13戦目 部内序列
「それで早速なんだけど!」
リンクスがビシッと手を挙げた。何か提案するつもりらしい。
「ブレイズの実力を確かめたいな!」
「……望むところ」
ブレイズは立ち上がり、腕を組んで偉そうにしていた。やる気満々に見える。
「よーし、負けないよ!」
「……受けて立つ」
俺とティアーが呆気に取られている間にどんどん話が進んでいく。どうやら二人で対戦するつもりらしい。そういうことなら、俺も観戦させてもらおうか。
あっという間に対戦が始まる。俺達はギルドホームから揃ってステージへと移動していた。
観戦モードからステージを見下ろす。今回はステージ上に灰色の建物が乱立している。しかもどれもボロボロだった。これはおそらく『廃墟』ステージだ。
「ど、どっちが勝つかな……?」
隣に座るティアーがおずおずと話し掛けてくる。
「そうだな……ブレイズの実力は未知数だ。だが自信ありげなところから見るに、相当やるんじゃないか?」
俺としても結構楽しみだった。そうこうしているうちに、試合が始まる。
「いくよ!」
「……」
リンクスはいつものように腕を構えて走り出す。瓦礫の間をピョンピョン跳ねながら、素早く近づいていく。相変わらずすごい身軽な身体能力だ。何もない道を走ってるのと変わらないかもしれない。
「にゃあ!」
すぐさま距離を詰めると、最後に飛び上がり爪を振り上げる。あの速度でいけば、なかなかの威力だろう。
一方ブレイズはというと、棒立ちのままだった。リンクスが接近してくる間、動かずボーッと見つめているようにも見える。
「ど、どういうつもりかな……?」
「あれは……」
ティアーから質問が飛ぶ。だが俺が答える前に状況は動いた。飛びかかったところで、ブレイズが動き出したのだ。ブレイズは両手を腰に伸ばすと、何かを取り出した。そして素早く腕をリンクスの方に伸ばす。
「にゃっ!?」
バン、と音が響き渡った。 ブレイズが握りしめていたもの、それは銃だった。しかも両手に小型の銃を握った、二丁拳銃スタイルだった。
そこから赤いものが飛び出す。飛び出したものはリンクスに迫ったが、当たることはなかった。リンクスが空中で咄嗟に体をひねったからだ。間一髪のところで掠めた弾丸は、背後の壁へと向かう。そして着弾した瞬間、一瞬だけ炎が燃え上がったのが見えた。
どうやらブレイズは名前の通り、火属性だったようだ。しかも二丁拳銃を武器にしているとは珍しい。
リンクスは飛びかかるのに失敗し、その場に落下した。膝のバネを使って衝撃を吸収し、うまく着地していた。そしてそのまましゃがむと、また走り出した。
「……まだまだ」
一方のブレイズは右と左で交互に拳銃を撃ち、リンクスの動きを制限していた。一発目が避けられても、二発目が顔や胸など急所に襲いかかる。おそらく一発目は避けられるの前提で体勢を崩すため。本命はそのあとの二発目なのだろう。
「す、すごいね……」
「ああ……」
なかなかのセンスと言わざるを得なかった。しかもその場から一歩も動いていない。
「にゃ、にゃっ、にゃあ!?」
対してリンクスの動きも驚異的だった。あれだけ連射されながらも、一発も当たっていなかった。代わりにブレイズに近づくことができなくなっているが。
「……ちょこまかしないで」
「そんな無茶な!?」
戦いは膠着状態に陥っていた。攻撃のブレイズと回避のリンクス。どちらもダメージを与えられていない。
「……『炎の輪舞曲』!」
しびれを切らしたのか、ブレイズがスキルを発動させた。発射されたそれはさっきまでの小さな弾丸ではなく、進むにつれてどんどん膨らみ炎の輪を形成した。人間大の大きさまで広がった輪はリンクスへと迫る。
「とぉっ!」
これは決まったかと思ったが、リンクスは予想外の行動に出た。輪の範囲から出るでもなく、当たらない場所まで逃げるでもなく、前に出たのだ。そのまま飛び込むように飛び上がり、サーカスのように輪をくぐってみせた。そのままくるっと前転して体勢を立て直す。
「ライオンじゃなくて、山猫だよな……」
「あ、あはは……」
俺は思わずぼやいた。ティアーも隣で苦笑している。
見事炎の輪を回避したリンクスは再び走り始めた。そのままダッシュでブレイズに再度迫る。
「にゃ!」
「……!」
だんだん回避に慣れてきたようだった。リンクスとブレイズの距離は徐々に縮まっている。そして再び至近距離までたどり着いていた。
「『猫招き』!」
リンクスがスキルを繰り出す。対してブレイズはどう出るか。そう思っていると、ブレイズは銃をクロスするように突き出して、受け止めようとした。爪と銃がぶつかり、鈍い音が響く。
「にゃああああ!」
「……!?」
だが、ただの防御とスキルではどちらが優勢か明白だった。リンクスは力任せに押しきってしまう。袈裟懸けにブレイズの体が切り裂かれ、かなりのダメージが入った。
ブレイズは後退りしながら、体勢を立て直す。リンクスは距離を取らせまいとさらに近づいていく。
「これは厳しいかもな」
「き、厳しいって……?」
「リンクスはバリバリの接近戦タイプだろ?」
「う、うん……」
「対してブレイズは銃を使った遠距離タイプだ」
単純な話、近づかれてしまっては銃の特性を活かすことができない。しかもリンクスの方が速いから、一旦近づかれると引き離すのも難しい。
「それにしても……」
「ど、どうしたの……?」
「いや、なんでもない」
今は別に言うことじゃないだろう。ブレイズに聞いてみないとわからないし。
「これでとどめっ!」
「……しまっ!?」
リンクスが片手で銃を弾き、ガードをこじ開ける。そして最後にブレイズの腹部を狙った一撃で勝負がついた。
▼
「……むう」
「いやー、強かったね!」
戻ってきた二人の顔を対照的だった。ブレイズはものすごく不満そうで、リンクスはご機嫌だ。
まぁ負ければ悔しいし、勝てば楽しい。当たり前のことだ。そう、俺も昔はそうだったな……。
「? ゴースト聞いてる?」
ぼんやり考えていると、話しかけられた。ハッと意識を戻すと、リンクスが俺の顔を覗き込んでいた。
「いや、なんでもない。ちょっとボーッとしてしまっただけだ」
「もー、しっかりしてよ」
「悪い悪い」
リンクスは気を遣ってくれていたようだ。心配ないとわかると、笑顔を見せてくれる。
「それで、何の話だった?」
「だから、ゴーストのレベル上げを手伝わないか、って話だよ」
「えっ……」
俺は慌てて周りを見渡す。ティアーもブレイズもこっちを見ていた。
「ゴーストもずっと戦えないままじゃ、つまんないでしょ? だからゴーストも鍛えようと思って!」
ニコニコしながらリンクスが提案してくる。誘いはありがたいのだが……。
「いや、俺はいいかな」
「えー、どうして……?」
「俺はあくまで回復役だし、そんなに強くならなくてもいいよ」
俺は決めたんだ。もう過酷な戦場に戻らず、平和に暮らすって。
「でも……」
まだリンクスは食い下がってきそうな口振りだった。なので、俺はすかさず話題を変える。
「それより、ブレイズの戦いをもうちょっと見たいな」
「……やる?」
ブレイズが立ち上がった。その目はやる気に満ちている。
「という訳でティアー、お願いします」
「ふぇっ!?」
静かに俺達のやり取りを眺めていたティアーだったが、突然話を振られたことで変な声を出していた。
「ななな、なんで私なの……!?」
「いや、三人の中で誰が一番強いのかと思って」
「そ、そんなぁ……」
「……早速行こう」
「あ、え、うん……」
ブレイズは顔を近づけて、グイグイと誘っている。押しに弱いティアーは断りきれずに、メニュー画面を操作していた。
「楽しみだねー」
「水のティアーと炎のブレイズ、普通に考えたら相性は歴然だがな」
俺とリンクスはさっさと観戦モードに入っていた。暗くて見えなかった風景が、徐々に明るくなっていく。
「あちゃー……」
思わず声を上げてしまった。ステージは、黒い地面の上に赤く光る流れが何本も通る場所、『火山』ステージだった。これは炎属性のブレイズにとって有利だろう。
「火山だと、マグマに触れた場合、ダメージを受けるからな」
「いやいやわかんないよ。お姉ちゃんが水属性で有利なのに変わりはないんだし」
俺の発言に異論を唱えるリンクス。確かにそういう見方もあるか。
「……行く」
「お、お手柔らかに……」
ステージ上では、銃を構えたブレイズと薙刀を持ったまま腰が引けてるティアーが向かい合っていた。まもなく試合開始の合図が鳴り響く。
「……ふっ!」
先に動いたのはブレイズだった。まっすぐに腕を伸ばして銃を撃つ。赤い光の弾丸が何発もティアーを狙い撃つ。
「こ、来ないで……!」
ティアーは徹底して回避し続けていた。しかもマグマを踏まないように、器用に足元を見ながら。
「避けるのはめちゃめちゃうまいよな……」
「それがお姉ちゃんの取り柄だからね!」
リンクスは胸を張っているが、それだけでは威張れないと思うぞ。
「……むう」
しばらくブレイズが攻撃していたものの一向に当たる気配はなかった。しかもティアーは避けるばかりで前に出ようとはしない。結果として膠着状態になっていた。そして、またしても痺れを切らしたのはブレイズだった。
「……『炎の輪舞曲』!」
スキルを発動させた。巨大な炎の輪がティアーへと迫る。
「『涙雨』!」
対してティアーは回避ではなく、迎撃に出た。スキルによる水の弾が無数に弾け飛ぶ。そのうちほとんどは不発に終わったが、一部は炎の輪に当たり相殺される。
あちこちが途切れた炎の輪は歪んだ形の炎に変わり、そのままティアーを襲った。
「えい! ……うっ!?」
薙刀を振ることで薙ぎ払おうとしたティアーだったが、長い棒一本では完全にうまくはいかない。炎は体のあちこちを掠めていた。
「……チャンス!」
ここぞとばかりに弾丸を連射するブレイズ。どうでもいいが、弾切れのこととか考えているんだろうか。弾丸は無限に撃てる訳ではなかったはず。
「うーん、これはお姉ちゃんが不利かな?」
試合前の予想をあっさりと翻すリンクスだった。姉贔屓ではなく、客観的に状況を把握してるとも言える。
「だろうな。基本的に防御に徹してるし、近づいてこない相手には相性が悪い」
「お姉ちゃんは前に出るのすごく苦手だからねぇ」
姉の苦戦に苦笑している。確かに妹はバリバリの近接タイプだし、妹と戦う分には問題ないのだろうが。
「決着が着くのも時間の問題かね」
俺が呟いたからではないだろうが、まさに決着が着こうとしていた。遠距離でじわじわ削り続けて、ティアーのHPはほぼ限界になっていた。
結局、危なげなくブレイズが勝利を修めていた。
▼
「お疲れ様、お姉ちゃん」
「こ、怖かったよぉ……」
ティアーは妹に抱きつき、精神の安定を図っていた。そんな姉の頭をよしよしと撫でるリンクスだった。
「……勝利」
「やるじゃないか」
一方ブレイズは口元がほんの少し笑っており、勝利を喜んでいるのがわかる。
なんとなくだが、力関係がわかった。リンクスはブレイズに勝ち、ブレイズはティアーに勝つ。そしてティアーはリンクスに勝つと。三竦みのような戦いの結果になっている訳だ。
「と、なると俺だけが場違いだな」
俺はひっそりと自身の境遇について、寂しく思うのだった。




