第7話『“婚約者”のお披露目任務!?でも敵国王子が「俺と駆け落ちしよう」って言い出して、皇帝陛下が魔王化しました』
「ええと……なんで、こうなってますか?」
私は困っていた。
理由はシンプル。
今、私の目の前で――
敵国・ゼルトラーナ王国の王子が跪いて告白しているからだ。
「リリー姫。あなたほどの魔力と才色兼備な方が、あの冷血皇帝の元にいては勿体ない。どうか、私と駆け落ちを――」
「却下だ」
後方から響いた、低く、凍てつくような声。
「その口を閉じろ、ゼルトラーナの馬鹿王子」
――カイゼルだった。
今朝、私は“婚約者”としての初任務で、隣国との親交の儀に臨んでいた。
それだけならよかった。儀式も無事だったし。
問題は、このナルシスト王子・オルぜ=ゼルトラーナが、突然暴走し始めたこと。
「あなたの瞳は宝石。肌は月光のよう。私の隣にふさわしいのは、あなただけだ」
「いやいやいやいや! ちょっと待って!? 陛下がいますから!!」
「まだ幼いあなたは洗脳されている。私が正気に戻して差し上げる!」
「うるさい黙れ」
ボォンッ!
地面が、爆ぜた。
焦げた石畳と共に、カイゼルの魔力が一帯を支配する。
その顔は――笑っていない。
冷酷な皇帝の仮面もはがれ、そこにあるのはただの独占欲と怒りだった。
「リリー。後ろに下がってろ。俺が片付ける」
「こ、殺さないで! 一応、隣国の王子だから!」
「なら、国ごと焼き払えばいいだけだ」
「だめぇぇぇぇぇぇ!!?」
◆ ◆ ◆
結局、ゼルトラーナの馬鹿王子は、自国の使者たちに半泣きで担がれて退場した。
そして私は――
「……あのね、カイゼル。あれは外交的な挨拶みたいなもので……」
「……キスされなくてよかった」
「へ?」
「もし奴がお前の唇に指一本でも触れていたら、俺は、
今ごろお前をこのまま連れ帰って、二度と外に出さないようにしていた」
その赤い瞳は、冗談の色など一滴も含んでいなかった。
「お前は、俺の妃だ。俺のものだ。……それ以外の接触は、許さない」
「……うん、あの……はい……っ」
どこまでも真っ直ぐで、どこまでも狂おしいほど真剣で――
逃げられるわけがない。
きっと、私の未来は、この人と共にある。
だから私は、ただその胸に頷いた。




