第六話
「北川くん。そろそろ私、池田くんを撲殺しようと思うんだけど、いいかな?」
ある日のことである。
登校中に坂田さんの口からいきなり物騒なワードが飛び出してきた。
「ぼ、撲殺?」
「うん。撲殺。ダメかな?」
坂田さんはキラキラと笑顔を振りまきながら聞いている。
何にも考えてなさそうなところが逆に怖い。
「……えーと、よくないけどどうして?」
「だって邪魔なんだもの」
邪魔かー、そっかー、じゃーしょがないかー。
となるわけがない。
「邪魔だからって、撲殺はダメだよ」
「じゃあ絞殺?」
なんでだよ。
「絞殺もダメ」
「圧殺は?」
……この子はサイコパスかなんかだろうか。
「まず殺すっていう選択肢をなくそうか」
「ええー、いけずー」
いけずって……。
それ、使い方あってんの?
僕らが殺すだのなんだの押し問答してると、当の本人である池田くんが隣で「おい」と言ってきた。
「てめえ、よく本人を前にしてそんなこと言えるな」
「あ、聞こえてた?」
「聞こえてるわ!」
「それなら話が早いわ。北川くんと私の未来のために、死んでくれる?」
「お前がな」
今日も二人はフルスロットル全開だ。
なんだかんだで坂田さんと登校を初めて一ヶ月。
今ではすっかりお互い冗談を言い合える仲になっている。
「あ、そうだ。この前通販で呪いのアクセサリー買ったんだ。今度、呪ってあげるね」
「その前にてめえの首をへし折ってやる」
……冗談だよね?
「北川くん、助けてー。池田くんが私を殺そうとするぅ。怖ぁーい」
坂田さんは数秒前の自分のセリフを覚えてないのだろうか。
まったく似たような発言してたよ?
池田くんはプンスカと坂田さんに怒った。
「てめえ、北川にいつも助けを求めんじゃねえよ」
「だって池田くん、私のこと殺そうとしてるんだもん。こんなか弱い女の子が抵抗なんてできるわけないじゃない」
「あっはっはっは! か弱い女の子って誰のことだよ。どう見てもマサカリ担いだ金太郎……」
メキョッといい音を立てて池田くんは吹っ飛ばされていた。
坂田さんの拳が池田くんに炸裂したらしい。
本当に撲殺するんじゃなかろうか……。
「私、金太郎じゃないもん!」
坂田さんは涙目になりながら言っていたけど、申し訳ないけど金太郎だよと僕は思った。
吹っ飛ばされた池田くんは「げふう」とうめきながら歩道の脇に突っ伏していた。よかった、死んでない。しばらく放っておこう。
それよりもと僕は坂田さんに尋ねた。
「ねえ坂田さん」
「なに? 北川くん」
「坂田さんって古武術か何かやってるの?」
さきほどの池田くんへの打撃といい、以前からかなり格闘術に長けてるような気がする。
「さすがは北川大明神様! その目はまさに相手の正体を見抜く魔眼のごとき有能さ! バレてしまいましたか!」
「普通に視力1.0の人間の眼だけど……」
「北川くんには隠せませんね。そう、坂田家は代々、格闘術を習わされるの。警備会社を経営してるからなんだけど、必要最低限の武術は片っ端から習得させられたわ」
「へえ、坂田さんの家って警備会社を経営してるんだ」
すごい。
聖林女学園に通ってるだけあって、本当にお嬢様だったんだな。
「お父様もお兄様も今ではそれなりの仕事をしてて。海外スターの警護だったり、大財閥の屋敷の警備だったり、要人の暗殺だったり、巨大テーマパークの警備全般も任せられてるわね」
ひとつ聞き捨てならないフレーズが飛び出したんだけど……。
まあ聞かなかったことにしよう。
「そっか、だから坂田さんもこんなに強いんだ」
「いえいえ! 私なんかお兄様たちに比べたら全然で……」
そう言って恥ずかしそうに顔を赤らめながらガンガンと近くにあった石をチョップでたたき割っている。
無意識でたたき割ってるから怖い。
「でも池田くんは普通の人だから、あまり暴力は振るわないであげてね」
僕がそう言うと、坂田さんは「うん、わかった」と笑顔で頷いた。
「北川くんが言うなら、なるべく殺さないように手加減するね!」
「いや、わかってないね!」
やっぱこの子、ちょっとアレだな。と思った。




