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第三部終章

写真は2パターン撮った。和装と、洋装。ま、どうせなら? 人生おそらく最高にして最後のコスプレですし? 志緒のところから借りてきた白無垢を着た私を飽かずに眺めるいさぶに、照れて口がへの字になってしまう。そして、これまたもう一生着ることないだろうドレスに着替えると、いさぶのタキシードというレア映像をこんどは私が飽かずに眺めた。彼はタイでしまった首もとがどうにも落ち着かないようだったけれど。



==========


「……ねえ、これほんとに持ってかなきゃダメ?」



出来上がって送られてきたばかりの写真を手に、携帯電話を耳に当てる。



「なんかもうこっ恥ずかしいんだけど」


「なに言ってンの!」



電話の向こうで小言を言うのは母だ。



「親に見せないでなんのための写真よ」


「どうせデジカメでバシバシ撮ってたじゃん」


「それはそれでしょうよ。やっぱりプロが撮ったものじゃないと。あれ、少しは修正してもらったんでしょ?」



うしろから手が伸びてきて、写真を取り上げられた。母の小言を聞き流しながらふり返ると、いさぶが非常に満足そうな顔で写真を見ている。まあ、気に入ったんならいいけど。口の形だけで「おかえり」と伝えてから、再び母との会話に戻る。



「じゃあ、こんどの土曜に持ってくよ」


「伊三郎さんも連れてきてね。おいしいもの作っとくから。ああ、泊まっていく?」


「うーん、他にも写真届けるところあるから…」



手元の写真をめくる。いさぶが戻したものとあわせて、ぜんぶで六枚。


うちの分

両親の分

志緒んちの分

旦那の分

江戸の両親の分

そして――小松家の、分。


自分たちのコスプレ写真を配って歩くのはやっぱりどうにも恥ずかしいけれど、指折り数えたこの人たちがぜんぶ家族なんだってこと。そしてそれぞれに喜んでくれるであろうことに、幸せもンだなあと思わずにいられない。



「おかえりなさい」



電話を切り、改めていさぶに声をかける。



「いいのができたじゃないか。写真ってのはきれいに残るもんだな」


「伊三さん、初めての写真体験のわりにすごくカッコよく写ってる。さすがプロのカメラマン」


「…この儂の顔はなんだかやに下がっとらんか?」


「そう?」



確かに昔の人の写真ってものすごくしかめっ面で写っているイメージだ。それに比べたら若干にやけているような気もするけれど。



「仕方がないか。あれだけのべっぴんが隣にいてはな」



“あれ”じゃねえ、“これ”といえ。同一人物だ。



「週末、みんなに渡しに行こう」



そして感謝を伝えてこよう。


「ああ」と、生返事をしながら飽きずにまだ写真を見ているいさぶ。それをまた飽きずに眺めている私。



「あたしゃ幸せもンだよ」



彼から出てくるのはやっぱり生返事。だけどこういう空間がいとおしくてならないの。



「大事にするからね」


「頼んだぞ」



目線は写真のまま、返事が返ってくる。



「そっちもだよ?」


「引き受けた」



不意に顔をあげるから、目をしばたいてしまう。聞いてたの?



「大事にするよ。よろしくな、奥さん」


「……」



とりあえず、はにかまない練習から始めようと思います。もう何度か言っている言葉だけれど、何度も言っていいと思うの。だからこれから、どうぞよろしくね。

長い番外編のような、山谷のない話になってしまいました。シリーズを長く続けても蛇足になるとわかっているんですが、登場人物たちにたまに出会いたくなってしまうのです。これで幕を閉じるか、懲りずに番外っちゃうか。どちらも自信がありません(笑)


とりあえずは完結です。おつきあいありがとうございました。

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