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VRゲームで歩む最強への道  作者: 仮面色
2章 校内ギルド
38/40

38戦目 『死亡者』VS『支配者』

「みんな! 回復は俺に任せて、突っ込んで……」



 俺はすぐに動き出した。攻撃役は充分に揃っている。ここは俺がサポートに回るべきだと判断したからだ。だが、最後まで叫ぶことはできなかった。 目の前に影が差す。



「あんたはあたしが相手してあげる。一緒に楽しく遊びましょう?」

「はっ、楽しむ暇なんて与えるつもりは無いけどなぁ……!」



 反射的に両腕をクロスさせて防御姿勢を取った。その瞬間にはブライアがそこにいた。そのまま拮抗しつつ、横に飛ぶ。このまま皆を巻き添えにする訳にはいかない。傲慢な言い方だが、俺達の戦いについてこれるかは疑問だからな。


 俺は後ろに軽く跳んで距離を取りつつ両腕の腕輪を外し、メリケンサックのように構えた。本気を出す時の構えだ。


 ぐずぐずはしてられない。向こうの戦いが心配だから、早めにこいつを片付けて加勢にいきたいところだ。



「そういえば一対一は久しぶりね」

「正直、気が進まないけどな!」



 会話の最中にも鞭が振るわれる。俺は両手の腕輪でそれを弾きながら接近を試みる。だが、向こうもそれは承知している。鞭が届く一定の距離を保ちながら攻撃を加えてくる。



「お見通しって訳か!」

「当たり前でしょう。仲間だったんだから、手の内は知り尽くしているわ」



 ブライアの言う通りだった。長いこと仲間として活動していた訳だし、互いのスキルも戦闘スタイルも戦いの癖なんかも知り尽くしている。だが、それでもやりようはある。



「『死者の都(インスタント・ヘル)』!」



 いい感じに細かいダメージを受け続けたところで、俺はスキルを発動させた。足元からドロドロした黒い液体が流れ出し、周囲に広がっていく。そして俺を中心に円を描くように地面が黒く塗り潰された。



「やっぱりそう来たわね……」



 一瞬ブライアの顔が歪んだ。このスキルは簡単に言えば範囲攻撃のスキルだ。この黒い地面に触れるだけで相手はダメージを負うようになる。しかも地面に固定されている訳ではなく、俺が動くと黒い円もついてくる。常に俺が中心になるようにできているのだ。


 昔の経験から知っている。このスキルの範囲と、ブライアの鞭が届く範囲はギリギリ同じくらいだ。つまりブライアだけ安全圏から攻撃することはできない。向こうもダメージを負うリスクを負ってもらう。



「これで条件は互角だな」

「いいえ、まだよ。……『女王親衛隊(クイーンズガード)』!」

「何っ!?」



 向こうもスキルを発動させた。あれは確かステータスを支配するスキル、一時的にステータスを上昇させるスキルだったはずだ。それを自身に使うのではなく、向こうで戦っているボスモンスターに発動させた。



「忘れてるんじゃない? 今は一対一だけど、戦力は他にもいるのよ?」

「そういうことか……」

「ええ。向こうの雑魚を片付けてしまえば、あたしのペットが加勢に来る。あたしの相手をしつつ、ボスの相手をするのは流石にキャパオーバーでしょ」



 確かに言う通りだった。俺とブライアの実力はほぼ互角。それなのに加勢に来られてしまっては、確実に俺が押し負ける。だが……。



「それはちょっと楽観的なんじゃないか?」

「なんですって?」

「うちの高校の先輩方を甘く見すぎだってことさ」

「あたしには取るに足らない雑魚に見えるけど?」

「それはどうかな……!」



 俺は攻撃を再開した。一気に距離を詰めていく。ブライアは小刻みに歩幅を調整して、鞭を振りながら死の領域を回避していく。だが、それも長くは続かない。向こうにとってもギリギリの綱渡りだ。完璧に上手くいく訳じゃない。ところどころで踏み込み、ダメージを受けていた。



「どうした、大きな口を叩いた割には傷が増えてるぞ?」

「お互い様でしょ。あんたこそ、鞭を受けきれてないわよ?」



 少しでも有利に立ちたいところだが、こいつのメンタルはかなり強い。簡単に言い返されてしまう。精神的なアドバンテージを取るのは無理そうだな。


 正直スピードにも大した差はないので、距離はなかなか詰められない。動きづらそうな着物を着てるのに、よくあんな動きができるものだ。このまま均衡状態が続きそうだと、一瞬気を抜いてしまった。



「『荊の刑(スネーキー・グリーン)』!」



 ブライアはその瞬間を見計らったように狙ってきた。スキルにより、鞭がブライアの意思通りに動く。物理的には不可能な動きだ。鞭の先端、鋭いトゲのある部分が俺の防御を掻い潜り、脇腹にクリーンヒットした。



「がっ!?」



 ブライアがニヤリと笑った。だが俺は直感する。仕留めた、と思った瞬間が一番危ないのだと。ダメージに顔をしかめつつ、鞭を掴んだ。



「っ!?」



 ブライアが動揺する。その瞬間を見逃さずに鞭を掴んだのと逆の手を向けた。



「『最悪の終わり(バッド・デッドエンド)』!」



 黒い光線が放射状にブライアへと迫る。鞭を掴んでいる以上下がったり、大きく左右に動くことはできないはず。


 だがブライアは戸惑いを見せなかった。敢えて前に出てきたのだ。スキルの光線をギリギリのところですれ違うように避けて見せた。



「つっ……」



 しかし代償が無かった訳じゃない。前に出る関係上、『死者の都』の範囲に踏み込んでしまっていた。おそらくだが、あの一瞬で、どちらがダメージが大きいかを計算して傷の少ない方を選んだのだろう。恐るべき頭の回転の速さだ。


 ブライアは手首を器用に動かして、俺に捕まれたままの鞭を体に巻き付けようとする。俺はそこから逃れるべく、慌てて鞭を手放した。



「器用な真似を……」

「まだまだこれからよ」



 一旦退避したところで仕切り直しとなる。俺は平静を装っているものの、内心焦りを感じていた。結果的に見れば、俺がブライアにより足止めを食らっているのと同じだ。早く向こうを助けに行きたいのに……!



「あんたのスキルは基本的に、ダメージを蓄積しないと使えないものばかり。なら牽制を交えつつ、一撃必殺を狙えば済むことよ」



 勝ち誇ったように笑うブライア。実際その言い分は割と正解だった。俺は、元となる『死』が無ければ十全な力を発揮できない。『死者の都』もそろそろ発動時間が切れそうだった。



「じり貧ね」

「お前こそ、しばらく離れている間に俺のやり方を忘れてしまったようだな」

「……?」



 ブライアは怪訝そうな顔をしている。そんなブライアに腕を向けた。そして()()スキルを使う。



「『万死一生デッド・アンド・アライブ』」



 ブライアの体からダメージが抜き出され、俺の元へと集まる。それを見たブライアは苦い顔をしていた。



「やってくれたわね……」

「『死』が足りないなら、あるところから補充すればいいだけだろ?」



 そう、俺のスキルは実は少々複雑だったりする。例えば、俺がダメージ100を回復させたとする。ならその後『最悪の終わり』を使ったとして、それがダメージ100の攻撃になるかと言うとそうではない。細かい数値は検証していないが、確実に100以上の攻撃になるのだ。これは経験によるものなので間違いない。なので、理論的にはダメージを与えて回復させてスキルを使うことを繰り返せば、相手を必ず倒すことができるのだ。



「回復してあげたんだから、感謝してもいいんだぞ?」

「それはそれは、ありがとうございます」



 皮肉のこもった口調で、大げさに礼をしてみせるブライアだった。一瞬の空白。その後バトルが再開する。



「うろちょろしないでよ!」

「お前が言うな!」



 戦闘は更に加速する。『死者の都』が切れた今、俺はなんとかして接近戦に切り替えようとする。せっかく手に入れたダメージは温存しておきたいからだ。


 それはブライアも似たような考えのようだった。先ほどみたいに無闇にダメージを与えるのではなく、一撃必殺を狙っている。その証拠に首や心臓など、俺の急所を目掛けて攻撃してくる。戦いは膠着状態に陥りつつあった。


 互いに一番の切り札となるスキルは使わない。おそらく向こうも、先に使った方が不利になると考えているのだろう。


 一方であちらの戦いも気になっていた。一瞬でもブライアから目を離すと危険なので視線を向けることはできないが、さっきから轟音が響いているのはわかっていた。



「あら、お友達が気になるの?」

「ちっ……」



 ブライアは揺さぶりをかけてきた。先ほどとは立場が逆だ。俺は特に答えなかったが舌打ちした。



「気になるんなら、向こうに行かせてあげましょうか?」

「よく言うよ。俺が動こうとしたら、その隙を突くつもりだろ」

「ふふっ……どうかしらね?」



 このままの状態では決着はつかない。かくなる上は奥の手でいこうと思った、その時だった。向こうで一際大きな音が響いた。それに対して俺は反射的にそちらを見てしまった。見るとボスモンスターが崩れ落ちていた。



「よかった……」



 どうやら俺の心配は杞憂だったらしい。皆がやってくれたようだった。だがそこで意識が切り替わる。


 しまった、ブライアから一秒以上目を離してしまった……!


 慌てて視線を戻すとブライアは駆け出そうとしているところだった。だがそれは俺の方に向けてではなく、仲間達の方だった。そこから奴の狙いを察する。



「まずい!」



 慌てて俺も走り出す。距離は俺の方が近いけど、先に走り出した分、ブライアの方が先に到達しそうだ。



「間に合え……!」



 ブライアはある程度の距離まで近づくと、ブレーキをかけながらその勢いに乗せて鞭を振るう。狙いはリンクスだ。まずいことに気がついていない。


 俺は必死に腕を伸ばして、なんとか鞭をつかみとる。鞭の先端がリンクスの顔面から数センチといったところで、ギリギリ止めることができた。



「惜しいわね……!」

「ナメるなよ……!」



 やはりこいつ、目的の為に手段を選ばないな。油断ならない。仕切り直そうとしたその時だった。レグルス先輩の声が聞こえた。



「みんな、かかれ!」

「よせ! 離れろ!」



 それはまずい。慌てて俺が止めようとする。が、一足遅かった。レグルス先輩とパラディン先輩は前に出ていた。



「『無差別徴兵令(タイラント・オーダー)』!」



 鞭を振り上げたブライアがスキルを発動させる。恐れていたことが起こってしまった。二人はスキルの餌食となり、操られる。



「ブライア、お前……!」

「駒が無くなったのなら、新しい駒を補充しないとね。そうでしょう?」



 ブライアはまだまだ余裕の態度を崩さない。ボスがやられた時のことも計算に入れていたに違いない。そして先ほどのように大きく移動することもなく、留まり続けていた。今度は仲間達を巻き込んで乱戦に持ち込むつもりか。



「人数的にはお前の方が不利だぞ?」

「考えを変えたわ。雑魚の始末はボスに任せようと思ってたけど、やられてしまってはね。なら今度はゴースト、あんたの足手まといを増やしてあげる」



 俺がみんなを守りながら戦うことで、隙を作ろうという作戦か。俺が反論するより早く、大きな声が聞こえてきた。



「そんなことない!」



 見るとリンクスが近くまで来ていた。その視線はブライアに向けて固定されている。



「……何が、そんなことないの?」

「皆で力を合わせれば、きっと貴方だって倒せるもの!」

「う、うん……私も頑張るから……」

「……負けない。あとサイン下さい」

「皆……」



 一部おかしな発言が混ざったが、みんな俺を助けようと考えているらしい。



「そういう訳だ、ブライア。皆で協力してお前を倒す」

「果たして戦力の足しになるかしらね?」

「すぐにわかるさ」

「そうね……なら見せてもらいましょうか。あ、サインは後でプレゼントするわ」



 律儀に答えたところで、再びブライアが向かってくる。

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