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VRゲームで歩む最強への道  作者: 仮面色
2章 校内ギルド
35/40

35戦目 緊急事態

 歓声が響き渡る。試合に集中していたのでほとんど気にしていなかったが、かなり盛り上がっているようだ。そんな観客に軽く手を振りながら、俺は傍らにいたブレイズに声をかけた。



「ブレイズ」

「……はい」

「やったな、ありがとう」

「……! 滅相もない、です」



 ブレイズは被っている山高帽のつばで顔を隠していた。照れているのだろうか。こんな反応は初めてみた。微笑ましい気分になるが、それより気になることがある。


 二人並んで入ってきた側の入場口から出ると、そこにはリンクスとティアーが待ち構えていた。



「二人とも、お疲れ様! すごかったよ!」

「が、頑張ったね……!」



 二人はニコニコと笑顔を浮かべて迎えてくれた。心から喜んでくれているようで、俺としても嬉しくなる。



「ありがとな。応援してくれてたんだろ?」

「うん!」

「……ありがとう」

「よ、良かったね……」



 このまま盛り上がっておきたいところだが、それは一旦後回しだ。



「悪い、ちょっと離れる」

「どうしたの?」

「ああ、ちょっとな」



 とりあえずお茶を濁してその場を離れようとした。しかし、みんなに背を向けたところで、何かに腕を捕まれた。驚いて振り返ると、リンクスが真剣な表情でこっちを見ていた。



「リンクス……?」

「ダメだよ」

「えっ?」

「また一人で何か抱え込んでるんでしょ?」

「い、いや大したことじゃない。俺の気のせいかもしれないし……」

「だったら、私たちも連れてってよ」

「でも……」

「仲間でしょ」

「…………」



 見るとリンクスだけじゃない、ティアーは不安そうな顔で、ブレイズはいつもの無表情でこちらを見つめていた。それを見て思い直す。


 そうだな、どうも癖が抜けきれていないようだ。せっかく仲間がまたできたというのに、頼ると言う考えが浮かばなかった。



「無駄足になるかもしれないぞ」

「いいよ。その時はその時で、みんなで笑い合おうよ」

「……わかった。じゃあみんな、着いてきてくれ」



 俺は三人を連れて、歩き出す。目的地は会場反対側の入場口だ。


 たどり着くと、そこには案の定グリズリーとエレガンスがいた。それぞれギルドマスター……レグルスとカメリアと話をしているようだった。落ち込んでいる様子だったが、グリズリーとふと目が合った。



「ゴースト……てめええええ!!」



 今にも殴りかかって来そうだった。そんなグリズリーの肩をレグルスが掴んで止めた。



「ボス……!」

「やめろ、グリズリー。試合は終わったんだ」

「この俺が二度もこんな雑魚に負けるなんて、おかしいですよ!」

「いいから認めろ、次こそは勝てばいいんだ」

「畜生……!」



 ギリギリと歯を食い縛る音が聞こえてくるかのようだ。俺を睨み付けているものの、一応自制はできているっぽい。エレガンスも恨みがましい目で俺を見ているが、特に何かを言うつもりは無いらしい。なら今がチャンスか。



「おいグリズリー、聞きたいことがある」

「ああん? てめえなんかに教えることは……」



 憎まれ口を叩いてくるのを強引に打ち切って、話を続けた。



「さっきの試合……お前やけに強くなってたが、あれはお前の実力なのか?」

「……どういう意味だ」

「誰かの助けがあったんじゃないのか?」

「!」



 俺が問いかけると、グリズリーは目を見開いて大げさなくらい反応していた。そして近くにいたエレガンスが割り込んでくる。



「違いますわ! 助けなんかありません!」

「じゃあこんな短期間でレベルが上がったと?」

「そうですわ!」



 俺の問いかけに疑念を持ったようだ。レグルスとカメリアも話に入ってきた。



「おい、どういうことだゴースト」

「私も気になりますね。どういうことですか?」



 二人の反応……思い当たることがある。まさかと思うが、あいつの仕業かもしれない。そう思ったらぐずぐずしてられない。



「頼む。正直に教えてくれ」

「ゴースト……」



 俺はきっちり腕を揃えて頭を下げた。顔は見えないが、みんな戸惑っている雰囲気はなんとなく伝わってくる。なりふりかまってはいられない。別に頭を下げることに抵抗はないし、それで話が聞き出せるなら安いものだ。


 そのまま数秒が経ち、グリズリーがポツリと口を開いた。



「……頼まれたんだよ」

「頼まれた?」

「そうだよ。この前、いきなり知らない女が話しかけてきたんだ。ゴーストに復讐したくないかってな」

「俺に?」

「ああ、最初は怪しいと思ったんだが……なんだか聞いてるうちにその気になってきて……いつの間にか乗り気になってたんだ」

「わたくしも同じですわ。知らない女性が話しかけてきて、その話に乗って……グリズリーと協力することにしたんですの」



 ゆっくり顔を上げると、二人はばつが悪そうな顔で、視線を下げていた。少しは説得が効いたか。



「具体的には?」

「その女がスキルで一時的に強化するって言ったんだ。それを使えば互角に戦えるだろうって」

「ええ。だから試合前にスキルで強化してもらったんですの」



 強化系のスキルを使える……それだけなら他にもたくさんいる。だが俺の頭に思い浮かぶのは一人しかいない。というか、その女の影がちらついて仕方なかった。そんな中、ギルドマスター達が話し出す。



「グリズリー……どうして俺に相談してくれなかったんだ」

「それは……」

「俺はそんなに頼りなかったか?」

「いえ! マスターが頼りないなんてことはないっす!」

「なら、そんな人の力に頼らず、自力でやるべきだったんだ」

「……うす」

「特訓なら俺も付き合う。だから今度こそ自力で勝てるように頑張ろうや」

「すんませんでした……」



 グリズリーが大人しく頭を下げる。レグルスはその肩を叩いていた。一方、カメリア先輩も話をしている。と、いつの間にかメイドもいた。



「エレガンスさん……」

「お嬢様……」

「ええ、反省してますわ……でもあの時はつい、その気になってしまったんですの……」

「私の監督不行き届きでもあります。困ってるなら相談に乗りますから」

「ありがとうございますわ。……メイドにも心配かけましたわね」

「いいえ、頭をお上げください。お嬢様はいつでも自信満々で、どこか抜けてるくらいがちょうどよろしいかと」

「それ、フォローになってませんわよね?」

「はい」

「まったくもう……ふふっ」



 周囲には和やかなムードが流れている。が、俺としてはこの雰囲気を壊さないといけない。追及しないといけない事があるからだ。



「それで? その女は代わりに何を要求してきたんだ!?」



 事態は知らない間に動いているのかもしれない。状況を一刻も早く把握しないと……!


 俺の問いかけに対して、グリズリーとエレガンスは困惑した様子で顔を見合わせていた。



「いや、大したことじゃなかったな。拍子抜けしたくらいだ」

「ええ、この学校サーバーのボスモンスターについて教えて欲しいって……こっそり見学に行こうと思ってるからと言ってましたわ」

「な、なんだと……!」



 血の気が引いた。このやり口は間違いない、あの女だ。何のためなのか、目的はわからない。だが何をしようとしてるのかは見当がつく。そうと決まったらこうしちゃいられない。



「急がないと!」

「ちょ、ちょっと待ってよ、ゴースト! どういうことなの!?」

「説明してる時間はない! 今はとにかくボスモンスター……フェニックスの確認に行かないと!」



 俺は走り出そうとした。しかし、そこで再度呼び止められる。



「待てよ、ゴースト」

「レグルス先輩……?」

「事情はよくわからないが、なんかヤバいんだろ? 元はと言えばグリズリー……うちのギルドメンバーの責任でもある。ならマスターの俺が責任を取らないとな」

「そうですね。私も同感です」

「カメリア先輩まで……」

「私も責任を取らせてもらいます」



 二人のギルドマスターは自信満々に前に出てきた。どうやら協力してくれるつもりらしい。



「……それに、ゴースト君にはこの前のお礼もありますからね」



 カメリア先輩はこの前のことを恩義に感じているようだった。それは逆に申し訳ないが。



「おーい、どうした?」



 シリアスな空気が漂う中、能天気と言ってもいいような声が聞こえてきた。声でわかったが一応確認すると、そこにいたのはやはりパラディン先輩だった。ふらふらとこっちに歩いてくる。



「ちょうどいい、パラディンお前も付き合え」

「そうですね、都合がいいです」

「え? え? なになに?」



 レグルス先輩がガシッと肩に腕を回し、カメリア先輩が腕を引っ張り始めた。戸惑いながらされるがままについてくる。それを見ながら俺は仲間達に声をかけた。



「えっと皆は……」

「当然、ついてくよ!」

「……お任せ下さい」

「こ、怖いけど……」



 どうやらついてくる気のようだった。止めようとしてもおそらく無駄だろうな。



「仕方ない……みんなで行くか」







 俺達はフェニックスのいる安楽山まで走りながら話をしていた。不甲斐ないが、俺はスピード遅いのでどちらかと言えば集団の後ろの方だったりする。


 俺達『平和の園』だけじゃない。レグルス先輩にグリズリー、カメリア先輩にエレガンスとメイド、そしておまけでパラディン先輩と、しめて十人の大所帯だった。そんな中、リンクスが声を張り上げて話しかけてくる。



「それで、ゴースト! 何がまずいの!?」

「敵の狙いはおそらくボスモンスターだ! もちろん見学なんかじゃない、ボスモンスターそのものを狙う気だ!」



 おそらく計画の内だろう。今日に限ってエキシビションマッチが行われる為、一般のプレイヤー達も見学に参加することができる。だが、ほとんど全員はエキシビションマッチを見るのが目的であって、何か事を起こそうなんて夢にも思わないだろう。



「でもそれがどうして問題なの!?」

「まずいんだよ……! 俺の予想が正しければ、犯人はおそらく……!」



 そうこうしているうちに安楽山までたどり着いていた。全員で一気に山を駆け上がる。徐々に頂上に近づいていた。普段ならフェニックスが侵入者に気づいて飛び上がってもおかしくないが、不気味なほど静かで何も起きない。いよいよもってまずいな……まさか手遅れか?


 やがて頂上が目視できる距離まで来ると、そこには人影が見えた。更に近づくとあらわになっていく。


 その人物は、こちらに背を向けて立っていた。長い長い黒髪、膝まで届きそうな長さの髪で背中が覆い隠されている。かろうじて見える膝から下は、緑をベースにした着物だった。足元は白い足袋に、草履を履いているのがわかる。これはもう確定だった。


 彼女は軽く下を向いていたが、何かに気づいたように顔を上げる。そしてゆっくりとこちらへと振り向く。その顔が見えて、俺とまっすぐ目が合った。そして場違いなくらい爽やかに、にこりと微笑む。



「あら、ゴースト。こんなところで奇遇ね」

「【ブライア】……」

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