39戦目 混戦
状況は混沌としてきた。多くのプレイヤーが入り乱れ、スキルが飛び交う。
「にゃっ!」
「……!」
そんな中、リンクスとブレイズが向かっていく。左右からブライアを挟むようにして攻撃する。一方俺はティアーに耳打ちをしていた。
「ふっ!」
しかしブライアは焦ることもなく、鞭を操って、二人に同時に攻撃してみせた。二人は反射的に防御を選んだので、突撃しながら守るという中途半端なことになってしまった。その隙を見逃さず鞭で打ち据える。
「わっとっとっ……! 全然近づけないんだけど!?」
「……隙がない」
ダメージを受けた二人が一旦後退してくる。その表情には焦りが見られる。
「ブライアは物凄く器用だからな……。特にスキルを使わなくても、鞭の扱いだけで充分厄介なんだ」
「なら……お姉ちゃん!」
リンクスが呼び掛ける。それに対してティアーは連射で答える。無数の水の弾丸がブライアに襲いかかる。
「甘いわね」
しかしブライアは、自分がくるくると回りながら鞭を周りに纏わせる。ぐるぐる巻きになったかのような動きで、弾丸はあっさり鞭の壁に防がれた。そして鞭をほどくと、流れるような動きで攻撃に転じる。
「『荊の刑』!」
物理的に不可能な鞭の動きを再現するスキルが発動する。狙いはティアーだった。曲がりくねりながらティアーの元へと到達する。
「ひぃぃ!?」
慌てて弾丸を連射して軌道を逸らそうとするティアー。しかし鞭自体が弾丸を避けて迫りくる。
「させない!」
「……もちろん」
鞭を止めようとリンクスとティアーがそれぞれ武器を叩きつける。だが勢いが止まらない。思わずティアーは頭をかばってしゃがみこむ。
その瞬間を狙って俺は動いた。
「はっ! ……がはっ」
俺が盾になるように動いたことで、鞭の鋭い先端が腹に直撃した。ドスッという鈍い音と共に、俺の腹に穴が空く。
「ゴースト!?」
「……!?」
慌てて皆が駆け寄ってくる。心配そうな表情で俺を見つめていた。だが何の問題もない。
「『万死一生』」
鞭を掴んで抜きながら、回復スキルを発動させた。みるみるうちに穴が塞がっていく。それを見たブライアは苦虫を噛み潰した顔をしていた。俺はそれを見てニヤリと笑う。
「わざと食らったわね……!」
「これでかなりの『死』が補充できたな」
今のは一歩間違えれば即死になりかねないダメージだった。だがこれで大幅にダメージを溜めることができた。
「さて、今度こそ決着をつけようか……!?」
俺が踏み出そうとしたその時だった。横から何か大きな影が飛び込んでくるのが、視界に入った。咄嗟に腕を上げて防ごうとする。
「レグルス先輩……」
「すまん……! どうしても体の自由が効かなくて……」
殴りかかってきたのはレグルス先輩だった。一応防ぐことはできるが、面倒だな。見ると、向こうではグリズリー達が倒れている。どうやら向こうは押さえ込むのに失敗したようだった。死んではないようだが、虫の息だろう。レグルス先輩を弾き飛ばすと、パラディン先輩もこちらにやってきた。
「ブライア……相変わらず卑怯な手を使うなぁ」
「使えるものは何でも使わないとね。それに、好きでこんな能力を手に入れた訳じゃないわ」
一瞬だが、ブライアの声には苦味が混じっていたようだった。まぁ気持ちはわかる。俺もこんな不吉な能力を望んで手に入れた訳じゃないし。
「目には目を……チームプレーにはチームプレーで対抗しないとね」
「実質はお前一人だろうけどな」
体の自由を奪われている二人の先輩が、ブライアの左右を守るようにして固める。戦力的に少々きついな。
「さあ……そろそろ終わりにしましょうか!」
ブライアが鞭を一鳴らしすると、先輩達が動き出した。それぞれ一気に突撃してくる。
「どうしよゴースト!?」
「なんとかして先輩達を押さえてくれ! 勝てなくてもいいから、時間を稼ぐ感じで!」
本体であるブライアさえ倒せば二人の支配は解ける。だから足止めしてもらってる間に、俺がなんとか仕留めよう。だが、うちのメンバーでは先輩達を長くは押さえておけないだろう。
ブライアの狙いはわかってる。先輩達の手でリンクス達を始末させて、後は残った俺を三対一で仕留めるつもりだろう。つまり俺に対して守りに徹して時間を稼ぐつもりだ。
「ふっ、このっ!」
その証拠に振るわれる鞭には殺気が感じられない。牽制やフェイントで、俺を近づかせないようにしているようにしか見えない。
「きゃああ!?」
「……くっ!」
後ろを向く余裕はないが、背後からリンクス達の悲鳴が聞こえてくる。それがまた焦りを増幅させる。俺は必死に頭を回転させる。
何か……何か手は無いか……この状況を打破する方法は……。
「…………!!」
その瞬間、ビビッときた。手はある。停滞した状況を打破する一か八かの方法が。だが、この方法を使うと有利に転ぶか不利に転ぶかいまいち読めない。こんな方法を使うのは気が進まないが……やらなければこのまま敗北に向かって一直線だ。
「仕方ない……覚悟決めるか」
「何か言った?」
「ああ、お前をぶっ倒すって言ったんだよ!」
俺は少しだけ距離を取りつつ、ブライアに手を向けた。
「『亡者の行進』!」
「えっ!?」
ブライアは驚愕していた。俺が使ったのが死者を復活させるスキルだったからだ。当然効果は知っているはず。だがどうしてそれを自分に向けて使ったのか、意味がわからないのだろう。だが混乱はほんの一秒ほどだった。ブライアは慌てて回避を選択する。そして笑ってみせた。
「脅かさないでよ……意表を突こうと思ったんでしょうけど、失敗ね。そんな簡単に隙なんかできないわよ」
「失敗? いいや、きちんと成功しているさ」
「何を言って……」
そこで言葉は途切れた。急に辺りが暗くなったからだ。ブライアはふと上を見上げた。
「ギャオオオオオオ!!」
そこに居たのは、俺達を見下ろす体が燃え盛っている怪鳥だった。
「フェニックス……!? どうして、再出現するには早すぎるでしょう!?」
そう、通常ボスは倒されても一定の時間が経てば同じ場所に再出現する。だが、フェニックスが倒されたのはついさっき。いくらなんでもそんなに早く現れる訳がなかった。そこでブライアはハッと何か気づいた顔をする。
「あんた、まさか……ボスをスキルで復活させたの!?」
ブライアの推測通り、さっきのスキルの狙いはこれだった。たまたま目に入ったフェニックスの死体。それを見て思い付いた作戦だった。俺達とブライアが争っている中に、第三勢力を呼び込んだのだ。
「何考えてるのよ……。状況が滅茶苦茶だわ……」
「流石のお前も俺とボスを同時に相手にするのは、キャパオーバーだろう?」
先ほど言われた言葉に対して、似たような言葉を返してやった。意趣返しも兼ねてな。
「ならもう一度操ってしまえば……!」
「させるか!」
再度スキルで操ろうとしたところに、攻撃を仕掛けて中断させる。ブライアは慌ててスキルを止めて防御した。
「わかってるの……? フェニックスはあたしを攻撃するとは限らないのよ?」
「だから一か八かの策なんだよ……!」
もう一度追撃を繰り出そうとする。だが、そこに急降下してきたフェニックスが突撃を仕掛けてきた。俺とブライアはそれぞれ背後に跳び回避する。
「これでお前も少しは余裕が無くなるだろ!」
フェニックスが通り過ぎる瞬間に合わせて、もう一度突撃する。ブライアは防御姿勢を取る。
「こうなったら、二人を呼び戻して……!」
「先輩方は俺の仲間が抑えている。いつまで持つかな?」
「くっ……ゴーストォォォ!?」
この戦いの中で初めてブライアの余裕の無くなった声を聞いた。これは相当焦ってるな。
組み合っている間に今度はフェニックスが炎を吐き出す。俺は力を緩めて、組み合っていたブライアの腕を逆に引っ張った。バランスを崩したところに炎が迫る。
「ちょっ!?」
俺が回避すると、ブライアが炎に包まれそうになる。だが、ギリギリのところでブライアは空中に飛び上がった。
「チャンス!」
「しまっ!?」
俺は空中で身動き取れなくなっているブライアに手を向けた。
「『最悪の終わり』!」
しかしブライアは空中で身を捩り、ギリギリで回避した。勝ち誇った様に笑う。
「ふ……ふふふ……! これであたしの勝ちね!」
「いいや、お前は終わりだよ」
「えっ? ……がっ!?」
一瞬呆けたような顔をしたブライアは、その後飛んできた水の弾丸によって額を撃ち抜かれた。そのまま仰け反り、仰向けで落ちてくる。
「ナイス狙撃だ、ティアー」
振り返りながら親指を立ててみせた。ティアーも控えめに親指を立て返してくる。そしてほのかに笑顔を浮かべていた。
そう、実はティアーにはさりげなく指示を出していた。『ブライアが空中に飛び上がったら狙い撃て』と。
「ギャオオオ!」
「おっと、そういえばいたな」
思い出したようにフェニックスが襲ってくる。それを軽くかわして、攻撃を加えていく。さほど時間はかからずに仕留めることができた。
「いや~大したもんだね」
「すまんな、手間をかけて」
先輩達が寄ってきていた。どうやら支配の効果時間が切れたらしい。それに伴いリンクス達も集まってくる。
「やったね、ゴースト!」
「わふっ! ちょ、ちょっと!?」
感極まったようで、リンクスが俺に真正面から飛び付いてきた。引き剥がそうと思えば引き剥がせるが、力ずくでやるのはあんまり気が進まない。
「……ぐっじょぶ」
「あ、ありがと……」
ブレイズは無表情ながら、ティアーを褒め称えていた。それを恐縮しながら受け取っている。
「さて、これからどうする?」
「とりあえず俺のスキルでみんなを復活させて……試合を見に戻りましょうか。もう終わってるかもしれないけど」
全くとんだ手間をかけさせてくれたもんだ。恨みを込めて倒れているブライアに目をやる。しかしそこには姿が無かった。慌てて周りを見回すと、少し離れた位置でブライアは立ち上がっていた。
「ブライア……!」
「はぁ……はぁ……まだよ……! まだあたしは負けてないわ……!」
ダメージのせいでフラフラになっているが、その目には強い光が宿っていた。
「しぶとい奴だな……」
「災害衆のプライドにかけて、そんな簡単に負けを認める訳にはいかないのよ……!」
言ってることはわからなくもない。ブライアは俺達の中でも一番プライドが高かったからな。負けを認めるってのは屈辱だろう。
だからといって好きにさせるつもりはない。今度こそとどめを刺してやろうと踏み出した、その瞬間だった。俺とブライアのちょうど中間辺りに何かが勢いよく落ちてきた。見るとそれは、水色に透き通った剣だった。
「そこまでだよ」




