはずです!」
「そ、その、治療って……どんなことをするのかしら?」
「僕は医者ではないため、詳しいことは言えませんが、おそらく、諸悪の根源たる、脂肪を切り落とすのではないでしょうか?」
「き、切り落とす!?」
見る見るうちにエリザベートの表情は曇っていく。
「当然です。医療の常識ですよ?」
「…………」
僕の言葉を聞くや否や、エリザベートは絶句していた。
「さあ、善は急げと言います! 今すぐにでも参りましょう!」
そう言って僕はエリザベートの脂ぎった手をつかみ歩きだろうとした。しかし、一向にエリザベートは動こうとしなかった。
「何をなさっているのですか! ことは一刻を争うのですよ!」
そう言って僕は強引にエリザベートを引きずろうとする。いくらエリザベートが重いとはいえ、毎日訓練をこなしてきた僕が引きずれないほどではない。
「わがままを言っている場合ではございません! 命がかかっているのですよ!」
「うそ! 全部嘘だから! あんたが消えて消えてから私は何もしてないの!」
「病院が怖いからって嘘をつくことはございません! 大丈夫です! きっとよくなります!」
「嘘じゃない! に、ニーナぁ! 助けてぇ!」
「さあ! 駄々をこねる時間がもったいないですよ!」
「ごめんなさい! 私が悪かったから! 許してよぉ!」
エリザベートの謝罪の言葉を聞き、僕はピタリと手を離した。すると、反動でエリザベートはおもいっきり、しりもちをついた。
「イッタイわね! 何すんのよ!」
「お認めになられるのですね?」
「う……」
エリザベートは先ほど認めたというのに、それ以上は口を開こうとしなかった。山脈のように無駄に大きいプライドが許さなかったのだろう。
「奥方がどうしてエリザベート様に対してそのような態度をとるのか、本当はお分かりなのでしょう? でしたら自分から変わろうとは思わないのですか?」
「だって……」
「だって?」
「私だけ不公平じゃない! お母様もお父様も私ぐらいの歳のころはダイエットなんてしてなかったわ! 毎日楽しく暮らしてたっておっしゃってたもの!」
こいつはこんなことを本気で言っているのだろうか? 頭が残念すぎやしないか?
「毎日楽しくって、そりゃ限度もあるでしょう……。少なくともエリザベート様のように油物ばかりの偏った食生活ではなかったはずですよ」
「うっさいわね! 私が何を食べようと勝手でしょう! 平民なんかに指図されることじゃないわよ!」
「はぁ……まあ、そうですか。そうですね」
だめだ。こいつと話してると頭が痛くなる。会話が通じない。別に間違ったことは言ってないはずなんだけど……。
僕はエリザベートの言動にうんざりして適当に返事をして話題を変えることにした。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ブックマークや、評価していただけると作者のモチベーションにつながります!
よろしくおねがいいたします!




