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105話 鍛練 その六

「了解した。それじゃあ……そうだな、私は貴殿を何と呼べばいい?」


「大体みんなはベストールって呼んでるよ」


「そうか。なら、私もそう呼ばせてもらおう。私のことはシスティと、呼び捨てで構わないぞ!」


 システィはとても満足げにそう言った。そんなシスティの姿をみると、自分が頑張った買いも少しはあったのかもしれないと思えた。


「あいよ。よろしく。システィ」


「ああ! こちらこそよろしく頼む! それと、よろしくついでに頼みたいことがあるんだが……」


「? なにさ?」


「その、だな……暇な時で構わないのだが、これからも、私の鍛錬に付き合ってはもらえないだろうか」


 少し申し訳なさげにシスティはそういうとぼろぼろの自分の直剣を拾い上げた。その時だった。


「そういうことならラザフォード殿も毎日放課後、ここに来るといい!」


 唐突に後ろから聞き覚えのある男性の声が響き渡る。振り返ると、少し眠たげで髪が乱れたガーラン王子が立っていた。


「……起きてたんですね、殿下。というか、僕の意思は無視ですか?」


「まあ、そうケチケチするな。一人増えようが二人増えようがお前にとっては変わらないだろう?」


「……ハァ、まあ、いいですけど、それはそうと、殿下はいつから起きてたんですか」


「ついさっきだ。起きたらお前がラザフォード殿と決闘をしていたのでな。いつ声をかけたものかと狸寝入りしていたんだ」


 なるほど。先ほどまでは確かに、状況的に起きて声をかけるのはなかなか気まずいものがある。僕だって狸寝入りしていたことだろう。


 ただし、そういうことは正直に話すものではない。


 というか、そこから起きてたんならある程度はもう全部わかってんじゃないのか、この人は。もはや王子が寝てた間のことを隠しても意味がないな。


「……じゃ、もう殿下には別に隠しませんよ。システィは殿下と話したことある?」


「あ、ああ、とはいえ、ほんの少しだが」


「じゃ、お互いにこれから毎日顔を合わせるんですから、はい、改めて自己紹介始めてください」


 僕がそう言ってシスティの背中を押し、王子の目の前に連れて行くと、システィはかなり戸惑っている様子だった。たいして、王子は王族としての余裕か、それほど驚いてはいなかった。


「あ、改めまして、祖国にて騎士を拝命しております、システィ・ラザフォードと申します」


「ああ。改めまして。マルクス王国第一王子、ガーラン・マルクスだ。ベストールの友人ならば君も俺の友人だ。よろしく頼むよ。ところで……」


 王子はシスティとのあいさつを交わすと、僕に視線を向けた。


「ベストール、やはりああいうしゃべり方もできるんじゃないか。俺にもあのくらいフランクになってくれてもいいんだぞ?」


 ああいうしゃべり方、とは、システィに話すときのようなすこし乱暴な口調のことをさしているのだろう。確かにあれは王子の好みそうなものである。


 真の意味で対等でなければあれはあり得ないのだから。


「それはできない話ですね。さすがに身分の差が開きすぎてますから。僕と殿下では月とスッポンでございます。よって、今のこれが限界ですね」


「……可愛くないやつめ」


 逆に僕が可愛いやつだったらどうするつもりだ。ホモでもあるまいし。そういうのはアリーシャにだけ求めてろ。


「何とでもおっしゃってください。僕は甘んじて受け入れましょう。システィも、この人に変なこと言われてもあんまり真に受けないように」


「え、そ、そんな感じでいいのか?」


「いいわけないだろう。一応、俺はこの国の王子なんだぞ?」


 戸惑うシスティ、少し不満げなガーラン王子、そして仲介人のような僕。このあと、三人で少しだけお互いのどうでもいいようなことを話して、その日は太陽も沈んでいたということもあり、解散となった。


 ただ、こんなどうでもいい会話を惜しげもなくできるその時間がなんだかとても居心地がよかったような気がした。


 そして、この三人で毎日、誰かの目を気にすることなくいられるのかと思うと、少しだけうれしかった。



ここまで読んでいただきありがとうございます!


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