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VRゲームで歩む最強への道  作者: 仮面色
2章 校内ギルド
30/40

30戦目 思惑

「くそっ!」



 ファミレスのテーブルをドンと叩く音が響く。取り巻きの連中がビクッと身をすくませた。周りの客が何事かと振り向くが、すぐに興味を失ったように顔を戻していく。


 グリズリー……畑江は荒れていた。イライラが収まっていない。雑魚だとばかり思っていた相手が実は災害衆だと言われても、そんな簡単に納得できるはずがなかった。



「あの野郎……」



 畑江はぼそりと呟く。その言葉は憎悪に満ちていた。彼は今までの人生で苦労したことがほとんどなかった。実家は大金持ちとまではいかなくてもそこそこ裕福な家庭であり、両親は彼を溺愛してくれていた。


 欲しい物は大抵手に入ったし、両親に注意を受けることもほとんどなかった。また、彼は生まれつき体格にも恵まれていた。そのおかげで小学生の頃は学校でも不自由することはなかった。中学、高校ならまだしも、小学校ともなるといわゆるガキ大将には逆らえるような子供はいなかった。喧嘩も強かったおかげで、非常に満足のいく子供時代を送っていた。


 中学に入ると、流石に暴力だけで物事を解決する訳にはいかなかった。だが、畑江は新たな道を見つけた。それがVRゲーム『デイドリーム』だった。


 ゲームの中に入って、しかも現実に限りなく近い条件で戦えるというのは、彼の性に合っていた。難なくレベルを上げることができたし、瞬く間に周りに敵はいなくなっていた。全てが順風満帆だった。


 高校も、家から通える範囲でなおかつデイドリができると知って、安楽高校を選んだ。取り巻きも何人か進学することが決まっていたし、クラスの連中も大したことはないだろうとたかをくくっていた。


 だが、その予想は裏切られることになった。クラスには自身よりもかなりレベルが上の人間が、何人もいた。それでもすぐに追い付けるだろうと踏んでいた。入学してすぐにクラスの雑魚をぼこぼこにしてやったことで、自信を少し取り戻していた。


 校内でも上位のギルドにスカウトされた時は、驚きよりもやはりという気持ちが強かった。自身の実力なら当然だと思ったし、先輩達にはまだ勝てなくてもいずれはこのギルドを受け継ぐのは自分だと思っていた。


 しかし、その歯車はまたもや狂うことになってしまった。


 どういう理由かギルド戦を行うことになった。詳しい理由は気にしなかったが、相手が格下だということだけはわかっていた。最初は楽勝だと思っていた。


 だが、違った。相手は連携を重ね、自分達を打ち倒した。それだけならまだショックは大きくなかった。これまで無敗という訳でもなかったし、たまたま負けただけだと自身を納得させられた。


 しかし事態は予想外の方向へと進んだ。尊敬していたギルドマスター……レグルスが敗れたからだ。しかも自分があっさり倒したはずの雑魚の手によって。相手は誰もが知るトップギルド、災害衆だと名乗った。信じられる訳が無かった。


 どうしても敗けを認めたくなかった。なので再戦を挑んだ。あれは何かの間違いだ。そんなはずはない。自分が勝って証明するんだと、もはや執念にも似ていた。


 結果は完敗だった。自信は今度こそ粉々に打ち砕かれることになった。



「きっと、卑怯な手を使ってるんですよ!」

「そうそう、あんな奴が災害衆の訳ありませんって!」



 普段なら心地よく聞こえるはずの取り巻き達の追従も、今は耳障りに感じる。



「俺があんな奴に負けるはずが……」



 薄々気づいていた。心の中では認めたくなかったが、あいつは強い。だがどうしても素直に認める訳にはいかなかった。それを認めてしまったら、最後に残っていた何かまで折られてしむうような、そんな気がしたのだ。



「とにかくだ! なんとかしてあの野郎……ゴーストをぶっ潰す!」

「ですよね!」

「流石畑江さん!」



 水をグイッと飲み干すと、取り巻き達に宣言する。それはむしろ、自分自身に言い聞かせているようなものだったのかもしれない。取り巻き達が頷く。



「あの、ちょっといいかしら?」



 そこに唐突に誰かの声が割り込んできた。聞き慣れない高い声に、視線を向ける。いつの間にかテーブルの横に誰かが立っていた。



「もしよかったら、お話聞かせてもらえるかしら?」







「くっ、こんなことになるなんて……」



 エレガンス……赤司はイラついていた。爪を噛んで苛立ちを紛らわそうとしている。



「はしたないですよ、お嬢様」

「うるさいですわ!」



 普段なら大して気にならない専属メイドの言葉も、今はやたらと気に障る。


 赤司家は先祖代々裕福だった訳ではなく、彼女の父親が一代で会社を立ち上げ、大金持ちとなった。しかしそれも彼女が生まれる前のこと。彼女は生まれてから、何不自由なく育てられ、あらゆる教育も一流のものを受け、その全てで素晴らしい成績を修めてきた。


 だからこそ、彼女は退屈していた。そんな時、出会ったのがデイドリだった。単純に流行してるから興味を持った程度だったが、その内容は彼女を魅了した。自分の思い通りにいかないことなんて初めてだった。


 デイドリにはまった赤司は、メキメキと実力を伸ばしていった。何度も何度も努力を重ね、少しずつレベルを上げ着実に力をつけていった。それは彼女自身の才能とセンスもあったが、ひとえに努力の賜物だった。



「わたくしが……負けるなんて……」



 だからこそ納得がいかなかった。あんな努力も何もしてなさそうな軽い男がレベル100だなんて、認めたくなかった。


 挑んでみたものの、結果は惨敗だった。何もいいところなく敗れた。悔しくて仕方なかった。彼女は生まれて初めて他人を羨ましいと思い、そして嫉妬した。


 彼女は考える。どうすればいいのだろうか? 圧倒的な力の差を見せつけられてしまっては、どうすればいいのかわからない。



「はぁ……」

「お嬢様……」

「あなたは先に帰ってなさい」

「ですが……」

「命令よ。一人にしてちょうだい」

「……かしこまりました」



 まだ何か言いたそうだったが、ゆっくりと引き下がっていく。今は一人で考えに耽っていたかった。



「あの、すみません」



 しかし思考はすぐに引き戻されることになる。いつの間にかテーブルの前に誰かが立っていた。服装からして店員ではなさそうだ。



「よかったらお話しませんか?」







「さて、今日はどうする?」



 いつものようにギルドホームに集まった俺達は、リンクスの号令で会議を始める。会議と言っても、身内だけの和気あいあいとしたおしゃべりに近い。……俺もだいぶこのギルドに慣れてきたものだ。



「じゃあ俺から」

「はい、ゴースト」



 俺が手を挙げて発言の許可を取ると、リンクスも笑いながらそれに乗ってくれた。



「昨日ボスモンスターを倒して、素材を手に入れただろ? それはみんなの強化に使うとして……やっぱ地道なレベル上げが必要だと思うんだ」



 スポーツでもそうだ。試合を行う前に、地道な反復練習がものを言う。



「ボスモンスターを倒してそこそこ強くなったじゃない。……フェニックスはゴーストが一人で倒しちゃったけど」

「ごほん! ……それはさておき、レベル上げだ」

「……まぁいいけど。それで?」

「前に話したように、ギルド戦を申し込もうぜ。レベルも上がるし、資金も増えるし一石二鳥だ」

「それは勝てればの話でしょー?」



 リンクスはいまいち懐疑的だった。まぁ無理もないが。



「大丈夫だって。俺がいればなんとかなるさ」

「うーん……。私調べたんだよね、ギルド戦の申し込みについての校則」

「どうだったんだ?」

「要約すると、『下位のギルドから上位のギルドへの申し込みは拒否できない』ってところかな」

「なるほど……ん?」



 そこでふと気づく。それだと、百獣団から申し込まれた時のギルド戦は断れたのか……?



「多分そうだよ。あれはレグルスさんのはったりだったんじゃないかな」

「あの先輩は……」



 今度会ったら一対一でボコボコにしてやろう。俺は心の中で誓いつつ、話を戻す。



「なら、俺達は最下位のギルドだから、基本的にどこに申し込んでも断れないってことか?」

「基本的にはそうなるね」



 そこで、黙って会話を聞いていたティアーが手を挙げた。その動きは震えてるように見える。



「そ、それなんだけど……やっぱりやめない?」

「お姉ちゃん、どうしたの?」

「だ、だって、無理に戦うことないと思うし……」



 ティアーはかなり消極的だった。まあ気持ちはわからなくもない。元々ティアーは先輩達から受け継いだ平和の園を守るというのが目的だった訳だからな。下手に危険を冒したくはないのだろう。



「ブレイズはどう思う?」

「……私は、戦うのに賛成」



 ブレイズは好戦的というか、意欲は満々のようだった。



「で、でも……」



 ティアーはキョロキョロと視線を動かし、体もせわしなく動いている。相当動揺しているな。そこで俺は話しかけた。



「なぁ、ティアー」

「ふぇ、何……?」

「ティアーの気持ちはわかる。負けた時のリスクを考えると、及び腰になってしまう気持ちもな」

「う、うん……」

「でもさ、先輩達に見せてやりたいと思わないか?」



 そこまで言うと、ティアーは目を丸くしていた。質問の意味がわからなかったのかもしれない。



「俺は会ったことないけどさ、ティアーは平和の園を設立した先輩達のことが大好きだったんだろ?」

「うん……」

「だったらさ、平和の園を大きくしていつか見せてやったら、喜んでくれるんじゃないか?」

「…………」



 ティアーは俯いて考え込んでしまった。俺の説得も一理あると思ってくれてるんだろうか。みんなが見守る中、少ししてティアーは顔を上げた。



「わ、わかった……。私、やってみる……!」

「お姉ちゃん!」



 リンクスは喜んで、姉妹で抱き合っていた。ブレイズも満足そうに頷いている。



「よし、改めて方針が決まったところで、次の目標を決めよう」

「うん、どうするの?」

「とりあえず百獣団を倒そう」



 俺がサラッと告げると、みんなはぎょっとした顔でこっちを見た。



「いやいやいや、ちょっと待ってよ!?」

「どうした?」

「どうした、じゃないよ! なんでそうなるの!? もっと下位のギルドから倒そうって、決めてたでしょ!?」



 確かに先日の部内の会議では、そういう話でまとまっていた。



「いや方針変更しようと思って」

「聞いてないよ!?」



 だから、今説明しているだろう。リンクスはいつも慌てているな。



「まぁ落ち着け。そしてよく考えてみろ」

「何を?」

「俺達はこの前百獣団……レグルスを倒しただろう?」

「うん、俺達っていうか、ゴーストのお手柄だったけどね」



 軽く聞き流して話を続行する。



「一番強いレグルスを倒せたんだから、もう一度挑んでみても大丈夫じゃないかと思って」

「発想が軽すぎるよ!?」

「え、でも災害衆ではだいたいこんなノリで挑んでたから……」

「スケールが違いすぎる!」



 ツッコミ疲れで、リンクスは肩で呼吸していた。そんなに疲れるなら、突っ込まなきゃいいのに。



「大丈夫だって。最悪俺一人でもなんとかなるし。その場合でもチーム戦なら経験値はみんなにも入るはずだろ?」

「確かにそうだけど……そうだよね。やってみる価値はあるよね」



 リンクスはやる気になってくれたようだった。ブレイズはいうまでもなく、ティアーも震えながら頷いている。



「よし、じゃあ次の目標は百獣団との再戦、そして勝利だ」

「うん!」

「が、頑張るね……」

「……腕が鳴る」



 なんかいつの間にか俺がリーダーみたいになっているけど、気のせいだろうか。

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