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33話 う〇こ

「久しぶりねぇ。ベストール!」


 聞いたこともないほど野太い女性の声。かすかに女性らしさのある声だっただけで、それが本当に女性の声だという確証は聞いただけではわからない。そんな声だった。


 わけもわからず衝撃のあらわれた方向に顔を向ける。


「!?」


 そこにはまさに、小学生が思い浮かべるようなとぐろを巻いた茶色とかピンクのアレのような女がドヤ顔を決めていた。


 段腹で、特に下半身がひどく太っている。服はピンク色の派手なドレスでマスクのような化粧をつけている。しかし、一目見てそれが何なのか、いやいやながらも僕は理解してしまった。


「お、お久しぶりです……エリザベート様」


 推定百キロオーバーの悪臭を放つそれは、僕がそういうと得意げに腕を組んで近づいてきた。するとより一層激しい悪臭が僕の鼻を刺す。


「あんたのせいでお母様がおかしくなってしまったわ。この責任、どうしてくれるのかしら?」


「な、なんのことでしょう……」


「とぼけるんじゃないわよ! 最近は口もきいてくれないし、私を見るなり泣き出してしまうの。どうせあんたがまた余計なことを言ったんでしょう!」


 わけもわからないままエリザベートは僕を糾弾し始めた。しかし、とにかく臭いが強烈すぎて話が頭に入ってこない。


 ニーナに助けを求めようと視線を送るも、なんとも申し訳なさそうに視線を逸らしてぎゅっと口をつぐんでいた。


(これは何があったらこんなことになるんだ!)


(ごめん、知らない)


 想像を絶するエリザベートの状態を前にニーナとの間にテレパシーのようなものが成立する。


 とにかくこの状況はダメだ。何とかしないと……。


「え、エリザベート様、僕が奥方様と最後に会ったのは一年前の晩餐会です。残念ながら原因は僕ではないかと……」


「じゃあ、誰が原因だっていうのよ」


 言わなくてもわかるだろ!


「さ、さあ……」


 さすがに今の状態のエリザベートに直接言葉を告げられるほど僕に度胸はなかった。自分の倍ほどもある人間に見下されるというのはそれだけで恐怖なのだ。


 それに、奥方様の言うことを聞かない今、今度こそ何をされるか分かったものではない。


 もはや僕にこの女の矯正は不可能だ。ゲームのシナリオ上のベストールと僕の人生はずいぶん変わっているとはいえ、これはほぼバットエンドルートと言っていいだろう。


 ふと、僕は銃の生産を本気で急ごうと思った。


「ふん、まあいいわ。それで、ベストールあなた、ニーナにまでおかしなことを吹き込んだようじゃない」


「……と言いますと?」


「ニーナの態度がずいぶんとよそよそしいのだけど、お父様に言いつけてしまおうかしら?」


 その言葉を聞いた瞬間、ニーナは青ざめ、わなわなとうつむいた。家名に傷がつくことを恐れたのだ。


「別にニーナが落ち込むことじゃないわ。悪いのは全部この男ですもの」


 ちらりとニーナを見ると、慰めるようにエリザベートはそう言った。しかし、それは慰めになっていない。


 一兵士である僕の言葉にそそのかされて格上の令嬢を貶めようとしたというそれだけで十分ニーナにも罪が認められるのだ。


 どうしようもなく、うつむくニーナ。このままでは僕は不敬罪。ニーナは貴族令嬢だし、何かされるということはないだろうが、謹慎処分は免れない。


 このまま言いたいことも言えずに濡れ衣を着せられるのは釈である。そう思ったときには口が開いていた。


「贅肉の塊」


「……は?」


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