第七話
「ねえ、北川くん。知ってる? “貴様”って言葉、もともとは尊敬語だったんだって」
いつもの通学路。
いつものように坂田さんと池田くんと三人で歩いてると、坂田さんはドヤ顔しながら言ってきた。
「へえ、尊敬語だったんだ。知らなかった」
「なんでも、昔の手紙か何かで“あなた様”という意味で使われてたみたいなの」
「そうなんだ」
単なる雑学ではあるけれど、さすがは聖林女学園に通う才女。そんなことも知ってるなんて頭がいい。
「だから北川くんも、私のこと“貴様”って呼んでくれない?」
「いや、言わないよ?」
「私も北川くんのこと、“貴様”って呼ぶから」
なんでだよ。
やだよ、お互いに「貴様」呼びなんて。
僕が言ったら相手を見下した感じになっちゃうじゃん。
でも坂田さんはどうやら本気だったらしく、
「北川くんと貴様呼び合いっこかぁ。うふふ、素敵」
とワケの分からないことを言っていた。
すると隣で聞いてた池田くんがスルッと会話にはいってきた。
「あ、じゃあオレもオレも! 今度から坂田のこと“貴様”って呼ぶわ」
「貴様は黙っとれッ!!」
自然に、それはもうごく自然に、坂田さんは池田くんを睨み付けながら“貴様”呼びしていた。
尊敬も何もあったもんじゃない。
「だいたい私がなんで池田くんから“貴様”呼びされなきゃいけないのよ」
「だって貴様ってもともとは尊敬語なんだろ? だったらオレが言ってもいいじゃん。尊敬する坂田にさ」
半ば面白がるように言う池田くん。
すると坂田さんは腕を組みながら偉そうにふんぞり返った。
「ん? なに? もう一度言って」
「オレ、坂田のこと尊敬してるんだ」
「ほほう、ようやく私の偉大さがわかったか。下賎の輩め」
「よっ! 坂田金時、日本一!」
「苦しゅうない、苦しゅうない」
ええー……。
池田くんの皮肉にも気づかないなんて……。
「でもそこまで言うなら仕方ないわね。あなたの貴様呼び、許してあげるわ」
どうやらご満悦のようだ。
池田くんはそんな坂田さんを見て僕にポツリとつぶやいた。
「……こいつ、やっぱヤベー通り越しておもしれー女だな」
ヤベー通り越したらヤベーだろ。
でもおもしれー女は同意。
「じゃあ今後は貴様呼びってことで」
「ええ、どんどん呼びなさい! 私を尊敬しながらね!」
「よっ! 坂田金時! 貴様、最高!」
「ほほほほ」
本当に貴様呼びで定着しそうになったので、僕は坂田さんに教えてあげた。
「ねえ、坂田さん。単純に池田くん、面白がってるだけだから本気にしないほうがいいよ」
「え?」
坂田さんが池田くんに目を向けると、池田くんはニヤニヤと笑っていた。
お腹まで抱えて必死に爆笑するのを抑えている。
「き、き、き……」
みるみる坂田さんの顔が紅潮していくのがわかった。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッッッ!!!!」
現在使われてる本当の意味の渾身の“貴様”が飛び出した。




