第四話
次の日から坂田さんは毎朝僕らと合流して登校することになった。
というか、いつも途中で待ち構えるようになった。
聖林女学園は徒歩20分圏内の学校だから間に合うといえば間に合うのだろうけど、わざわざ僕らを待ってから登校するなんて大変だろうに。
「ああ、北川大明神様! 今日も凜々しくて立派なお姿です! はあ、神々しい……」
そう言って大げさに両手で頬を押さえつける坂田さんは今日も元気だ。
僕が神々しかったら隣を歩く池田くんは眩しすぎて目を焼かれるんじゃなかろうか。
「ごめん、坂田さん。いつも僕のこと褒めてくれるけど、僕なんてほんとたいした存在じゃないんで」
「北川大明神様がたいした存在でなければ、私たち下々の人間は存在する価値もないゴミクズ以下の存在でございます」
「下々の人間って……」
僕は上位種かなにかか。
恋は盲目と言うけれど、彼女の場合はベクトルが違う方向に突き進んでる気がする。
「おい、坂田金時」
隣にいた池田くんが声をかけた。
「……え、誰!?」
「池田だよ、池田! いつも北川の隣にいるだろ!」
「……池田? いたっけ?」
「マジか、こいつ……」
坂田さんは本気で気づいていないようだった。
正直、僕も「マジか」と思ってしまった。
「ごめん、私興味のない人は会った瞬間に忘れるから」
「会った瞬間に忘れたら会話にならないだろうが!」
まわりからキャーキャー言われて騒がれてる池田くんからしたら「興味ない人」なんて言われたことのないセリフだろう。
まあ、僕ですらそんな辛辣なセリフ言われたことないけど。
「なに? 北川大明神様と私の崇高な逢瀬の時間を遮ってまで何か用?」
「ひとつ言っておくぞ? 北川はオレのダチだ。お前が勝手に北川を崇め奉るのは構わないが、人にそれを強制するな」
「ほう? ダチとな? 北川大明神様、いかがいたしましょう。この不遜な輩を成敗してもよろしいでしょうか?」
「よろしくない、よろしくない」
目がガチだから怖いよ。
「ごめん、坂田さん。僕からもお願いするよ。できれば普通に接して欲しいんだけど」
「普通に?」
「その……なんとか大明神ってのもやめて欲しいし、同い年だからため口でしゃべってくれると嬉しいな」
「それではなんてお呼びすれば?」
「北川くんでお願いできない?」
「き……!? わ、わかりました……じゃなくて、わかったわ。では…………き、き、き……きき……ききき……き……」
「サルでもいるのか?」
池田くんが余計な一言を言うもんだから坂田さんが「うっきー!」とサルのように叫んだ。
「人がせっかく“北川くん”って頑張って言おうとしてるのに、なんで邪魔するのよ!」
「言えてんじゃねえか」
「こんな勢いで言ったのはノーカウントに決まってるじゃない! 私は少女マンガのように恥じらいながら“北村くん”って言いたいの!」
恥じらいながら言いたかったんだ……。
「ほんと信じらんない。こんな可憐な乙女にサルだなんて」
「ぷぷっ。聞いたか、北村。可憐な乙女だって」
「笑っちゃ悪いよ、池田くん」
「走りながらパンを食ってた女が……あがっ!」
池田くんが言い終わるか言い終わらないかのうちに、坂田さんの空手チョップが池田くんの脳天を直撃した。
す、すごい。
あの池田くんにチョップをお見舞いした女子なんて坂田さんが初めてじゃなかろうか。
「な、な、な、何しやがんだ、てめえ!」
「ふん、天罰よ」
そうこうするうちに鶯東高校に到着した。
いつも池田くんと二人で登校してるけど、それよりも早く着いた感じがする。
「それじゃ、き……きた……きた、北村くん。ま、またね」
「うん、坂田さん。勉強頑張って」
「はううー! 恐悦至極に存じますればー!」
坂田さんはそう言って逃げるように走り去って行った。
「バナナの皮で滑って転ぶなよー」
池田くんがどうでもいい事を言って見送ると、坂田さんは振り返りながら
「そんなマンガみたいな展開あるかー!」
と叫んだ。
その直後。
坂田さんは道ばたに落ちてたバナナの皮に滑って転んでいた。
ええー……。




