33戦目 休息
筆が進んだので、調子に乗って連続更新です。
「休憩しよう!」
次の日の放課後、部室に全員が集まったところで突然投網が言い出した。机の前に立ち、腰に手を当てて胸を張っている。……あんまり胸は無いが。
「真偽君、今なんか余計なこと考えなかった?」
「い、いや何も?」
一瞬ドキッとした。どうしてわかったんだろう。まさか野生の勘か? この話を続けるのは危険だ。という訳で、慌てて話題を戻す。
「それで、休憩ってのは?」
「うん、ここ最近、私達特訓しまくりだったじゃない?」
確かに投網の言うとおりだった。ボス討伐やら連携の練習やら、毎日デイドリに夢中になって励んでいた。ある意味部活漬けの日々と言っても過言じゃない。
「だからさ、たまには休養日が必要だと思うんだよ」
「なるほど……」
一理ある。あんまり根を詰めすぎるとかえって能率が悪くなってしまう。だから時には息抜きも必要だ。
「ふうん……まぁいいと思うけど、二人はどう思う?」
黙って聞いていた、網目先輩と一縷にも話を振ってみた。
「わ、私はいいかなって思うよ……」
「……メリハリが大事だと思う」
どうやら二人も賛成らしい。満場一致だ。
「じゃあ今日は休んで、遊びにでも行ってきたら?」
たまにはそんな日も悪くないだろう。そう思って提案したのだが、なぜかみんな、きょとんとした顔をしていた。
「何言ってんの?」
「えっ? 遊びに行きたいって話じゃないのか?」
「それはそうだけど……真偽君も行くんだよ?」
予想外だった。てっきり女子三人で行くものだと思っていたから、驚きを隠せない。
「えっ、でも女子水入らずで行った方が……」
「同じギルドの仲間じゃん。一緒に行こうよー」
そう言って俺の腕を引っ張る投網。他の二人も期待したような顔で見ている。これは断りづらいな……。
「……わかった。行くか」
手早く帰り支度を整えると、全員で部室を出た。
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「どこ行くー?」
「……甘いものとか食べたい」
「え、えっと服を見に行くとか……」
俺達は街中を四人で歩いていた。いや、正確にはかしましく喋る三人と、後ろからついていく俺と言った感じだ。一人考え事をしながら後をついていく。
この先、ギルドを維持するのはなかなか大変だろう。校内には百獣団、黒騎士、ローズガーデンと数々の強敵が待っている。しかも忘れがちだが、クラス対抗戦なんかもあるし……。考えることは山積みだ。そう言えば、元仲間達はどうしてるだろう? 元気にやってるんだろうか……。
「……君。真偽君てば!」
そこで初めて呼ばれているのに気がついた。はっとして前を見ると、投網が俺の顔を覗き込んでいた。
「あ、ああ。何?」
「もー、何じゃないよ。聞いてなかったの?」
「……ごめん。ボーッとしてた」
「大丈夫?」
投網は心配そうに眉を寄せていた。いかん、無用な心配をかけてしまったようだ。
「なんでもないさ。気にするな」
「ならいいけど……一人で何か背負い込んだりしないでよ?」
「ん? ああ……」
「仲間なんだからさ、悩みがあるならできるだけ相談に乗るよ!」
「わかった。もし困ったら頼らせてもらうよ」
「うん!」
息抜きのつもりで出てきたのに、つい考え込んでしまった。ここは気持ちを切り替えていかないと。
「で、どこに行くか決まったのか?」
「うん、この先の公園にさ、クレープの屋台が出てるらしいから、とりあえず食べに行こうって。真偽君クレープ好き?」
「クレープか……そういえばしばらく食べてないな」
確か最後に食べに行ったのは、妹に強引に連れられて行った時だったか。懐かしい思い出だ。
「じゃあ決まりだね!」
そのまま他愛も無いことを四人で話しながら、公園に向かった。今度は俺も積極的に会話に入るように努めた。おかげで些細なことだが、みんなの趣味とか休日の過ごし方とか色々知ることができた。
「じゃあ真偽君はずっと戦ってたんだ?」
「ああ、ほとんど生活の一部だったからな」
そういう俺はずっとデイドリをやり続けており、他に趣味と言えるようなものも特にないのだが。まぁそのおかげでここまで強くなれたから、後悔はしてないが。
「……やっぱりそれくらいしないと強くなれない」
「わ、私には真似できないよぉ……」
ふと気づくといつの間にか公園に到着していた。ここの公園は川のすぐそばにあり、見晴らしがいい。
奥まで進んでいくとクレープの屋台を見つけた。既に何人か並んでいるが、やはり女子がほとんどだった。……少々肩身が狭いかもな。
「ん? あれって……」
「どうした? って……」
そんな中、列に並んでいる中に知ってる顔を見つけた。きつめの目付きをした天ノ川先輩だった。見たところ一人で並んでいるようだった。
「どうする?」
「向こうは気づいていないが……とりあえず挨拶ぐらいはした方がいいんじゃないか?」
「そうだね……先輩、こんにちは!」
声をかけると先輩はこちらに気づいた。穏やかな様子で挨拶を返してくる。
「あなた達ですか。こんにちは。……霜屋君は帰ってもいいですよ」
俺に対してとげのある返事も、相変わらずだった。まぁいちいち気にしてても始まらない。投網もそう思ったのか、すぐさま話題を変えた。
「えっと、先輩はお一人ですか?」
「ええ、たまに一人でゆっくりしたい時に、ここのクレープを食べに来るんです」
「クレープ美味しいですよね!」
やはり女子には穏やかというか優しいんだよな……。男子に対する態度も、少しは軟化してくれればいいんだが。
そのまま、俺以外は和やかにお喋りに興じていた。俺は迂闊に口を出すと先輩を怒らせそうなので、静かに黙って聞いていた。順番が回ってきて、それぞれクレープを購入する。
「真偽君、それ何味?」
「ハムとレタスとトマトだ」
「まさかの甘くないやつ……」
「そういう投網のはやたら甘そうだな」
「生チョコカスタード、クリーム多めだよ!」
「そうか、太らないようにな」
「……次言ったら、いくら真偽君でも殴るからね」
そのまま流れで天ノ川先輩と一緒に、近くにあった大きめのベンチまで行く。しばらくの間、それぞれがクレープを食べる音だけが静かに聞こえてくる。このまま何事もなく終わりそうだと思ったが、そこに新たな人物が現れた。
「あれー? 誰かと思ったら」
軽薄なノリと共に現れたのは、祇園先輩だった。よりによってこの人とは……まずいな。
チラリと天ノ川先輩を窺うと、明らかに機嫌が悪い顔をしていた。クレープを食べ終わると勢いよく立ち上がった。
「私帰ります。……じゃあ姪原さん達もまた」
あからさまに祇園先輩を無視する構えだった。そのまま去って行こうとする。祇園先輩を見ると軽い態度で肩をすくめており、特に何も言う気はないようだった。
その光景を見て思った。このままでいいんだろうか? この二人はこの先ずっと、こういう関係を続けていくのだろうか。本当にそれが互いの為なのか?
そして俺は気がつくと、天ノ川先輩の腕を掴んでいた。
「……なんですか?」
ものすごく冷たい目で見られていた。ゴミを見るような目とはこのことか……。だが何か言わないと……!
「先輩はこれでいいんですか?」
「はい?」
「そうやってずっと男性が嫌いなまま過ごしてしまって、それで満足なんですか?」
「……あなたに何がわかるんですか。何も知らない癖にいい加減な事を言わないで下さい」
冷たい声に怯みそうになる。が、グッと我慢だ。
「ええ、だから知ってる人に言ってもらいます。……祇園先輩」
「え、俺?」
俺が話を振ると、祇園先輩は目を丸くしていた。だがそれも一瞬のこと、先輩は頭を掻きながら笑っていた。
「やー、俺そういう真面目なの苦手でさー」
「先輩もそれでいいんですか? ここで真面目にならないと、ずっとこのままかもしれませんよ。本当にいいんですか?」
「…………」
問いかけると、笑顔を引っ込めて無表情になった。そのまま視線を下げ、ため息をつく。
「ふー……。天ノ川ちゃん……いや微々」
「!」
祇園先輩は姿勢を正すと、ゆっくりと頭を下げた。その状態で話し出す。それはいつもの軽い喋り方とは全く違っていた。
「あの時は本当にすまなかった。俺が守ってあげられなかったから、こんなことになってしまって……」
「い……今さらそんなこと言われても、もう遅いのよ! 子供の頃私がどんなに辛かったか……」
「ああ、どんなに辛かったか俺にはわからない。だから償えることなら何でもする。例え許してくれなくても、ずっと謝り続ける。……今までは怖くて仕方がなかった。だから自分を取り繕う為に、軽薄な感じで振る舞ってきたけど……覚悟を決めた。そこの後輩のおかげでな」
「う……ううう……」
天ノ川先輩の目に、みるみるうちに涙が溜まっていく。必死に泣くのをこらえているようだった。
「だって……私は……私は……」
「本当にごめんな、微々」
「常軌君……」
俺は掴んだままだった手をそっと話した。ふらふらと天ノ川先輩は祇園先輩の方に歩いていく。そして祇園先輩はゆっくりと抱き締めた。
「ううう……うわあああん……!!」
その瞬間、先輩は泣きじゃくり始めた。祇園先輩は抱き締めたまま、優しい手つきで頭を撫でている。
俺は少し離れてその光景を見つめていた。ふと横を見ると、うちの仲間達ももらい泣きしてるようだった。事情はわからないけど、感じるものがあったんだろう。
そのまま先輩が泣き止むまで、俺達は立ち尽くして見守っていた。
「きっかけは、ほんの些細なことだったんです」
数分後、泣き止んだ天ノ川先輩は祇園先輩と並んでベンチに座っていた。俺達はそれを囲むように立っている。
「小学生の頃、男子にからかわれて……今よりすごく気の弱かった私は、男子が怖くなってしまったんです」
決して誉められたことじゃないが、子供の頃はよくあることだな。
「だから、必死になって自分を守る為に強気な態度を取るしかなかったんです。そうしないと怖くて仕方がなかったから」
先輩の攻撃的な態度は、恐怖の裏返しだった。そうでもしないと心が折れるから。
「でも一番悲しかったのは、幼なじみだった常軌君が守ってくれなかったことでした」
「ごめん……あの頃の俺は、男子の中で仲間外れにされたくなかった。だから悪いとは思っていても、何もできなかった」
本当にごめん、ともう一度頭を下げる祇園先輩。それに対して、天ノ川先輩は首を横に振る。
「もういいから。常軌君の気持ちは伝わったし、思いっきり泣いたらなんかスッキリした」
そう話す先輩の顔を憑き物が落ちたように、どこか晴れ晴れとしていた。
「そんなすぐに男子と仲良くなれるかわからないけど、私も歩み寄ってみようと思うから」
「……微々。ありがとな」
優しい顔で互いに見つめ合っている。そして俺の方を向いた。
「霜屋君もごめんなさい。今まできつい態度を取ってしまって……」
「俺からも謝る。ごめんな」
「いや、俺は気にしてませんから」
災害衆にいた頃は、尊敬や応援の声だけじゃなく誹謗中傷の声もいくつも浴びてきた。だからこの程度はなんてことはない。
「あなたのおかげで仲直りできました。本当にありがとうございます」
「ああ、ありがとな」
「大したことしてません、お二人が勇気を出したからだと思います」
そう、正直ここまでトントン拍子で進むとは思ってなかった。最悪のケースも予想してたから、内心はひやひやものだった。
「外濠……統一の奴にも話しないとな」
「うん、統一君にも迷惑かけちゃったしね」
聞いたところ、外濠先輩は当時クラスが違ったので、天ノ川先輩の苦労についてよく知らなかったらしい。気づいた時にはもう、あの状態だったとか。
その後、先輩達は帰って行った。互いに手を繋いだまま。
「なんか予想外の息抜きになっちゃったな」
「うん、でも良かったよね」
「……いい話だった」
「し、幸せになれるといいねぇ……」
予定とはだいぶ違ったが、結果としていい休みになったと言えなくもなかった。




