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「約束の夏」  作者: 高領 つかさ(TSUKASA・T)
「学園編」

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7 予算交渉

7 予算交渉



寺合宿を提案されたとき。

本多由樹乃は、友人に連絡をとっていた。

それは、仲の良い友人に、初めて行くこの寺合宿に付き合ってもらえるといいな、という消極的な気持ちがあっての声掛けだったのだけれど。

由樹乃は。

―――まさか、百合香が、…こんな、なんて。

巻き込んでおいて、我ながらあんまりだとはおもうのだけれど。

―――普通枠、のつもりだったんだよね、…。

おもうのは、「闇との戦い」だの、色々な普通な生活からはかけ離れた現実と、それに向き合うのがちょっとだけ、―――ちょっと、ではなかったのだけれど、本音としては――なんでそんなことに?とおもったりもするから。

――一緒になって、そんなことあるの?とか、…。

「それ」を当然とする篠原守と藤沢紀志に。

美形にすぎる「契約結婚の婚約者」でもある黒城海将補とか。十九才にしかみえない黒城海将補とか。そんないろいろに、突っ込みとか、驚きとか。

 信じられない、とか、…。

いってくれる、普通枠の友人を呼んだつもりだったのだけれど。


 そんなことを、しみじみ思っている由樹乃の前で。





 寺合宿二日目の朝。

 元気よく居間に響く声は。

 


「はい!それで闇というのが、学園に現れているというのですね?」

挙手をして発言を。

行儀の良い御園百合香に、篠原守が大きくうなずく。

腕組みをしたまま、うなずいて真面目な顔で。

 闇ってなに?!しかも学園にって?

そんなことをききたい由樹乃に構わず、話はどんどんと進んでいる。

 ―――百合香、適応力高いよね、…。

半ば茫然としながら眺めている由樹乃の前で、御園百合香がうなずいている。

 腕組みして深くうなずいて。

「そういえば、確かにうわさがありましたわ。学園の七不思議――怪談話はよくあることですけれど」

 ―――百合香、…?

平然と話を続けている百合香と、篠原守。

「そうなんですね?そちらの学園にもありましたか!まあ、学校とかにはよくある話なんですけどね?それで、そちらの学園の方角に、怪しい灰暗色の雲が湧いてたんですよ」

うむうむ、とこちらも腕組して、うんうんとうなずいている篠原守。

 由樹乃がくちを挟む間もなく、話は進んでいっている。

 いや、何にしてももとより由樹乃がこの寺合宿で話の主題を進めたことなどまだ一度もないのだが。

「ですからね?昨夜、黒城さんとぼくがうっかり空を観測してしまいまして、…――。本来なら、今日はまだお話を続けておきたいという処だったのですけれど」

「そういうわけにもいかなくなったからな、…――由樹乃さんには急に実践になってしまって申し訳ないが」

「…え、えと?実践、…?藤沢さん…?」

寺で食事をする居間から出ていた藤沢紀志が戻り、篠原守の発言に続けていうのに、戸惑って由樹乃が見返す。

そう、つまり。

 朝食を始めると同時に、申し訳ない、と藤沢紀志が急に謝り。

 篠原守が見事な和朝食を各自に配膳しながら、いったのである。

「ごめんね!今日も解説する予定が、実地になっちゃった!」

と。

 意味がとれずに見返して無言になった本多由樹乃を誰も責めたりはしないだろう。

 対して、黒城が落ち着いて膳を受け。

 御園百合香が、あら、それでは本日は外出いたしますのね?というと同じく篠原守から食事の膳を受け取り。

 藤沢紀志も淡々と朝食の膳を整えて、由樹乃がまったく理解しないままに。

 わかっていない由樹乃が、それでも何とか食事を取り終えると。

 他の皆も淡々と朝食をとり、それを下げたのが合図のように。

 まず、御園百合香が。

「ごちそうさまでした。…――では、これから打ち合わせね?」

「はい。よろしくお願いします」

篠原守がにっこり受けて。

「え?打ち合わせって、…だから?」

茫然としている由樹乃をおいて、藤沢紀志と黒城が居間を出て。

かくして、いつのまにか、昨夜篠原守と黒城がみたという「何か」に対応する為の打ち合わせというものが由樹乃の目の前で行われていたのだ。

 つまり、その。

「百合香?」

真面目にうなずいている御園百合香に、由樹乃が訊ねる。

それに、うんうんと腕組みしてくちもとに拳にした手をかるくあてて百合香が続ける。

「そうですの。怪談は普通にどの学校でもよくあるお話でしょうけれど、…最近、おかしなうわさが付け加えられておりましたのよ」

「そうなんですねー。やっぱり、前兆というものはあるものなんですねえ、…。ぼくとしては、やはり穏便にできるだけ済ませたいとはおもっているんですけど。それで、状況はどうです?」

篠原守の問いに御園百合香がすこし考えるようにする。

「そうね、…生徒会に集まっている情報では、一部の生徒に影響は出ているようね。ほんの少しだけ体調が悪いとか、試験で少し調子が悪いといった生徒が出てきている感じかしら?そのうち、対応しなくてはいけないとは思っていたのだけれど、…。まだ軽微ではあったから、…――――。でも、お二人がそうおっしゃるというのは、あまりのんびり対処していては出遅れるといった状況になってきているのかしら?」

真面目に見返す御園百合香に、篠原守がうなずく。

「まあ、こればっかりは、実際にいってみないと確実なことは申し上げられないんですけどー。まあ、なんて申しますか、安全側に倒す、というのも、ある意味必要ではないかと?」

あかるくかるくいう篠原守に、ふむ、と御園百合香が首をかしげる。

「つまりは、…――本当に犠牲者が出る前に、対処した方がいいということ?事が起きる前にというのは理想ですけど、…実際には中々、事前対応って難しいのよね。予算の問題もあるし」

考え込む御園百合香に、篠原守もうなずいている。

「わかります。予算大事ですよねー。僕としても、本来それほど急ぐ案件ではないと思っていたんですが、実をいうと昨夜拝見したものはかなり成長しておりましてね?もしかして、僕達が学園に行きましたでしょ?それで刺激しちゃった、というのもなきにしはあらずかなー、と。そうすると、責任というものも発生いたしますしねえ」

「―――…あら、それは今回お願いしたときには、費用は発生しないと考えてもよろしいんですの?」

キラリ、と御園百合香の瞳が輝いたようなのに、くちを挟めずにみていた由樹乃が驚く。

「…百合香?」

思わず問いかけてしまう由樹乃に、無言で御園百合香がうなずく。

「ええ、…生徒会を運営する以上、予算は大事ですからね?学園を防御するとしても、予算には限りがありますもの」

「…ええと?予算?それって?」

たずねる由樹乃に向き直り、御園百合香が真面目な顔でいう。

「勿論、今回のような「お祓い」を行う際にも必要な経費というものがありますわ。そして、皆様にいただいている生徒会運営費がございますでしょう?」

「あ、…そういえば、あるわね」

「ええ、月五百円とはいえ、全生徒からいただいている運営費ですわ。それを普段は積み立てて、生徒会運営費に使用していますの。学園祭他、学園での生徒主催となる催し物に充当は勿論、学園環境の整備などに関しても使っておりますのよ?花壇整備とか」

「花壇?」

「ええ、年一度の会計報告をきちんと出してもおりますわ。由樹乃もごらんになったことはございますでしょう?生徒総会で発表しておりますもの」

当然のようにいう御園百合香に、由樹乃が遠い視線になる。

「…えっと、…――ちゃんと聞いたり、――みて、ないかも、…ごめん」

反省する由樹乃に、軽く御園百合香が肩を竦める。

「まあ、よろしいですわ。殆どの方が関心がないことも存じ上げておりますもの。まあ、それはともかく、花壇の整備費などと同じく、学園の整備費として、今回のような事案に関しても予算がついておりますのよ」

「…予算、つくんだ?こういう事案って?」

思わずおどろいて見返す由樹乃に、極当たり前という表情で御園百合香がいう。

「当然でしょう?予算がなくては動けませんものね?それで、今回は費用が発生しないというものでしたら、実に有難いと思うのですけど?」

にこやかに、途中から視線を篠原守に向けていう御園百合香に、難しい顔をして腕組みして篠原守がうなずいている。

「…ですねえ、…。僕達としては、そう簡単にボランティアはできないのですけど。…今回は、こちらが刺激した可能性が高いですしねえ、…。ですから、関係ない学園には近づかないように注意してたんですが」

「と、いうことは今回、こちらの学園にお呼びした件が関係しているともとれるわけですね。…責任と費用の按分をしなくてはならないかしら」

真剣にいう御園百合香に篠原守も首をかしげる。

「ですねえ、…。刺激したのは確実としても、接近の原因は確かに、―――しかし、そう考えると、事は本多の御本家に対処費用をお持ちいただくのが正解かな、ともおもえるのですが」

「…そこは難しいわね。学園としては、本多家から頂いている寄付金は大切な原資だし、…――いわゆるスポンサーの一角だから。そう考えると、そもそも由樹乃さんの安全を保持するという契約内容とも矛盾はしてくるのよね、…」

「そうはいいましてもねえ。その御本家からの依頼で由樹乃さんを護衛しつつ、その御力に覚醒して頂くという難易度が高いミッションというものがございまして」

「…―――そんなミッションがあったの?」

驚いている由樹乃にうなずいて、篠原守が腕組みしてうなっている。

「ですからね、困っているわけですよ。…やはり、費用面では、本多の御本家に請求してよろしいのでは?」

「かしらね。仮請求を起こして、学園と本多家に申請を、…―――。それで、却下されたら、生徒会予備費で対応することにしましょう。…お友達価格で動いてくださるのよね?」

真剣に見返す御園百合香に、難しい顔で篠原守が見返す。

「寺としては、…。まあ、今回僕達は交換留学生でもありますしね?生存する為の安全を担保する為の環境保全活動の一環として申請すれば、多少ともお安くはできるかとは思いますが。でも、決定は御山が行いますから、ぼくみたいな末端が確実なお返事なんてできませんよ?」

釘を刺す篠原守に、艶然と御園百合香が微笑む。

「勿論ですわ。此方としても、篠原さんの言質が多少ともとれたのは有難いですもの。それでは、動きましょうか?」

「だな。こちらも一応、手配が出来た処だ」

「あら、はやいですわね?」

藤沢紀志の言葉に、御園百合香が笑顔になる。

「勿論だ。それでは、現場へ移動するか」

「え?それって?」

由樹乃が驚いてきくのに、にっこりと藤沢紀志が微笑む。

鉄面皮の美少女が微笑むと無駄に迫力があるのだが。

「その、――いまの会話って、一体?それで、何処へ行くの?」

戸惑っている由樹乃に、麗しい笑顔で御園百合香がいう。

「勿論、学園よ」

「え、その?」

「予算配分が決まりましたからね?」

「よ、予算?」

確かにそんな話をしていたけれど、と。疑問を顔にはっきりかいた由樹乃に、しずかに藤沢紀志がうなずく。

「面倒な話だが、動くにしても費用を何処が出すかというのは大事な話だからな。この二人は、できるだけ損をしないように交渉をしていたというわけだ」

「こ、交渉…?費用って」

「誰も、ただ働きはできませんからねえ、…。特に、御山ではきちんと祈祷料とか、いろいろ決まっちゃっているものなんです。ですから、お気持ち料金という建前がありますけど、実際にはお友達価格とはいえ、お気持ちゼロ円でお引き受けするわけにもいかなくて」

苦渋の決断なんですけど、とか腕組みしていっている篠原守を茫然と眺める。

「その、…御山って?なんの、…――つまり、料金なの?」

由樹乃の疑問に、篠原守がにっこり笑顔で答える。

「勿論、いろんな闇とか幽霊とかお化けとかいわれる、諸々をきっちりお祓いする料金のことです!御山はもともと、そーいった料金を頂いて成り立っておりますしね!ぼくは坊主ではありませんけど、うちが寺なもので、…一応、末寺として登録もしておりますから、御本山に逆らうわけにはいかないんですよー。勝手に料金決められなくて」

にこにこにっこり、言い切る篠原守に疑問で頭が一杯になる由樹乃だが。

 冷静に、その隣でしずかに藤沢紀志がフォローの発言をする。

「つまりは、いまからそちらの学園に出ている「闇」――まあ、幽霊といった方が通りが良いだろうが、――を「祓い」に行くのだが、その料金は決まっているのでこちらで勝手には動かせないとう話だな」

「―――…お、おはら、い…?」

お祓いって、ゆうれい、…?それって?とおもっている由樹乃に淡々と藤沢紀志がいう。

「無料で祓っていてはきりがないからな、…。どうやら、費用面では学園と本多家の方に請求が可能なようだからな。最悪でも生徒会の費用でもってもらえる、と」

「…ひ、費用、―――。随分とそこは現実的なのね?でも、…その、つまりそれって?」

「何が疑問だ?」

真顔で淡々と問い返してくれる藤沢紀志に、由樹乃が向き合う。

「つまり、…それってつまり、…―――い、いるって、こと?」

「何が?」

不思議そうにみる藤沢紀志に。

「…――いえ、だから、その、…―――」

何とか、一拍をおいて本多由樹乃は声にしていた。

「…ゆ、ゆうれい、とかいうのが、…―――学園に、…い、るの?」

ためらって、ようやくくちにした本多由樹乃に。

 不思議そうに首をかしげて、藤沢紀志がいう。

「そういう話だが」

「えっと、あの?その、…?」

あまりに当然に、そう問い返されてしまうと。

 つまりは。

「…えっと、でも、あの?ゆうれい、…?」

固まっている由樹乃に、ほがらかな声が聞こえる。

 微笑んで由樹乃をみるのは。

「あら、由樹乃さん」

「…う、うん、百合香?」

にっこりと笑顔でいうのは御園百合香だ。

 その言葉をきいて、由樹乃は内心、大きな声で叫んでいた。


 ―――ふ、普通枠って。…――――――!!!


 いや、勝手に思っていたのは由樹乃だけだけれど。

 普通枠と思っていた友人、御園百合香の言葉に、内心由樹乃は涙にくれていたのである。

 ―――百合香、…―――――!

普通枠だとおもっていた友人、御園百合香。

しかし、現実は過酷だった。



あっさり、普通枠(過去)の友人がいうのを。

ききたくなかった、と内心涙にくれながら、本多由樹乃はおもっていたのである。


 ――普通、が。…――。


 わかってたけど、なにか本当に遠くなっていく、…。


 そんな由樹乃に内心はともあれ。

 にこやかに普通枠だと思っていた友人、御園百合香がいうのを由樹乃は聞いていたのである。

「学園裏に塚があるのは御存知でしょう?」

と。








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