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第十話

「ねえ、北川くん。ギャップ萌えって知ってる?」


 今日もいつものように唐突に坂田さんが聞いてきた。

 いや、彼女の場合当たり前のようにと言った方が正しいかな。

 いつも坂田さんは前触れもなく話を振ってくる。


「ギャップ萌え? 定義は知ってるけど」


 普段のイメージから意外な一面を見ることで、そのギャップにキュンとなること……で合ってるよね?


「やっぱり知ってるんだ」

「ギャップ萌えがどうしたの?」

「私、それを目指そうと思って」


 ……また変なこと言い始めた。

 ギャップ萌えって自分で言うものじゃないよね?

 周りが判断するものだよね?


「そ、そうなんだ……」

「どう思う?」

「い、いいんじゃないかな?」


 何をする気かわからないけど。

 横を見ると池田くんが眉を寄せて変な顔をしていた。


「おい、坂田。なんだよギャップ萌えって」

「池田、てめえそんなこともわからねえのか、コラ」


 池田くんの問いかけにいきなりメンチを切る坂田さん。

 もしかしてもうギャップ萌えを仕掛けてきたのかな? だいぶイメージと遠いけど。


「ギャップ萌えっつったらアレだわ! 普段のイメージとは違った一面を見せることで相手をキュンとさせることだわ! てめコラ」


 申し訳ないけど、今の坂田さんに少しもときめかないよ。


「えーと、つまりアレか? 普段おとなしい子が実は喧嘩が強かったり、啖呵を切ったりすることか?」

「その通りだぜ、コラ。なめんな、コラ」


 いや、だいぶ違うよ?

 坂田さんのイメージとギャップ萌えのイメージ、全然噛み合ってないよ?


「じゃあアレだな。今の坂田は全然キュンとならねえからギャップがねえってことだな」

「あ?」

「だってそうだろ? 普段のイメージと違った一面を見てキュンとなるってのに、今の坂田からはまったく何の感情も沸かないから、今の坂田はいつも通りの坂田ってことだよな?」

「はああ!? てめ、コラ、何言って……はああ!?」


 坂田さんがちょっとパニクってきた。


「まあ当然っちゃ当然か。てめえはもともと口が悪いからな。あんまりギャップ感じねーわ」

「てめコラ、池田のくせに、何言ってんだコラぁ!」


 焦る坂田さんがちょっと可愛く思えてきた。

 これがギャップ萌えかもしれない。


「ふざけんじゃねえぞコラぁ! 黙りやがれコラぁ!」

「坂田さん、落ち着いて」


 落ち着かせようと思ったら坂田さんが「ふえ~ん」と言い出した。


「北川くぅん、池田くんがいじめるぅ~」

「…………」


 ……これはドギツイものが出てきたな。


「そ、そっかそっか。でも池田くんも悪気があって言ったわけじゃないし……」

「せっかくギャップで萌えさせようと思ったのにぃ~。私、泣いちゃう~」


 思わず「黙りやがれコラぁ!」と言いそうになってしまった。

 この神経を逆なでるようなしゃべり方。

 もしかしてギャップ萌えを狙ってるのだろうか。


「ま、まあまあ。坂田さんの頑張りはわかったから。いつも通りに接してよ。ね?」

「……でもぉ」

「坂田さんはギャップなんかないほうがいいよ。ギャップがあるなんて坂田さんらしくないよ」

「ほんと?」

「うん、ほんとほんと」


 何度か「ほんと?」と「うん、ほんと」を繰り返すうちに坂田さんは納得してくれたみたいで

「うん、わかった! 北川くんがそう言うなら、いつも通りに接するね!」

 と言ってくれた。


 ところがその直後に池田くんが坂田さんをからかった。


「ははは、お前のそのいつも通りが最悪なんだけどな」

「ふえ~ん、北川くぅん。池田くんがいじめるぅ~」

「坂田さん、わかった、わかったから!」



 池田くん、ふざけんじゃねえぞコラぁ!


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