第九話
「おはよう、坂田さん」
「おはよう、北川くん。ついでに池田くん」
いつもの朝、いつもの通学路。いつものように坂田さんが待っていた。
でも今日はいつもと違うところがあった。
僕らを待っていた坂田さんが、なぜか右目に黒い眼帯をしていたのだ。
「坂田さん、どうしたの? その目」
「これ? 知りたい?」
「知りたいっていうか、気になるっていうか……。ケガでもしたの?」
「うふふ、相変わらず北川くんは優しいね。実はちょっと右目から放出されてる魔力を押さえつけてる最中なの」
「…………」
なんて?
「ど、どういうこと?」
「私の右目ってちょっと特殊でね。たまに内に秘められし魔力を外に放出させてしまうことがあるのよ」
「…………」
僕は隣にいた池田くんに小声で話しかけた。
「どうしよう、池田くん。坂田さんがなんか中二病っぽいこと言い始めたんだけど?」
「オレに聞くなよ。こういうヤツの対処法なんて知らねえぞ?」
「笑ってスルーしたほうがいいのかな? 話し合わせたほうがいいのかな?」
「スルーしてえけど、そんなことしたら怒りそうじゃねえか?」
「じ、じゃあ、とりあえず話合わせとく?」
「お、おう、そうだな」
僕らはコクンとうなずき合うと、坂田さんに向き直った。
「そっかー、坂田さんって魔法使いだったんだー」
「そうなの。私ね、こことは別の宇宙アリステッド・ユーゲルクというところからやってきた魔女なんだ」
「アリス……なに?」
「アリステッド・ユーゲルグ。異世界後で《輪廻の輪》という意味よ。今まで隠してたけど私はこの世界の住人じゃなくて、魔王ゲスタフグリンゲンを追ってやってきた異世界人なの」
「…………へえ、そうなんだ。池田くん、パス」
5秒で断念した。
池田くんは「オレかよ!?」という顔を僕に向けた。
「ごめん、ちょっと僕にはレベル高すぎて……」
「オ、オレだって無理だよ」
「できるでしょ? いつものコミュ力発揮してよ」
「これに話合わせられるヤツなんていねーよ」
僕らが言い合ってると、坂田さんは「ああ!」と叫んで眼帯を抑えた。
「右目が……右目がうずく! 私の右目がうずくーーー!!」
リアルでそんなこと言う人、初めて見た。
「このままでは魔力の放出を抑えられないわ……! ああ! ああー!」
「……池田くん、なんか言ってやって」
「し、しょうがねえ」
見るに見かねて池田くんが声をかけた。
「おい坂田! 落ち着け! そのあふれ出てる魔力をコントロールできれば、お前のパワーは数段アップするぞ! ここは耐えるんだ!」
脇を通る通行人から「え? 何この人たち」という目を向けられたけど、無視しよう。
「魔力が……魔力が……。ああー!」
「坂田!」
「もう駄目!」
坂田さんはそう言って眼帯を外すと、猛烈な勢いで目をこすった。
「ごめんね、北川くん。本当はものもらいなの。目をこするなって言われてるけど、無理!」
ものもらいかーい!
隣を見ると、池田くんがめっちゃ恥ずかしそうに顔を隠していた。
「北川……。オレ、こいつ殺していい?」
「やめてあげて。ものもらいってツラいんだから。現実逃避したくなる気持ち、わかってあげて」
僕も経験あるからわかる。
ものもらい、ツラいんだよね。かゆいのにこすっちゃ駄目だし。駄目だと言われると余計こすりたくなっちゃうし。
坂田さんは再び眼帯をすると、「今度こそ我慢する!」と拳を握りしめていた。
うん、頑張って。




