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男女恋愛法  作者: hiroki.is
11/14

第11話・沙和音‐弁護士冬樹ほのかの、サプライズを受ける。

初めに、著者より。

当初の予定を遅れての、第11話のアップになってしまったことを深く、お詫び致します。

著者も、ゴールデンウイーク中の遊び過ぎや体調不良が重なってしまい、執筆に対するモチベーションが上がりませんでした。

本話のストーリー的には以前から纏まっていたのですが、読者諸氏にお見せするだけの文章として纏まらずに、ストーリーの修正や文章の修正を余儀なくされてしまい、随分と予定していたより書き直しました。本当に、著者の都合の良い弁解ばかりで、申し訳ありません。


さて、第11話ですが、理奈と新宿御苑で春を満悦する本ストーリーの主人公沙和音と、裁判所で弁護士・冬樹ほのかと再会するシーンへと展開させて描いてみました。

沙和音が、まだまだ法廷で苦悩しみながら、色んな人たちに助けられて一歩一歩与えられた難題をクリアーして行く様子を、まだまだ拙く未熟な文章ながらも、どうぞご一読ください。

 うわーあっ。本当に桜が満開なんだね。

 理奈が驚嘆と同時に感嘆の言葉に加えて、顔中を満面の笑みで包み込んだ。沙和音も都会にも、こんなに桜が満開になる場所があったんだと思うと、自然の恵みに感謝しなければと思った。

 沙和音は理奈の誘いで、新宿御苑に来ていた。3月の半ばに桜が開花しだして、今年は例年より早く満開の季節を迎えていたのだった。

 新宿御苑は環境省国民公園とされ、国が直接管理し国民一般に広く開放され利用されることを目的としている。現在の国民公園は、旧皇室御苑であった皇居外苑・新宿御苑・京都御苑の3か所とされている。

 御苑園内には、日本庭園・イギリス風景式庭園・フランス式整形庭園などが巧みにデザインされて、庭園観賞や自然観察が楽しめるスポットだ。盛春の桜としては、しだれ桜や八重紅枝垂れ桜が見どころだ。

「あ!ほら、あそこの木の下が空いてるから、そこに座ってお弁当食べようよ」

 理奈が指を指した方向へ顔を向けて、うんと沙和音は頷いた。

 理奈がブランケットを敷いて、手荷物を置いた。その荷物のトートバックの中かから、弁当箱を取り出して置いた。その弁当は理奈の手作りだった。

「可愛いね、そのバック」

 沙和音は、愛くるしいく子猫がプリントされているトートーバックを見ていて、その感懐を示した。

「これ、100金よっ」

 理奈が、嫣然のような笑みを浮かべて言った。それから手を合わせて、では、お父さんお母さん、農家の皆さん牧場の皆さん、早朝から夜中まで一生懸命働いて食物を与えてくださる皆さん、それから神様に感謝していただきます。

 そう言う理奈の口に習って一緒に手を合わせて、沙和音もいただきますと言った。

「この、ご飯を食べる前のお祈りも、彼の口癖なんだ。はいどうぞ、召し上がって」

「すごーい。理奈って本当、料理の天才だよ」

「彼の影響よ。ほら、調理師でしょう。だから自然と自炊好きになっちゃってさ」

 理奈は、目を細くするように言って、お握りを頬張った。

「うん、美味しいねこれ。だし巻き?」

 沙和音が、卵焼きを口に含んで訊いた。

「ああ、それは市販のパック品のだし巻きに、少し昆布醤油を塗ってチンしただけよ」

「そういう一手間かけるのって、大切よね」

「それよりさ、「陳述書」とかって書いたりするの大変だったんじゃあない?」

「うん、けっこうと苦労した。だって、理奈の分までだもん」

 そう言って、沙和音は微苦笑を浮かべた。

「びっくりよ、ちんじゅつしょ?何それ?ってさ。何かのおまじないかと思ったし」

「そうよね。普段は聞かないし、陳述書なんて言葉は私も」

 沙和音は、おちょぼ口を作って、口許に付いた米粒を人差し指で口の中に運んで言った。

「会社で、良い人たちに巡り合えてよかったね」と言って、それから続けて「ビール飲みたくなってきちゃったね」と理奈は、苦笑気味に付け加えてから「変わりに、このお茶で」と、ペットボトルのお茶を一気に口に含んだ。

「うん。色んな人に助けられてる。だから頑張れるんだと思う。理奈にもね」

「沙和音ってさ、昔っから何事にも一途に取り組むタイプだからね」

 理奈からそう言われた刹那、沙和音の脳裏には、室杜のある言葉が過った。


 室守は、図書館で一冊の本を沙和音に手渡した。その本の中にメモが挟まれていた。

「……『汝は事実を語れ、我は法を語らん』って、何ですかこれ?」

 沙和音は丁寧な字で書かれていた、そのメモを見つめながら、室杜に訊ねた。

「何て言うか、その古代から由来する法格言さ」

「ほうかくげん…?」

 沙和音は、さらに頭を捻って一考するが、室杜のメモ書きした法格言のイメージが掴めない。

「つまり、あなたは事実を主張しなさい。そうすれば私は法を適用しましょうと言うことなんだ」

 室杜の難題に、沙和音は今一とピンとこないし、陳述書と何の関係があるのかと思った。

「それは、偽りを言ってはいけないってことでしょうか?」

「うん。相手の言ってることは不当だから、私の言っていることが正当であると言うのではなく、事実を丁寧に理論を持って述べないと、裁判では通用しないってことなんだ」

「相手の言ってることに惑わされいては、いけないってことですか」

「そう。自分の今のこの気持ちを裁判官に強く伝えようとするあまりに、つい主張することの正当性や不当性の問題に踏み込むこもうとするけど、一歩引いて冷静に事実を語ることを心がける必要があるってことを、忘れてはいけないってことさ」

「感情的に論じないで、何事も理論的な事実が必要ってことですね」

 沙和音は、室杜から受け取った本の表紙を見つめていた。「陳述書の提出と、その実務と機能」とのタイトルが、白と青色の文字で鮮やかにレターリングされている。

「そう。『汝は事実を』は、証拠で証明すれば『我は法を』で、裁判所の司法権の権能を、当然の原理として言っているだけさ」

「なるほど、そう言うことなんですね」

 沙和音は頷いてはみたが、室杜が何故こんな難解なことをわざわざ話すのか、その意図が計り知れなかった。

 室杜が言うには、法律と言うのは単に法律として、突然に生まれるものではない。社会内には様々な紛争があり、その解決を図る何らかの社会的規範でこうあるべきとの思想や理念を基に、それにふさわしい原理原則により、それを体系的及び理論的に制度化したのが法律であると、理論立てて沙和音に説明しているのだった。

「でも、そう難しく考える必要はないさ。事実だけを陳述書に書くことに努めれば良い」

「そうですね。そんな嘘を書いても、裁判官にバレたら意味ないですもんね」

「裁判は、絵空事で闘うわけじゃあないのでね。真実発見のためだし」

「でも、どうしてこのメモを私に…?」

「いや、今の新堂さんと同じようにボ…僕てか、俺も初めての裁判の時に、その法格言を教えてもらって、何だか助けられた気になったていうか、法律の奥深さを知ったしね」

 室杜も時折と、沙和音に対して言葉の滑らかさを失うので、苦笑気味の表情を浮かべて照れを隠した。

「確かに、法律は奥深いですね。私にはちょっと無謀な挑戦かなって思えてしまいますし」

「まあ、取り合えず陳述書については、その本を参考にしてあらゆる方向性から検討してみて、裁判官を納得させる文章術ってことに意識して書き進めたらいいと思うし」

 室杜の助け舟とでもいうべき、これらのアドバイスを受け沙和音は俄然と、折れそうになっていたメンタル的部分に、エネルギーがみなぎって来た。

 でも、室杜の言いたいことは、沙和音にも何となくでも理解はできる。しかし、裁判官を納得させる文章術という難攻不落を、突破できるのだろうかと思うと、沙和音は反対に小首を傾げるしかなかった。

 その日から、陳述書の作成に取りかかかった。何をどう書けば良いのだろうかと、ゴールを探す迷路の中を奔走する日々が続いた。理奈にラインを送って、同窓会での出来事を覚えている限りの情報提供を求めた。

 その後で、私と良真との間にどんなことがあったのか。今は、沙和音とっては忌々しい過去でも、正確な事実に基づくレポートが求められている。

 

 汝は事実を語れ――――――

 裁判所に必要な報告は、真実のみだ。

 我は法を語らん――――――

 そうでなければ、裁判所は法律を適用して、あなたを救えない。


 古往今来から、人間は様々な争いごとを解決して平和を獲得して来た。そして事実を有する者を救済するため、正義の神様が勝利を授けてくれる。法律を語れるのは正義だけだ。虚言や詭弁は法律の前では無力だ。

 沙和音は室杜の言葉を信じて、陳述書の作成に精神一到する日々が続いた。理奈に証言して欲しい、いや理奈の知っていることも全て、それは消失させることはできない事実だ。理奈の陳述書で、良真の嘘に破邪顕正となる警鐘を鳴らすことができるはずだ。

 前途に諦念を入れずに、ベストを尽くすせば、勝利は自ずと視えて来る。

 沙和音はそういう自分であるべきだとの、信念めいたものに支配されていた。


 沙和音と理奈は、大木戸門の方から千駄ヶ谷門の方へと御苑内の周囲を回るように、歩いていた。新宿御苑の広さ、約18万坪、周囲3・5kmあるとされている。

「わーっ、桜吹雪だよ。踏みつけるのが、とても忍びないわねーえっ」

 理奈がソプラノ調の声で言った。強めに吹いてきた風が、桜の花びらを宙に舞い踊らせていたのだった。

「ほんと、とっても綺麗だねーっ」

 沙和音も釣られて、ついつい語尾が高くなって伸ばしてしまう。

「どっちが?」

「もちろん、桜が」

「何それ?そこは私じゃあない」

「理奈はエレガントなのよ。錦上に花を添えるられるね」

「おーお!難しい言葉を使うじゃあない。さすが、陳述書を書けるだけの才女だよ」

 理奈は、沙和音が作成した「陳述書」に直筆の氏名を記して、印鑑を押していた。

「色々と、悩んだけどね。理奈の気持ちってどうなんだろうかってさ」

 沙和音は室杜のアドバイスを受けて、図書館で「センス良く書きこなす・法律文章の記載文例」と言う本を借りて、それを参考にして「陳述書」を書き上げたのだった。

「沙和音と同じ気持ちだよ。笹谷君が沙和音にしたことは、私への裏切りと恩を仇で返したってね」

「ううん。そうじゃないよ。理奈と私ってずっと一緒にいて、それでも理奈のことって知らないことが沢山あるなって、ちょっと不思議に思ったのよ。これが前提事実よ」

「前提事実?何それ?」

 理奈は、疑問の眼を向けて沙和音に言った。

「知らないことがあって、私たちは友達なんだって、それが究極の事実ってことかな」

 この言葉に、沙和音なりの法ロジックによる随感を現した。

「何だか分かんないけど、やっぱり沙和音って凄いよ。頑張って法律してんだもん」

「汝は事実を語るものなのよ」

「またまた、何よそれって?」

「理奈と友達でいれて、本当に良かったってことよ」

「まあっ、私も友達が沙和音で良かったって本当、そう思うよ」

 沙和音と理奈は、日本庭園の敷地前で咲いているヤマザクラを見上げた。

「もう直ぐでしょう。次の裁判てさ」

「うん。だから今日は良い休養にになったよ。理奈が新宿にいるから来れたんだね」

「私にもっと、沙和音の力になれる頭があればいいんだけどさ。なんせ難しいことを考えると、頭の中がパニックになっちゃうしさ」

 理奈は、自分の言葉を破顔一笑する笑みを作った。

「私にだって、難解な法律のことが理解できたら、それこそミラクルよ」

 そう言って沙和音は、理奈に向って自嘲気的な笑みを浮かべ返した。

 理奈はこの後、歌舞伎町にある仕事場へ向かうことになっている。シフトで夕方からの出勤になっているのだ。沙和音が、仕事で忙しい理奈に変わって作成した「陳述書」の内容についての確認のため、新宿アルタにあるドトールで待ち合わせしていた。その後で、新宿御苑に桜の観賞に行く段取りになっていたのだった。

 新宿御苑の閉園時間は、4時30分までである。沙和音と理奈は新宿門から御苑を出て、新宿通りにある伊勢丹の方向へと向かって歩きだした。

「ゴメンね。裁判所に行ってあげれなくって」

「そんなの気にしなくていいよ。理奈は、まだこれから証人として必要な人なんだしさ」

 人込みで混雑している中を、紀伊国屋書店の前で沙和音は理奈と手を振りながら別れて、新宿駅東口に向かって帰路を目指した。


            *


「では、被告側の証拠を取調べます」

 野間山は、書記官に証拠資料を手渡した。それを裁判官が確認する作業が終わると、次に書記官は沙和音の席の許へ来て、証拠資料の確認を促した。

 沙和音は裁判官の方を一瞥して、被告の証拠関係と主張の関連性については、その信用性を否認すると簡潔に述べた。

「それでは次に、双方が提出されている証書ですが、甲4が原告本人にの陳述書と次の甲5がこれは証人の陳述書ってことですね。それから、被告の方は乙3で、被告本人の陳述書ってことですな」

 沙和音と野間山は、裁判官の方へ軽い頷きを返して、はいと言った。

「お互いに、陳述書については争うってことでよろしいですな」

 原告の沙和音と被告の良真の代理人、野間山の方を交互左右に見比べるように裁判官は、確認の意味とでも言うべき問いを発した。そして、続けて裁判官は言った。

「原告の方から、証人について証拠申出書が提出されてますが…」

 沙和音は胸を高鳴らせた。ついに、理奈に証言させてもらえると思った刹那、裁判官は、沙和音の胸中とは反対のことを言った。

「証人については、必要ないと裁判所では判断します」

 えっ?と、沙和音は裁判官の言ったことに胸を衝かれる思いで、声を呑み込んだ。

 その次に野間山が「原告の証拠申出による証人については、こちらも必要性がないと思料します」との意見を述べた。

「そうですか、では原告の証人についての申出は、却下とします」

 あっさりと言う裁判官を凝視しながらも、沙和音は二の句が継げない状態で、呆然とするしかなかった。あまりにもショッキングな想定外の事態に陥ってしまい、意気消沈してしまったのだった。

「では次回ですが、被告本人にも尋問したいと思いますので、原告被告双方の本人尋問を致します」

 裁判官の言うがままに、沙和音は頷くしかなかった。対する野間山は、挙手して裁判官に意見を述べた。

「被告本人の尋問は陳述書の通りですから、必要ないかと。できれば次回で結審していただければと」

 野間山は、良真の本人尋問の必要性のないことを、裁判官に軽い口ぶりでアピールした。

「当事者尋問は、裁判所の職権で行います。お互い、本人尋問による尋問事項があれば、早めに証拠申出書を、裁判所に提出してください」

 野間山の意見を却下するかのように、裁判官は野間山に対してプレッシャーとも言える、職権という言葉を使った。その後だった。沙和音に、思っても見なかった転機となる言葉が、裁判官から放たれた。

「どうでしょう、被告の方は原告に幾らか支払って、和解することはできませんか」

 唐突な裁判官の問いに、野間山は顔を顰めて首を捻った。そして、苦渋の選択を迫られたような、難しい表情を浮かべた。

「いや、それはちょっと本人と話してみないことには」

「原告の方は、和解で話し合ってみることはできますか」

「……はい。えっーと、考えておきたいと思います」 

 沙和音は裁判官の言っていることに、肯定的にはなれなかった。和解というのも想定外の事であり、どうして良いのか、気の迷いが生じて動揺してしまったのだ。

「では、次回は和解での解決も考えて、一時間くらい時間を取っておきましょうか」

 野間山は、憮然としたまま沙和音の方を一瞥した。沙和音は裁判官の方へと、揺れる動く内心を隠すように、小さく頷きを返した。

 裁判官が和解と言ったことで 思わぬ展開になってしまった。それでも次回は当事者尋問により、良真との直接対決になる様相を呈して来た。

 これからが沙和音にとっても、私憤を晴らすための正念場を迎える。理奈の証人申請は却下されたものの「陳述書」については、そのまま証拠となるようだ。

 私は、事実を語るだけだ。 相手のまやかしなんかには、絶対に騙されない。

 次回期日は、5月22日、午後1時30分からだ。沙和音は裁判官の方へ軽く一礼して、傍聴席の方へと踵を返した。

 

 傍聴席の方へ眼をくれると、見覚えのある女性が沙和音に向かって会釈した。

 弁護士の冬樹ほのかだ。

 沙和音は戸惑いながらも、どうも、と小声を交えた会釈を返した。

「お元気そうで、頑張ってらっしゃいますね」

 冬樹弁護士は、気さくな口調で言った。

「いえ、こちらこそ、その節はお世話になりまして」

 沙和音は、冬樹弁護士の後ろの椅子に腰を下ろして、硬直気味の声で言った。

「やっぱり、緊張されてますか」

「はい、それは多少は。先生はどうしてここへ」

「仕事ですよ。刑事弁護人の。民事の開廷表を見ていたら、もしやと思う名前がありましたのでね」

「そうですか。でも、ちっとも気付きませんでし」

「傍聴席に座ったら、ちょうどあなたが法廷にいましから。ちょっとここから出て、フロアーの方で話ましょうか」

 沙和音は頷いて、冬樹弁護士の言葉に従って法廷を出た。


 中央通路を挟む形で、左右のフロアーに設置されているベンチシートの右側の空席に、冬樹弁護士と共に沙和音も腰をかけた。

「裁判官に証人の証拠申出を却下されたときに、がっかりされた顔をしたでしょう」

「はい。正直、参ったなって、かなりショックでした」

 沙和音は、青色吐息を交えるような、力ない口調で言った。

「証人の採否については、裁判官の専権なんですよ。つまり、裁判所は当事者の申出た証拠について取り調べることが不要と判断したら、取り調べることを要しないと民訴法181条で規定している事柄なんです」

「ですが、私の主張している事を立証する必要から証人の友達に期待してましたし」

「だから、それは私たちだって、証拠申出を却下されることは珍しくはないんですよ」

「そうなんですね。先生たち専門家でも、そう言うことってあるんですね。でも、私の証人となる予定だった友達は、私と彼の交際までのパイプ役となってますし」

 どうしても、沙和音は理奈に証人として助けてもらいたかったのだ。友達として頼れるのは、理奈だけだったし、他に証拠らしき物がないと、主観的思考が先行していたからだ。

「証人の証言ってね、時の経過により記憶が曖昧になって減退することもあるんです。だから、本人が偽証する気がなくったって、尋問者の意図しない反対の証言をしてしまう危険も有り得ます。ですから、証言の信用性が必ずしも高くなるとも言えないんです。まして、初めて法廷で証言する人はぎこちない証言をしたりして、証言態度に誠実性が失われることもあります。もっとも、裁判官が重視するのは、証言の裏付けの有無や客観的外部事情なんですけどね。つまり、この証人は自然性や合理性から動かし難い事実を語っているかで、裁判官の見た心証によって、その信用性が左右するもんなんです」

 弁護士として、法律論で証人予定だった理奈の証言の必要性の有無を話す冬樹だった。

「動かし難い事実ですか」

「そう。『汝は事実を語れ、我は法律を語らん』ってのが、妥当する領域なんですよ。民事訴訟って」

「え?それは、あなたは事実を語りなさい。そうすれば裁判所は法律を適用しましょうって、法格言ですよね」

 室杜から教わった法格言を、冬樹弁護士が言うとは沙和音には思いもよらなかった。

「そうです。良く勉強されてますね」

 冬樹は、沙和音に感心したように微笑んだ。

「いえ、会社の先輩に教えていただいただけで、自分で勉強したって程ではないです」

「そうですか。会社に良い先輩がいて、それは何よりですね」

「はい。色々と会社の人達に助けてもらってます。室杜さんって人なんかに」

 沙和音は、ついつい言葉の綾からか室杜の名前を口走ってしまった。

「むろもり…さん…」

 少し、逡巡するような眼を沙和音に向けて、冬樹がオウム返しで囁くように言った。

「はい。現在、司法書士の勉強をされてまして、それで詳しいんです。法律関係とかに」

「もしかして、その先輩って人は男性社員の方なの」

 冬樹は確認するかのように、沙和音に訊いた。

「はい、営業部の。でも、どうしてそう思われたんですか?」

 冬樹弁護士は、会ったこともない室杜を何故、男性として考え合わせたのか、それが沙和音には不思議でならなかった。

「いえ、良かったですね。そう言う心強い人が会社にいらっしゃって。そうですか…」

 冬樹は、沙和音に向かって顔を綻ばすように、何度か小さく頷きながら言った。

「でも、もっと自分でも勉強しなきゃって、でないと、裁判所に事実は語れないって、本当に今日はそう痛感させられました」

「多分、あなたはもう、裁判所に事実を語ってますよ」

「そうでしょうか。彼の方は私とは友達としての関係しかなかたって、言い分ですし」

「和解ってことを裁判官が言ったでしょう。裁判官がそう言ったてことは、あなたの方がある程度、有利な事実を立証しているって、心証を得ているケースでもあるんですよ」

「和解ってことを私の方は、考えもしてなかったですし、それが突然に裁判官が言われて、どうしたら良いのか返答に困ってしまって」

「これもね、裁判所は訴訟がいかなる状態にあるかにかかわらず、和解を試しみることができるって、民訴法89条の規定によるところなんです。裁判所としても、判決に不服だからって理由で、当事者を上訴審で再び争わせて紛争を長引かせるよりも、円満に解決を図ろうと言う狙いもあるでしょうから」

 冬樹のこの説明は、弁護士という仕事の奥深さとキャリアが垣間見れると、沙和音には感じられた。

「そうなんですね。でも、何だか腑に落ちない気がして」

 冬樹弁護士の言うことが正しくとも、今の自分の気持ちがもやもやに包まれていて、晴れ晴れしない沙和音だった。

「和解を勧試しされたからって、必ず勝訴を保障してくれてるってことでもないし、寧ろ、和解で終わって良かったってケースも、多くあるのも確かな事ですしね」

「まだ時間がありますから、次回までゆっくりと和解については考えて行こうかなって、思っています」

 沙和音は、今の気持ちを正直に冬樹に話した。

「そうね。その方が良いと思う。キーポイントは、相手の彼と恋人関係だったことを立証できるかに尽きるでしょうからね」

「はい。とにかく、私なりにベストを尽くしてみます」

 右ひじを立てに折って、小さなガッツポーズを沙和音は作って冬樹に示した。

 その、沙和音の意志の強さを知った冬樹弁護士は、にこやかな笑みを浮かべて頷いた。その後に、冬樹は、ところで、その彼との写真などはどうしましたかと訊いた。

 沙和音は、え?と驚嘆の眼差しで、弁護士冬樹ほのかを見つめた。

 冬樹弁護士は、午後から弁護士会に行く予定だとの事なので、沙和音は一緒に裁判所を日本大通りの方へと出た。

 そして別れ際に冬樹弁護士は、あなたにはもう、神様が舞い降りているかも知れない。それを見逃さないでいたら、今の辛さを乗り越えた時に、きっと幸せが待っていると言った。

 沙和音には、弁護士冬樹ほのかの言ったことが、どう言う意味なのか判然としないまま、サプライズ的に表れた冬樹弁護士が背中を見せるまで、低頭を続けて見送った。


第12話に、つづく。

 

第12話につきましては、現在著者も頑張って執筆しているところです。今回の第11話も昨日(5/26)から、徹夜で執筆致しました。

その為、誤字・脱字等のお見苦しい点が見受けられますが、後程、時間をみて訂正及び加筆致します。


第12話の予告ですが、いよいよ良真と法廷で直接対決する沙和音の奮闘シーンを描いて行きます。

そして、弁護士・冬樹ほのかと室杜との人間模様を描いて行く予定です。


6月中に、第12話をアップして7月~8月には最終話(恐らく、第14話辺りで)をお届けする予定でいます。

何故に、遊びを優先してしまう遅筆な著者ですが、読者諸氏が期待していることを励みに頑張って、執筆して行きたいと思っている所存です。

暑くなって来ましたが、読者諸氏におかれましては体調を崩さないように、今年の夏の暑さを乗り切って欲しいいと、願っております。


なお、本話の舞台となっている新宿御苑の画像を「はてなブログ」の「hiroki-isの日記」に、アップ中です。

宜しければ、以下のURLを覗いてみてください。


hiroki-is.hatenablog.com/

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