22戦目 概念
お久しぶりです。皆様に後押しされて、続きを書くことにしました。よろしくお願いします!
「お疲れー」
レグルスにより領地を譲ってもらった次の日、放課後部室まで来ていた。無駄に遠いので、足腰が鍛えられそうなんて、どうでもいいことを考えながらだった。
「お疲れ、真偽君」
「お、お疲れ……」
「……お疲れ様です」
既に三人は部室に来ていた。俺が教室の掃除当番で遅くなったから、当たり前といえば当たり前か。なんとなく決まっている席に、椅子を引いて座る。
「じゃあ、全員揃ったことだし、ログインしよっか」
今日もおどおどした姉に代わって、投網が仕切っていた。本人達は気にしてないから、別に口出しすることではないが。
全員慣れた手つきでVRグラスを取り出すと、手早く装着して電源を入れる。
「「「「リンクスタート」」」」
あっという間に周りの景色が変わる。俺の姿も見慣れたアバター、ゴーストへと変化していた。
「よし、えっと今日の部活についてだけど……」
全員ギルドホームのソファーに座っていた。昨日は、レグルスから話を聞いてからさっさと解散してしまったので、改めて話すのはこれが最初となる。
「まずはゴーストに色々聞きたいんだけど、いいかな?」
「俺に?」
予想してなかった提案だった。俺の何が聞きたいんだろう?
「……興味あります! ぜひ聞きたいです!」
ブレイズが手を高く上げていた。無表情ながら、興奮してるのが見て取れる。
「お、おお……別にいいけど、ティアーの意見は?」
「わ、私も聞いてみたいかな……?」
どうやら全員賛成のようだった。仕方ない。話すとするか。
「わかったよ。で、何から聞きたいんだ?」
「じゃあ私からね。ゴーストの能力って、結局回復系なの?」
能力についてか……。まぁ、教えてもいいか。知られたくらいじゃ困らないし。
「それを説明する前に……みんなは【能力概念】について知ってるか?」
「「「?」」」
どうやら三人とも知らないらしい。まぁ無理もないか。知ってる方が珍しいしな。
「能力概念っていうのは、デイドリにおける隠された情報のことなんだ。いわゆる隠しステータスってやつだな」
「えっと、それが関係あるの?」
「あるぞ。これを理解してるのとしてないのでは、だいぶ変わってくるからな。……例えばリンクス、ステータスを開いてくれ」
「? ……うん」
俺はステータスを見ながら、あれこれ操作していく。
「こうして、こうして……と。出た出た」
「何これ……概念『山猫』?」
ティアーとブレイズも回り込んできて、一緒にステータスを覗き込む。そこにはリンクスが呟いたとおりの物が表示されていた。
「ちょっとした裏技みたいなものでさ、決まったコマンドを入力すると、自分のアバターの概念が見られるんだよ」
「へぇ……で、これがなにか関係あるの?」
「大有りだ。おそらくだけど、リンクスの場合普通の猫じゃなくて、山猫ってところがポイントなんだ」
「そ、それって、同じものじゃ……?」
「違うんだよ、ティアー。概念ってのは、それぞれのアバターの根本に関わってくる、システムの根幹なんだ」
三人とも戸惑っている。いまいち伝わってないのかもしれない。
「例えばだけど、リンクスはステージが山岳だと何かしらステータスが上がるとか、そういう作用があるはずなんだ」
「え、そうなの!?」
「そうだよ。他にもスキルに関わってきたり、これを意識しておくのとしないのでは変わってくるんだ」
「へぇ……」
感心しながら自身のステータスを眺めているリンクスをよそに、ティアーとブレイズの概念も表示してあげた。
「わ、私は『水滴』なんだ……」
「……『爆炎』。カッコいい」
VR技術は、脳に直接接続して思考パターンを読み取っている。特にデイドリでは、個人から読み取ったそれらの思考パターンはアバターの成長に大きく関わってくる。例えばより速くなりたいと思っていたら、アバターがそういう風に成長しやすくなる。
「だから、認識や理解ってのはすごく大事なんだ」
「それはなんとなく聞いたことあったけど……概念もそれに関わるってことなんだ」
「ああ、特にスキルにな」
デイドリではレベルが20上がるごとに、スキルを一つ覚えるようになる。だが概念を理解してることによって、どんなスキルになるかも変化すると考えられている。
「俺も昔、概念を知る前は自分の事を回復系だと思ってたんだよな」
「違うの?」
「厳密には違う」
災害衆を結成した頃、まだギルド名も決まってなかった頃の話だ。偶然、概念の要素を見つけてみんなで驚いたものだ。
「俺のアバター、ゴーストの概念は『死亡』。死そのものなんだよ」
「死……?」
回復なんて生易しいものではなかった。それこそ死神のように、死を司るアバターだ。
「説明するのは難しいんだけど……俺の能力は回復させてるというよりも、死を吸い取ってるって言った方が正しいんだよ」
「な、なんかすごく物騒だけど……」
「わかりづらかったら、ダメージと置き換えてもいいかな。ダメージを吸収して蓄えることができるんだ」
俺のスキル、『万死一生』なんかがまさにそうだ。あれは対象となる相手のダメージを吸収して、自身の中に保存しているのだ。
また、『亡者の行進』もそうだ。あれは既に死んでいるプレイヤーから、死を抜き取ることで生きている状態に戻している。
「……蓄えるってことは、もしかして?」
「ああ、多分ブレイズの想像通りだ。逆に吐き出すこともできる。それが『最悪の終わり』だな」
溜め込んだ死をまとめてぶつけるスキルとなる。凝縮してる分、威力は絶大だ。
「だから、逆に『最悪の終わり』は無闇に使えないんだよなー」
「そっか、まずその、死を溜める必要があるんだね?」
「ああ、だから誰かを回復しないと使えない。それに使ったとしても避けられたら意味無いし。……ブレイズ、さっきから何してる?」
薄々気になっていたが、さっきからブレイズは話しながらもメニュー画面を開き、猛然とキーボードを叩いていた。ものすごい勢いだ。
「……ゴースト様のお話を忘れない為に、メモしてます」
「そうか……」
ファンの心理はいまいち理解できない。まぁ、本人が満足ならいいか。
「はー、それにしてもすごいね、ゴーストは」
「そうでもないさ。別に俺が災害衆最強だった訳じゃないし」
「ほえー……。じゃあ最強って誰だったの?」
リンクスが首を傾げていた。ティアーもこくこく頷いている。
「最強……は特にいなかったな。相性もあるし、一対一だったらみんな五分五分だった」
「……私、災害衆が出た試合はほとんど見てました」
「あ、ああ、ありがとう」
「……四番の人が不思議な回復してたと思ってましたけど、あれがゴースト様だったんですね」
「そうだな、俺はいつもあの仮面をつけてたな」
俺達は正体を隠す為に、アイテムの仮面をつけていた。仮面自体は真っ白で特徴が無かったが、唯一目立つ点として赤で数字が書かれていた。俺は四番の仮面と言うわけだ。
「時々敵を惑わす為に、仮面を交換したりしてたけどな」
「へー、なんで四番なの?」
「別に深い意味はないよ。ギルドに入った順っていうか……会員番号みたいな感じでつけてただけだから」
ブレイズのメモするスピードが更に上がった気がする。アイドルじゃないんだから、そんなに必死に情報を追わなくても。
「ところで、ブレイズは誰のファンとかあったの?」
「あ、俺もちょっと気になるな」
話を振ると、キーボードを打つのをやめて顔を上げた。
「……私は基本全員のファンだったけど、強いて言えば三番さんのファンでした」
三番……あいつか。あいつとは正直やりあいたくないな。泥仕合になりがちだし。
「じゃあ、いつか紹介するよ」
「……! ぜひお願いします!」
立ち上がって俺の両手を握ると、ブンブン振っていた。そんな喜ばれると、俺としても苦笑してしまう。
「えっと、他に聞きたいことってあるか?」
せっかくなので、もう少し話題を振ってみた。すると意外なことに、ティアーが手を上げていた。
「ティアー?」
「災害衆の人たちって、今はどうしてるの……?」
「さぁ……俺も詳しく知ってる訳じゃないけど……多分高校に入ったと思うぞ?」
別れる時に、連絡は取り合わないようにしようと決めていた。決心が鈍っても困るからな。だから今現在どこでどうしてるかは知らない。
「えっ、ちょっと待って」
「どうした?」
「今なんか違和感があったんだけど、『高校に入った』ってどういう意味?」
「どういうって……そのまんまだよ。高校生になっただろうってことだ」
「じゃ、じゃあもしかして……?」
「ああ、俺達災害衆は、六人全員高校一年生だよ」
「「「ええええええ!?」」」
一瞬の静寂。その後三人が大声を上げていた。普段物静かなブレイズまで一緒になっていたのは驚きだった。
「どうしたんだ、そんな大声出して……」
「いやいやいや! なんか今驚きの情報がいくつか入ってきたよ!?」
「……初めて聞いた」
「び、び、びっくりしたぁ~……」
三者三様に驚いている。立ち上がったりわたわたしたりと、リアクションはそれぞれ違うが。
「まず、六人ってところ! メンバーって六人なの!?」
「あれ? 公表してなかったっけ?」
……よく考えたら、別に自分達から名乗った覚えは無い気がする。
「嘘でしょ……あの謎の最強ギルドが、たった六人しかいなかったなんて……」
「……もっとたくさんいるけど、出てこないだけだと思ってた」
そう言われても困る。実際、六人だけで勝ち抜いてきた訳だし。
「あと、高校生ってところ! それは!?」
リンクスがビシッと指を突きつけてくる。それに気圧されながらも答えた。
「そ、それは間違いない。俺達は全員同い年だったから、今は同じように高校生になってるはずだ」
「日本最強のギルドなのに……」
三人とも絶句していた。ここまでくると、なんとなく言いたいことはわかってきた。最強になった当時、俺達は全員中学生だった訳だ。それが、老若男女を蹴散らして日本一の座に君臨していたのだから、理不尽に思えるのかもしれない。
「まぁまぁ、落ち着けって」
「……この前も言ってたけど、それで解散したんですか?」
俺は軽い調子で宥めようとした。だが、ブレイズが真剣なトーンで聞いてきたのを見て、ふざけるのはやめた。
「そうだよ。あいつらがどう思ってたかはさておきな」
俺は強くなりすぎた。他の五人もそうだ。このまま勝ち続けるだけの毎日なんて、むなしいだけだと思っていた。
「だから、解散したかったんだ。どういう道を辿るにしろ、少なくとも勝つだけの刺激のない日常とは離れられると思ったからな」
「ゴースト……」
「実際、正解だったよ。今はこうして新しい仲間に囲まれて楽しく過ごせてるからな」
「うん! これからもよろしくね!」
リンクスだけじゃない。ブレイズもティアーも微笑んでいる。俺も思わず笑っていた。
「じゃあまぁ、俺の話はこれくらいでいいか?」
「そうだね、二人もいい?」
「う、うん……」
「……大満足」
「で、今日は何する?」
俺の疑問に三人とも俯いて考え込んでいた。だが少しすると、リンクスが顔を上げた。
「そうだ、領地を見に行かない?」
「領地?」
「そう、昨日百獣団から領地をもらったでしょ? それを確認しようよ」
「一応マップでは見てるだろ?」
「そうじゃなくてさ、実際にどこまでが範囲になってるなか見て回ろうってこと!」
なるほど、リンクスの言うことも一理ある。このギルドホームの周りがどうなってるのか、きちんと確認してなかったしちょうどいいだろう。
「……賛成」
「わ、私もいいかな、って……」
「じゃあ決まりだね!」
こうして、ギルドの周りを探索することになった。




