40戦目 生徒会長
予定より一日遅れました。申し訳ありません……!
声が聞こえたと同時に誰かが現れた。俺はそちらを振り向く。
そこに立っていたのは、一人の女性だった。水色の長い髪を風に流し、軽装の鎧を身に纏っている。凛とした表情は気が強そうに見える。それを見たレグルス先輩が呟いた。
「生徒会長……」
驚きでもう一度じっくり見る。そう言われれば威厳があるように見えなくもない。そう思っていると、彼女がブライアに向けて話し出した。
「全く……やってくれたね」
「あなたは……」
「私は生徒会長だよ」
「これはこれは……あたしに何かご用ですか?」
少しだけ調子を取り戻したブライアが、会長に問いかける。会長は厳しい表情を崩そうとしなかった。
「わかってるんだろう? こんな騒ぎを起こして……大問題になるよ、これは」
言われてみれば確かにそうだ。前にリンクスからも聞いたが、サーバー内で起こっている出来事はほとんどが監視されているはず。こんな揉め事を起こしたとなればただでは済まない。
「事情聴取の為に一緒に来てもらおうか」
「お断りします」
間髪入れずにブライアは断りを入れた。その返答に俺達全員は少なからず驚く。
「これだけのことを起こしておいて、素直に帰れると?」
「何のことかわかりませんね。あたしはただ、ボスと戦ってただけですよ? それをこの人達が襲ってきただけです」
「そんな……! 観客を襲撃するって、言ってたじゃない!」
リンクスが思わず叫ぶが、ブライアは涼しい顔だ。
「証拠は?」
「えっ?」
「あたしが観客を襲撃しようとした証拠はあるの?」
「それは……」
確かに物的証拠は何もない。監視されていると言っても会話まで録音されている訳じゃないし、記録映像だけ見れば、俺達とブライアが戦ったようにしか見えないだろう。会長もそれがわかってるのか渋い顔だ。
「あたしとしてもいきなり攻撃されて、応戦しただけです。困ってたんですよ」
いけしゃあしゃあとそんな事を言ってのける。流石、元作戦参謀。口がうまいったら無いな。
「さて、あたしも戦って少々疲れました。残念ですが今日のところは帰らせて頂きましょうか」
「逃げる気か……」
「あら、人聞きの悪いこと言わないでゴースト。あたしはただ家に帰るだけよ」
さっきまで戦闘続行する気満々だったのに、分が悪くなったと見るや、あっさり撤退しようとしている。この切り替えの早さは見習うべきだな。
「という訳でよろしいでしょうか、会長さん?」
「………………わかった。帰ってもらって構わない」
少し言い淀んだ後、会長さんは絞り出すような声でそう告げた。これ以上、引き留める材料が無いことを理解したのだろう。俺達も黙って見送るしかなかった。ここで無理やり攻撃を続けてもいいのだが、それだと逆に俺の立場が悪くなる恐れがある。
「じゃあ皆さん、さようなら。あと、ゴースト」
「なんだ?」
「久しぶりに楽しかったわ。また遊びましょうね」
「はっ、次は仕留めるから覚悟しとけ」
ブライアは何も答えずに、一礼すると悠々と歩いて行った。非戦闘区域まで戻ってから、現実世界に戻るつもりなんだろう。俺達は全員無言のまま、去っていく後ろ姿を見送っていた。
「……さて」
ブライアの姿が見えなくなったところで、会長さんがこちらに向き直った。
「一年生もいるみたいだから、一応名乗っておくね。私は【グレイシャー】。三年生で生徒会長だ」
向き直った会長は地面に刺さっていた剣を引き抜くと、腰の鞘に納めた。
「今日はエキシビションマッチということで、我々生徒会メンバーは巡回して回ってたんだけど……こんなことになっていてびっくりしたよ」
「すまんな」
レグルス先輩が前に出る。同じ三年生だけあって知り合いなのだろう。
「レグルス……パラディン……君たちがいてこんな騒ぎを起こすなんて……」
「返す言葉もない」
「ごめんごめんってー」
そして倒れていた他の人達もこちらに集まってきた。
「グレイシャーさん……」
「カメリア……君も何をやってるのかな」
「すみません……」
「とにかく! この件に関しては後ほど事情聴取を行うから」
俺達はエキシビションマッチの会場へと戻ることになった。ぞろぞろと戻った時には既に、閉会式が行われているところだった。
▼
「いやー、緊張するね」
「ああ……」
「こ、怖いね……」
「……落ち着いて」
エキシビションマッチの次の日、俺達平和の園は放課後生徒会長に呼び出されていた。四人並んで廊下を歩き、生徒会室へと向かう。
「えーっと、ここだね」
投網がノックすると、中から返事が返ってくる。一言断りを入れてから入室していく。
「失礼しまーす……お?」
中は大きな会議室のようなつくりだった。長机とパイプ椅子がいくつも並んでいる。そこには大勢揃っていた。まず外濠先輩、祇園先輩、天ノ川先輩の三年生組。続けて畑江、赤司、それに中川。そして俺達平和の園と、今回の騒動に関わったメンバー勢揃いだった。
「さて、座ってくれ」
そして俺達と向かい合うように、一番奥の机には四人が座っていた。四人とも初めて見る人だが、今喋った真ん中の人物がおそらく生徒会長だろう。アバターと同じく、長く伸ばした髪を無造作に流している。
「とりあえずこれで全員揃ったね。改めて名乗ろう。私は三年の生徒会長で、博田だ」
俺達が座ると同時に話し始めた。やはりこの人が会長だったか。
「さっそくだが、本題に入ろう。昨日のエキシビションマッチの話だ。いったい何があってあんなことになったのか、話してもらいたい」
それから事情説明が始まる。主に畑江と赤司が中心となって説明していく。ブライアを引き入れた理由、具体的なサポートの内容、そこから起こった戦いの顛末等々。一部俺や先輩達が口を挟みながら、説明していく。会長と横にいる人達は頷きながらも、黙ってそれを聞いていた。
「……なるほどね。そういうことだったのか」
一区切り着いたところで、会長が口を開く。すると、会長の隣に座っていた、眼鏡をかけた男子生徒が話し出した。
「会長!」
「何かな?」
「これは由々しき問題です! 学園の秩序を乱したことは、厳罰に値すると思われます! ここにいる全員に処分を……」
「まあ、待ちたまえ副会長」
段々ヒートアップしていた副会長なる人物に対し、会長は手のひらを向けて押し止める。
「話を聞いてみれば、彼らは騙されたようなものだ。言ってみれば被害者だよ」
「ですが……!」
「君の気持ちもわかる。簡単に許しては示しがつかないと言いたいんだろう?」
「その通りです! やはり厳罰を……」
「だから、待ちなって。私の個人的な見解では、軽い処分が妥当だと思う」
厳罰と聞いて俺達の中に緊迫した空気が漂っていたが、会長の一言でそれが少し緩んだ。
「という訳で、ローズガーデン及び百獣団には一週間奉仕活動に参加してもらうことにする。もちろん連帯責任だよ?」
「わかった」
「わかりました」
畑江と赤司はガックリと項垂れていた。なんだかんだ二人とも自分のところのギルドマスターを慕っていたし、迷惑をかけた事を申し訳なく思っているのだろう。そして会長の決定を聞いた副会長は不満そうな顔で、俺達を睨み付けていた。
「さて、処分については置いといて……霜屋君」
「はい?」
ひとまず安心……と思っていたら、俺に話が振られた。予想外だったので、変な声が出てしまった。
「君はあの災害衆の一員だったそうだね?」
「ええ、まあ……元、災害衆ですけど」
「その君に聞きたい。もし六花祭に災害衆のメンバーが出てきたとして……うちの学校は勝てると思うかね?」
会長は恐ろしく真剣な表情で俺を見ていた。周りの視線も俺に集中する。俺は少し考えた後、口を開いた。
「わからない……てっのが本音ですね」
「ほう、その意味は?」
「相手に災害衆がいたとして、一人なら俺が抑えるのは可能です」
実際のところ俺達六人の戦績はほぼ互角。一対一なら勝ったり負けたりを繰り返していたからな。
「だから抑えたとして、残りのメンバーがどれくらいの強さかにも寄りますね」
「ふむ……なるほど。ありがとう、参考になったよ」
どういう意図の質問だったのかはわからないが、満足してもらえたようだった。その後話は終わりということで、全員揃って退室することになった。
「おい」
全員が部屋を出たところで、俺の真後ろから声がした。反射的に振り向くと、畑江と赤司が渋い顔で立っていた。何か恨み言でも言うつもりかと身構える。が、次に出てきた言葉は予想外だった。
「すまなかった」
「申し訳ありませんでしたわ」
二人は揃って頭を下げてきた。あまりの事態に俺は目を丸くする。
「今回の件は俺達の責任だ。迷惑かけて悪かった」
「ああ、わかったが……急にどうした?」
「昨日、マスターとじっくり話したんだ。それで自分が間違ってたって気づいた」
「わたくしもですわ。嫉妬で目が眩むなんて……どうかしてましたわ」
後ろを見ると、外濠先輩と天ノ川先輩が頷いている。この二人をここまで説得するなんて……リーダーとして優れた人達なんだな、と感心してしまう。すると、先輩達も一歩前に出てきた。
「俺達からも謝る。許してやってくれないか」
「すみません」
先輩達にここまでしてもらって、俺がごねる訳にもいかないな。
「いいんですよ、そんな謝らなくて」
「霜屋……」
「元々俺は怒ってた訳じゃないし、悪いのはあの女ですから」
こんだけ騒ぎを起こしてくれやがったんだ。あの女は次会ったら叩き潰す。
「後は……みんな、どう思う?」
振り返って問いかけると、仲間達は笑顔で返してくれた。
「うん、真偽君がいいなら、私からは何も言うことないよ」
「……問題ない」
「こ、怖かったけど……大丈夫かな」
「だ、そうです。だから謝罪を受け入れます」
俺は両手を差し出した。頭を下げたままだった畑江と赤司はそれを見て、しっかりと握手を返してくる。
「次は自分の力で、正々堂々勝ってみせるぜ」
「わたくしも負けませんから」
「ああ、楽しみにしてるよ」
▼
「ふー、疲れたね」
「……落ち着く」
俺達は部室へと戻ってきていた。それぞれ定位置に座り、リラックスする。
「今回は大変だったな。まったく、草笛の奴……」
「あ、ところで真偽君!」
「ど、どうした?」
急に投網が大声を上げた。ついビクッとしてしまう。
「あのさ、そのー……」
「ん?」
いつも快活な投網にしては歯切れが悪かった。どうしたんだろう?
「もしかしてなんだけどー……」
「おう」
「その、草笛さん、って……真偽君の彼女だったりするの?」
「はぁ!?」
投網は上目遣いで、恐る恐ると言った感じに質問してきた。俺とあいつが恋人同士? ……考えもしない可能性だ。
「ないない。絶対ないから!」
「でも、めっちゃ仲良さそうだったからさ……」
「あくまで元仲間ってだけだ。そんな可能性は全くない。少なくとも俺は異性として好きじゃない」
草笛はかなりのサディストだからな。俺とは性格が合わない。
「そっか、良かったー……」
「良かった?」
「あ、いや、なんでもないよ!?」
「おう……ならいいけど」
この慌てよう……まさか? ……いや、決めつけるのは良くないな。
「……あ」
「どしたの、一縷ちゃん?」
「……サインもらうの忘れてた」
ガックリと肩を落とす一縷。そんなに欲しかったのか……。
「まぁ、今度俺がボコボコにしてから、その上でサインもらおう。な?」
「……わかりました」
俺のフォローとも言えないフォローに、コクリと頷く。
「よし、じゃあ切り替えて……今日も張り切って練習いきますか!」
投網の号令を受けて、俺達は仮想世界へと飛び込んでいった。
これにて二章は完結です。ここまでお読み頂きありがとうございました。
さて、今後の予定ですが、この作品は完結として休止させて頂きます。理由としましては、作品の反響がいまいちだったから、そして三章以降の展開を練る時間が欲しいからです。
次に何を書こうか色々考えていますが、具体的な形にはなっていません。再開については未定です。
どうなるかはわかりませんが、またお会いできたら幸いです。もう一度、本当にありがとうございました。




