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悪役令嬢として追放された私、辺境の公爵様に溺愛されています〜趣味の魔法薬作りが本物の聖女の力だったと気づいてももう遅い〜  作者: 黒崎隼人


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番外編「凍てつく玉座を溶かす光」

◆ヴィンセント・アシュレイ視点


 王城の大広間は、吐き気を催すような安物の香水の匂いと、醜悪な嘲笑で満たされていた。

 私は黒い外套の奥で息を潜め、愚かな王太子が演じる滑稽な茶番を冷ややかな視線で見据えていた。

 豪華な装飾に囲まれたこの空間には、真実を見極めようとする者は一人もいない。

 誰もが権力にすり寄り、弱い者を石で打つことで自己の優位性を確認している。

 その中心に立たされていたのが、ルミナ・オルコットだった。

 彼女の細い背中は微かに震え、両手はドレスの生地を白くなるほどきつく握りしめている。

 顔を伏せた彼女の横顔には、絶望というよりも、すべてを諦めきったような深い虚無の色が張り付いていた。


『この国は、本物の宝を自ら泥沼に捨てようとしている』


 私は領地に蔓延る呪いの霧を払うため、長年優れた魔法薬師を探し求めていた。

 裏の経路で手に入れた彼女の作った薬は、他のどの高名な錬金術師の作品よりも純度が高く、確かな浄化の力を秘めていた。

 それを作った本人が、今まさに無能な令嬢として追放されようとしている。

 私は迷うことなく歩みを進め、彼女の前に手を差し出した。

 彼女が私の手を取った瞬間、革越しに伝わってきたのは、雪のように冷え切った指先の感触だった。

 その冷たさが、私の胸の奥に奇妙な痛みを引き起こしたのを、今でもはっきりと覚えている。


◆ ◆ ◆


 北へ向かう馬車のなかで、彼女は常に身を縮ませ、私の視線を避けるようにしていた。

 私が毛布を掛けてやったときに見せた、驚きと戸惑いの入り混じった顔。

 彼女は私の行動を、純粋な優しさではなく、何らかの裏があるものとして警戒しているようだった。

 王都でどれほど酷い扱いを受けてきたのかが、その小さな反応の端々から透けて見えた。

 私の胸に湧き上がるのは、彼女を傷つけた者たちへの静かな怒りと、彼女の警戒心を少しずつでも解きほぐしてやりたいという、これまでに感じたことのない切実な願いだった。

 領地に着き、彼女はすぐに調合室にこもるようになった。

 真鍮の天秤を見つめる真剣な眼差し、乳棒を握る細い指先、炎の温度を調整するときの横顔。

 私は用事もないのに調合室へ足を運び、彼女が薬を作る姿を密かに目で追うようになっていた。

 彼女は自分の力を全く誇示することなく、ただ黙々と、聖獣ブランのため、そして見知らぬ領民のために薬を作り続けている。

 ブランが彼女に懐き、その白い毛並みに彼女が顔を埋めて笑ったとき、私の胸は激しく高鳴った。

 その笑顔を、私にも向けてほしい。

 私に向かって、心からの信頼を預けてほしい。

 そんな感情が、日を追うごとに私のなかで大きく膨れ上がっていった。

 しかし、彼女は私との間に常に透明な壁を築いていた。

 私が贈り物を与えても、言葉をかけても、彼女はすべてを雇用主の気遣いという枠に押し込み、それ以上踏み込んでくることを拒絶した。

 私が不用意に触れようとすると、怯えたように肩をすくませる。

 そのたびに、私は自分の無骨さと言葉足らずを呪い、見えない壁の前で立ち尽くすことしかできなかった。

 彼女を大切に思えば思うほど、その距離感がもどかしく、夜も眠れないほどの焦燥感に苛まれる日もあった。

 だからこそ、王都から使者が来たときの私の怒りは、自分でも制御できないほど激しいものだった。

 再び彼女をあの冷たい泥沼に引きずり戻そうとする者たちを、私は絶対に許すことはできなかった。

 私の領地を灰にしてでも、彼女だけは守り抜く。

 その決意を告げた後、彼女が初めて自ら私に手を伸ばし、涙を流しながら私の庇護を受け入れてくれた瞬間のことは、生涯忘れることはないだろう。

 氷のように冷え切っていた私の人生は、彼女という静かな光によって完全に溶かされた。

 今はただ、私の腕のなかで安らかに眠る彼女の髪を撫でながら、この温もりが永遠に続くことを祈るばかりだ。

 不器用な私が彼女に与えられるものは少ないかもしれないが、私の残りの命のすべてを使って、彼女に愛を注ぎ続けることだけは誓うことができる。

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