15戦目 百獣団
「もしかして、お前達もボスの討伐に来たのか?」
朗らかに笑いかけながら、俺達に質問してくる。百獣団のギルドマスターというからには、もっと怖そうな相手をイメージしていたのだが。
まぁ相手は俺達と同じ高校生。そこまで変わりはないということだろうか。
「そうなんです。でもタイミング悪かったみたいですね」
相手が上級生だろうと、リンクスは物怖じせずに話している。……反対にティアーは、ブレイズの後ろに隠れるようにして覗き込んでいるが。
「そうか……。まぁこればかりは仕方ないな。予約がある訳でもないし」
レグルスは一人でうんうん頷いている。そこにグリズリーが口を挟んできた。
「はっ! お前達みたいな雑魚がボスに挑んだって、勝てる訳ないだろ!」
嫌味な物言いをやめようとしない。ある意味平常運転と言えた。しかしそこにレグルスの怒号が飛ぶ。
「グリズリー!!」
「は、はい!」
その表情は端から見ても、明らかに激怒していた。怒気を向けられているのはグリズリーだが、こちらにも伝わってくる。
「お前、人様を馬鹿にするような発言するとは、どういうつもりだ!」
「すす、すみません!」
おお、あの威張っていたグリズリーが猫のようにおとなしくなっている。今はあの巨体が小さく見えるほどだ。一方俺達も若干気圧されていた。ティアーをチラリと見ると、既に涙目になっていた。レグルスがこちらに向き直る。
「大変失礼した。うちの者が迷惑かけたようですまない」
グリズリーの頭を掴んで下げさせつつ、自らも頭を下げてみせるレグルス。予想以上にいい人のようだった。
「いえ、そんな気になさらないで下さい」
「そう言ってもらえると助かる」
レグルスはほっとしたようだった。グリズリーは不満げにこちらを睨み付けている。なんとなく丸く収まりそうだと思ったその時、そこに新たな人物が現れた。
「あー! お前ら!」
「さっきはよくも!」
後ろにいた百獣団のメンバーの中から出てきたのは、なんとあのブレイズを勧誘していたソフトモヒカンと兜だった。ドタドタとこちらにやってくる。
「お前らが邪魔しなければ!」
「そうだ、責任取れ!」
「ちょ、ちょっと待って下さい!?」
先頭にいたリンクスに詰め寄り、喚いていた。リンクスも押され気味だった。
「待て待て、いったいどうしたんだ」
「聞いて下さいよ、ボス!」
なんとかこの場を収束しようとしていた。そこへソフトモヒカンが説明を始める。レグルスは相槌を打ちながら聞いている。その隙にこっちも四人で集まる。作戦タイムだ。
「まさか、あいつら百獣団の仲間だったとはな……」
「……そういえば、どこのギルドか聞いてなかった」
「どどど、どうしよう……」
「落ち着いてお姉ちゃん、まだ何か問題があるって決まった訳じゃないから!」
しばらくして、向こうに向き直る。どうやら向こうも話が終わったようだった。
「なるほど、話はわかった」
「そうなんですよ!」
レグルスは腕組みして頷いていた。そしてモヒカンがこっちを睨んでいる。
「確かに勧誘を横取りされたようにも聞こえる」
「それは……!」
その発言に、リンクスが言い返そうとした。だが、レグルスは手のひらを向けてそれを止める。
「しかし、だ」
「え?」
「お前達の話だけでは証拠がない。もしかしたら本当に昨日から約束していたのかもしれない」
驚いた。身内贔屓ではなく、きちんと考えた上で客観的に判断しているようだ。
「そんな、ボス……俺達の話が信じられないんすか!?」
「そうは言ってない。この場合、双方ともに証拠が無いだろうと言ってるんだ」
「それはまぁ、そうですが……」
「そこで、だ。こういうのはどうだ?」
レグルスは指を立てて、俺達四人を見回す。
「この決着はギルド戦で着けようじゃないか」
「ふえ!?」
最初に反応したのは、ティアーだった。あわわわ……と動揺しまくっている。気になった俺は一歩前に出た。
「その、ギルド戦とは、もしかして……」
「ああ、団体戦のことだ」
「やっぱり……」
頭を抱えそうになる。俺達平和の園はたった四人の弱小ギルド。対して百獣団は、今見えているメンバーだけでも十数人はいる。圧倒的不利だ。
「そんな……それじゃ私達が負けるに決まってるじゃないですか!」
「落ち着け、リンクス」
俺はリンクスをまぁまぁと抑えにかかる。
「よく考えろ。そもそも俺達が勝負を受ける理由がないじゃないか。最悪試合を拒否すればいいだけだ」
「そ、そっか……それもそうだね……」
冷静さを取り戻しかけたリンクス。しかしそこにレグルスから追い討ちがかかる。
「ああ、拒否はできないぞ?」
「なに?」
それはおかしい。デイドリにおいてフィールドで無差別に戦闘する以外は、対戦の申し込みが必要だ。そして対戦を受けるかどうかは、本人が決められるはず。
「確かに普通ならそうだな」
「じゃあ……」
「だが、ここには校則がある」
「校則……?」
「詳しい説明は省略するが、特別な理由がない限りギルド戦の申し込みは受けないといけない。うちの校則で決まってるんだ」
「なんだと!?」
「ルールを破れば、最悪停学もあり得るぞ」
「お姉ちゃん、本当?」
リンクスは震えてる姉に確認を取る。ブレイズは何も言わなかったが、黙ってティアーを見ていた。
「う、うん、確かにあるよ……」
「そんな……」
これはまずいことになってきた。今のままでは勝ち目が薄すぎる。……俺も覚悟を決める必要があるかもしれない。
「だが今回の件は、こちらにも問題があるようだ」
「えっ?」
「そこでだ、ここは人数を揃えてのチーム戦にしよう」
人数を揃えてということは、四対四の戦いということになる。それならまだ可能性があるか? しかし俺も出なきゃいけなくなるな……。レグルスの言葉は更に続く。
「更に、元々の原因も賭けよう」
「どういう……」
「そこの、ブレイズと言ったか。もし俺達が勝ったら、彼女は百獣団に入ってもらう」
「えっ!?」
「嘘!?」
「……」
リンクスとティアーの驚き方がそっくりだった。ブレイズは何も言わず、じっとレグルスを見つめている。そこに俺が口を出す。
「待った。こっちがブレイズを出したとして、そっちは何を賭けるんだ? 別にそっちから欲しい人材はいないぞ」
「お前、先輩だぞ! 敬語使えや!」
「そうだ!」
「落ち着け」
激昂するモヒカンと兜。俺の言い方が気に入らなかったようだ。それをレグルスは軽く止めていた。
「人がいらないなら、そうだな……なら、こっちは領地を賭ける。それでどうだ?」
賭け自体をうやむやにできればと思っていちゃもんをつけたが、うまくいかなかった。さて、どうしようか。
「……わかった」
「お?」
「ちょっと、ブレイズ?」
そこで今まで黙って話の成り行きを眺めていたブレイズが、初めて口を開いた。その視線はレグルスをまっすぐ見ている。
「……その勝負受ける」
「そんな!?」
「よし、決まりだな」
レグルスはニヤリと笑った。他の連中もニヤニヤしている。
「試合については、また改めて申し込みさせてもらう。今日のところはこれで帰るとしよう」
「楽しみにしてろよ」
「せいぜい待ってろ」
試合が決まった途端、百獣団はさっさと引き上げていく。俺達は突然の展開に戸惑って混乱していた。
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「ブレイズ! どうしてあんなこと言ったの!?」
ギルドホームに戻ってきた俺達は、それぞれソファーに座っていた。テーブルを取り囲むように四方向だ。一番奥がティアー、その左右に俺とリンクス、ティアーの向かいにブレイズだ。座った途端にリンクスが声を荒げる。
「……あのままじゃ、困ったことになってた」
「それはそうだけど! もし負けたら、移籍になっちゃうんだよ!?」
「……勝てば問題ない」
「だから根拠が無いでしょ!」
リンクスとブレイズの言い争いはヒートアップしていく。ブレイズは淡々としているが、若干声が硬い。俺は二人の言い争いを横目に、ティアーに話しかける。
「なぁ、ティアー」
「何……?」
「ぶっちゃけ百獣団の実力ってどの程度なんだ?」
ギルドランク三位と聞けばすごく感じるが、果たしてそれがどの程度の物なのか。基準が知りたいところだった。
「へ、平均レベル70くらいはいくって聞いたことあるけど……」
「70か……」
高校生にしてはかなり高いと言わざるを得ない。そう考えるとこの勝負、分が悪いかもしれない。
「だから、どうやって勝つつもりなの!」
「……それは努力するしかない」
「確証もないのに……!」
リンクスとブレイズの言い争いは続いている。俺は熱くなっているリンクスを抑えにかかった。
「まぁまぁ、落ち着け二人とも」
「ゴースト……でも……」
「気持ちはわかるが、冷静になれ。話が進まないだろ?」
「うん……わかった……」
リンクスは渋々だろうが、ソファーに座り直した。ブレイズはどこ吹く風だ。
「状況を整理しよう。まずティアー、ギルド戦は避けられないと思った方がいいんだな?」
「う、うん……校則があるから……」
「次に賭ける物だけど……うちのギルドの領地は……」
もう一度ティアーの方を見た。ティアーは悪さが見つかったかのようにビクッとしていた。
「こ、このギルドホームしかないかな……」
「そうだよな……」
「ご、ごめん……」
「お姉ちゃんのせいじゃないよ!」
立ち上がり姉を抱きしめに行くリンクス。よしよしと頭を撫でている。本当にどっちが姉なんだか。
「結局、受けるしかないってことか……」
「うん……そうだ! 賭けないってのはどうかな?」
「どういう意味だ?」
「だからさ、ギルド戦は受けないといけないかもしれないけど、特に賭けなきゃいけないってのは決まってないはずでしょ?」
「なるほど……!」
確かに一理ある。そもそも何かを賭けないでやればいいのでは?
「……でもそれだと百獣団は納得しない」
「それもそうだな……」
そもそもブレイズの勧誘で揉めたのが原因だしな。これでただ戦うだけと言われても、納得しないだろう。
「……例えばだけど、ギルドホームを賭けて負けたらどうなる?」
全員の視線がティアーへ向く。ティアーは視線をさ迷わせながら答えた。
「え、えっとギルドホームが無くなっても、一応ギルドは存続すると思うけど……」
「どっちがリスク高いかだが……」
「うん……」
俺とリンクスは腕を組んで考える。そこにティアーが更に口を挟んだ。
「こ、困るよ……!」
「お姉ちゃん?」
「こ、このギルドホームは先輩達から受け継いだものだから……無くしたくない……!」
「……」
いつものティアーと違って、気合いの入った声だった。それだけティアーにとっては重要だと言うことなんだろう。
「……じゃあやっぱり、私を賭けるしかない」
「でも……!」
結論として、そこに戻ってきてしまうよな。
「こうなったら仕方ないな」
「ゴースト……?」
「ブレイズの言うとおり、ギルド戦に勝つ。それしかこのピンチを乗り切る方法はないだろう」
他に道は残されていない。ここは腹をくくるしかない。
「うん……わかった! そうだね、勝つしかないよね!」
「……腕が鳴る」
「こ、怖いけど、頑張る……!」
三者三様にやる気を見せる。なんか俺がリーダーっぽくなってしまったな。そんなつもりは毛頭ないが。
「よし! みんな、ギルド戦勝利に向けて頑張ろう!」
リンクスの掛け声に合わせて三人でおー、と続く。
少しずつでも評価して頂けるように頑張ります!




