第五話
「おーっす、北川! 学校行こうぜ」
朝。
いつものように池田くんが家の玄関から声をかけてきた。
池田くんの通学途中に僕の家があるので、毎朝決まった時間に迎えに来る。
さすがは完璧超人の池田くんだけあって、いつも一分の狂いもなくやって来るからすごい。
おかげで、ぐうたらな僕も朝のルーチンが確立している。
けれども今朝に関しては違っていた。
「お、おはよう……」
玄関のドアを開けると、池田くんは僕を見て「ぷっ」と笑った。
「北川、なんだよ、その髪型」
「昨日、大好きなマンガを1巻から読み始めたら止まらなくなっちゃって……」
そう。
昨晩、夜更かししすぎて朝寝坊してしまったのだ。
おかげで爆発したような寝ぐせを整える暇もなく制服に着替えて慌てて家を飛び出した。
案の定、池田くんは僕の髪型を見て爆笑していた。
「あはははは! マジか! ありえねえ髪型になってんじゃねえか! ひーっひっひっひ、腹いてえ……げふん、げふん!」
笑いすぎだよ。
「とりあえず早く行こう。遅刻するから」
「やべえ、みんなの反応が楽しみだ」
完璧に面白がっている池田くんを無視してずんずん進む。
こう見えて僕は鶯東高校では優等生キャラで通っているんだ。
遅刻するくらいなら髪型で笑われる方が良い。
……と思っていたけど、池田くんがあまりにも大げさに笑うもんだから不安になってきた。
そんなに変かな、僕の寝ぐせ。
「おはよう、北川くん!」
ちょうどそこへ、いつもの場所でいつものように僕らを待っていた坂田さんが声をかけてきた。
「おはよう、坂田さん」
挨拶を返すと坂田さんは「うっぴょーう!」と謎の奇声をあげた。
「き、き、き、北川くん! どどど、どうしたの、その頭!」
まるで未確認生物を発見したかのように目を丸くしている。
「……ちょっと今日、寝坊しちゃって」
「まるで天変地異の前触れのような髪型!」
どんな髪型だよ。
驚く坂田さんに同調するかのように池田くんが馴れ馴れしく僕の肩に腕をまわしてきた。
「くくくく、笑えるだろ。こいつ、寝坊して寝ぐせ直さずに出てきたらしいぜ」
「寝ぐせ!? その神の如き神々しい輝きを放つボンバーヘアーが寝ぐせ!? 素敵すぎる……!」
神の如き神々しい輝きを放つボンバーヘアーって……。
坂田さんの素敵基準がよくわからない。
「な? イカれた髪型してんだろ?」
そして池田くんのどこが「な?」なのかわからない。
僕は肩に回された腕を振り払ってむくれた。
「もう! 笑わないでよ。これでも鏡の前で少しは直してきたんだから!」
「わりぃわりぃ、怒るなよ」
ちっとも悪びれた様子もなく謝る池田くん。
対する坂田さんも僕に合わせて池田くんに怒ってみせた。
「そうよ、大事な友達を笑うなんて失礼よ。あなたなんて北川くんの友達の資格はないわ。一生、北川くんとは口をきかないでちょうだい」
「……いや、そこまで怒ってない」
「北川くん、安心して。あなたのその奇跡の髪型を笑う人がいたら、私が殺してあげるから」
「やめてくれる!?」
坂田さんはちょいちょい物騒なこと言うから怖い。
そして寝ぐせを奇跡の髪型って表現する人、初めて見た。
「そんなわけで、北川くん」
「な、なんでしょう。坂田さん」
「……写メ撮っていい?」
「ダメに決まってるじゃん!」
人の寝ぐせに興奮する坂田さんに、若干引く。
「お願いします、お願いします! 北川くんの寝ぐせ姿なんて、今世紀最大のご褒美なんだから! ポスターにして天井に貼り付けておきたいの!」
「やめて!」
何考えてんの、この人。
「あ、じゃあオレもオレも。撮っていいか?」
同じようにスマホを構える池田くんに渾身のエルボーを食らわしてやったのは言うまでもない。




